「わ〜、いい匂い。」

「先生の出張が今日でよかったわよね、本当。」

笑いながら話す二人の目の前で、焼き芋が美味しそうに出来あがった。


焼き芋の日〜彼女と小松田秀作の場合〜


話は半時ほど前に遡る。

「二人ともありがとうね。おかげで気兼ねなく行ってこれたわ。」

「あ、お帰りなさーい。」

四年くの一のは、私用で出かけた食堂のおばちゃんの代わりに昼食の洗い物をしていた。

たまたまこの日は教師の出張で午後の授業が無かったのだ。

「これお礼よ。向こうでたくさんいただいたのよ〜。」

そう言っておばちゃんが差し出したのは、かごいっぱいのさつまいも。

あまりに大量なのでどうしようかと考えた結果、焼き芋にして色んな人におすそ分けをすることにした。

丁度タイミングよく従姉妹たちが次々現れたため、彼女達に二つずつ分け、残りは四つ。

「私たちも二つずつ持ってく?」

「そうね、そうしましょ。」

二人は風呂敷に自分の分の焼き芋を包んで枯れ葉の掃除をし、

「じゃあね。」と言っては自室へ、は委員会へと向かった。


二つのうち一つは自分が食べるとして。

「もう一つはどうしようかな…。さすがに二つは多いよね。」

昼食ならともかく間食に焼き芋二つは色々と危険だ。

考えながら自室へと向かっているその時。

「……あれ?」

事務室付近に落ち込んでいる青年の姿が見えた。

誰か、なんて誰でも想像が付く。もちろん、小松田秀作だ。

は気になったものの、関わったらロクな事にならないのは簡単に予想がついたため、知らんぷりを決め込んだ……が。

「……あ、ちゃん?」

ちょうどタイミング悪く秀作が顔をあげたため、見つかった。

ちゃん、聞いてよぉ〜。」

三つも年上とは思えない情けなさには呆れながらも、

「……どうしたんですか?」と尋ねた。

「あのね、お昼前に来たお客さん、出門表にサインせず帰っちゃって慌てて追いかけたんだ。そんで学園に帰ってきたら食堂のおばちゃんが出かけてて、ご飯食べれなかったんだよ……。」

「はあ…。」

サインの仕事に執着しすぎなけりゃいいのに……と思うが、口には出さない。

ぐうう〜、と鳴った大きな音は秀作の腹の虫。

「……小松田さん、焼き芋食べますか?」

は持っていた風呂敷から焼き芋を二つとも取り出した。

とたんに、秀作の顔がぱあっと輝く。

「いいの!? これもらっていいの!?」

「どうぞ。あんまりかわいそうだから、恵んであげるだけですよ! 普段はこんなことしないんですから!」

「うん、本当に助かる! ありがとう!」

(あーあ、食べるの楽しみにしてたのに。)

「本当にありがとう! 今度何かお礼をするよ。」

(その“お礼”ってのも微妙に不安だけど…。まあいいか。)

ゆるんだ笑顔で焼き芋をほお張る秀作を見ると、なんだかどうでもよくなるだった。


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