忍術学園には三年に一回、低学年全員にある課題が出される。
三年に一回――つまり生徒全員が一回ずつする事になるその課題の名は。
食堂で偶然出会った後輩に、は尋ねた。
「はい、久々知先輩にしようと思って。」
「あ、私もだよ。一緒にしない?」
「いいですね、そうしましょう。」
「じゃあ、今日の委員会前にでも計画立てよう。」
「わかりました!」
が食堂から出て行った後、庄左ヱ門が「二人は本当に仲いいよね。」と呟いた。
「本当に全く同じ内容なんですね。先輩と同じ課題なんて何か不思議です。」
「本当だね。伊助君はよく気がつく性格だし、頼りにしちゃおう。」
「えー、僕そんなに頼れるタイプじゃないですよ……あ、久々知先輩!」
「おう。二人とも速いな。宿題やってたのか?」
火薬庫の鍵を開けつつ、兵助は二人の持っているプリントに目をやる。
「先輩観察です!」
「おー、懐かしいな。誰観察するんだ?」
「誰って、久々知先輩ですよ。」
「え、私!?」
が言うと、兵助はひどく驚いた。
「なんでそんなにびっくりするんですか?」
「いや…予想していなかった。そうか、“身近な先輩”だもんな。何か観察されてると思うと緊張するな……。」
「先輩、普通にしててください! ふつーに!」
「よし、まとめよっか。」
と伊助の二人はそれぞれ観察しやすい時間などが違ったため、役割分担をして観察した。
伊助が主に授業時間内や昼休みで、それ以外の時間がの担当。
「えーと。久々知先輩の朝はだいたい早い。朝ご飯は週に5回は豆腐定食。」
「授業では準備や片付けを進んでしていました。五年ろ組の先輩たちといるときも、自然とまとめ役です。」
「委員会の時も私たち後輩にてきぱき指示を出して、自分の仕事もしっかりする…と。」
二人で発表し合った“久々知兵助像”は、いつもの頼れる先輩そのものだった。
「まわりをよく見ているんですよね、久々知先輩って。人も物も。忍者の必須項目です。」
「本当。だから頼りになるんだよね。伊助君と似てる。」
「へっ? 僕ですか?」
きょとんとした伊助に、は真面目な顔で頷く。
「うん。だって伊助君もよくまわりを見ているでしょ? だから、他の人がなかなか気付かない小さなことにも気付ける。私はそういうの苦手だから羨ましいし、つい頼っちゃうの。」
照れくさいような、嬉しいような。
伊助の中に不思議な感情が芽生える。
「…そんな風に言ってくれたの、先輩が初めてです。」
兵助やタカ丸などもそうだが、も伊助を“一年は組”という色眼鏡を通さずに見ている。
“アホのは組はみんなアホ”という目で見る人間は決して少なくはない。
だからこそ、純粋に自分へと向けられた誉め言葉が、死ぬほど嬉しい。
「そうなの? みんな伊助君のいいところを言わないなんて、もったいないな。」
乱太郎やきり丸みたいに突出した才能があるわけでも、庄左ヱ門みたいに秀才なワケでもない、どちらかというと目立たない自分。
知らないうちに感じてたコンプレックスが、さらさらと砂のように飛んでいった気がした。
「伊助君は誰を観察するの? やっぱり火薬委員会の先輩?」
「期限は二週間、目的は先輩の忍術の腕や普段の暮らしぶりなどを観察・記録して自分のそれと比較し、今後の学園生活や忍術の学習に生かす……と。」
なんだかんだといろいろあったが、一週間後、観察は何とか無事に終了した。
伊助にとっての=“自分”を見てくれる人
にとっての伊助はまたそのうち。