忍術学園には三年に一回、低学年全員にある課題が出される。

三年に一回――つまり生徒全員が一回ずつする事になるその課題の名は。


先輩観察日記
〜姉様、何だかんだ二人はいいコンビだと思うよ 編〜


皆様こんにちは。

“皆様”が一体誰なのか僕にはさっぱり分かりませんが挨拶をしておけと天の声が聞こえたので、一応。

僕は忍術学園の二年生、

プロくの一と四年生の各一名、計二名の姉を持つ末っ子長男です。

さて、今日一〜三年生全員に先輩観察の課題が出された訳ですが。

委員会の先輩を観察対象にするのが一番手っ取り早いのですが、僕は生物委員会。

下級生六人全員に観察されたんじゃ竹谷先輩も大変だと思うので、下の姉、を観察することにしました。


「そんな訳でよろしく、姉様。」

一緒に昼食をとりながら、は淡々と言う。

「それは別にいいんだけどさ。あんた、やりにくくない? 男子はくの一教室には入れないじゃない。」

「ご心配なく。図書当番の時間とか今みたいな休み時間とか、姉様がこっちに来ている時に集中してやるから。」

「そう。ところであんた今日授業のあと何か用事ある?」

ごちそうさま、と手を合わせた後では尋ねた。は首を横に振る。

「掃除が終わったら何もなし。」

「そう。ならちょうどいいわ、私と一緒に図書室で課題やろうと思ってるの。あんたも来る?」

「うん、じゃあそこを観察する。」

「よし、決定――」

廊下からドダドダ、と騒音が聞こえてきた。の顔が引きつる。

「姉様?」

「こ、この足音は……。」

「うわああああああん、ちゃーん!!」

16歳とは思えないほど大泣きしながら食堂に入ってきたのはへっぽこ事務員、小松田秀作。

「小松田さん?」

「やっぱり…。」

は秀作が泣きながら姉の名前を叫ぶ理由がいまいち理解できずにいるが、本人は慣れているらしく、

げんなりしながらも「今日は何ですか?」と尋ねた。

「うっうっ。僕ね、授業用のまきびしを磨いてくれって言われたから、がんばってぴっかぴかにしたんだ。」

「はあ。」

「で、倉庫の棚にしまおうとしたら床がはがれてて、つまづいて転んでまきびし全部落として、踏んづけたし体にも結構刺さってすっごい痛いんだよ〜。」

なるほど、確かにめそめそ泣いている秀作はよく見たらボロボロで血が出ている。

「そりゃ災難でしたね、でもなんで私のところに泣きに来るんですか? 保健室に行って消毒してもらってください。」

「痛いよー、痛いよー。」

「話聞いてくださいよ、まったく……。、しょうがないから私小松田さんを保健室に連れて行くわ。また後でね。」

「あ、うん……。」

二人が出て行ったのとほぼ同じ時間に午後の鐘が鳴り、は慌てて残りの野菜炒めを口に運んだ。


「聞いてよ、けっきょく私あのあと午後の授業遅刻したのよー。」

「まあまあ、山本シナ先生がおばあちゃんの方だったからお咎め少なくて済んだじゃないの。」

「不幸中の幸いだね。」

放課後、図書室。中在家長次は不在だったが念のため三人は小声で話をする。

「小松田さん、なんでわざわざ姉様のところに来たわけ?」

ってばいい質問! 二人の間には深〜い訳があってね。」

、あんた楽しんでるでしょ…。、深い訳なんてないから! 小松田さんが学園に来てすぐのころ、たまたま本の整理を手伝ったことがあって。」

「その縁ですっかり懐かれたのよね。ほら、ってなんだかんだ文句言いながらも面倒見いいじゃない?」

「やめてよ、私は小松田さんに泣きつかれるのがうざったいから、仕方なくいつも相手してるだけなのよ。」

「そんなにしょっちゅうなんだ。」

「そうよ、もーいい迷惑……。」

ちゃーん!!! 助けてー!!」

「しー!!!」

勢いよくドアを開け大声で叫んだ秀作に、とこの日図書当番のきり丸は大急ぎで人差し指を口に当て、注意した。

「事務室でゲホゲホ、煙玉をね、ゴホゴホ使ってみたくて、そしたらゲッホゲホ、事務室内にすっごく煙がゴホゴホ、大変なんだよ〜!」

涙と鼻水と咳まみれで、には彼が何を言っているかさっぱり分からない。

「なんで事務室内で使うんですか! ていうかそもそも備品いじってる時点でおかしい!」

「え、姉様今何言ったか分かったんだ。」

「忍者っぽいでしょ? 煙玉。かっこいいと思って…。」

「阿呆ですかあんたは!」

先輩まで大声出さないでください! 中在家先輩がいたら間違いなく攻撃されてますよ!」

「ごめん、きり丸……。」

「このままじゃ吉野先生にまた怒られるよ〜。ちゃん、助けて〜。」

「自業自得でしょ、私は知りません。」

「そ、そんなぁ〜。」

怒ってぷいっと顔を背けるの態度に、秀作は余計に泣き出した。周りの視線が二人に突き刺さる。

「……分かりましたよ、煙逃がすの手伝います! ほら、さっさとしてください!」

「本当!? ちゃんありがとう!」

二人が出て行ったことで、図書室に静寂が戻った。

「行っちゃった。」

姉、僕姉様と小松田さん観察してくるよ。」

「ああ、いいかもね。困りごとの対処って上級生の姿っぽいし。」

「……姉様ってさ、小松田さんにとって一番頼れる存在なんだよね、きっと。」

「そうね、私もそう思う。案外いいコンビなんじゃない?」

「ほんとにね。」


弟から見た二人、というテーマの割にが出張ってる。そして私は小松田さんを何だと思ってるんだ。

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