心がモヤモヤする。

モヤモヤ


あいつとは、いつも一緒にいた。

物心がついたときから、毎日そばにいた。


「リック。おはよう。」

「やあ、カレン。」

20年以上変わらない、ノー天気な笑顔。

幼馴染のリックが、今朝もうちに来た。

2人で毎朝、外のベンチで他愛もない話をすることは、長年の日課。

まあ、だいたい最近の話のテーマは、リックのカイに関する愚痴や、鶏のこと、家族のことなんだけどね。

だけど、その日は違った。

「なあ、カレン。クレアさんにはもう会ったかい?」

え?

「クレアさん、って確か、あんたとこの養鶏場の隣の牧場に引っ越してきた……。」

「そうそう。嵐で流れ着いた子なんだ。行くあてがないって、牧場に住むことになった。」

へえ……。

「大変なのね……。」

「だからさ、彼女と仲良くしてあげて欲しいんだ。知らない人間ばっかりで、不安だろうから。」

「うん……。」

根が優しい…というかお人好しのリックだから、そう思うのは当然だろう。

私だって、そんな話を聞いた以上は彼女の力になってあげたいって思う。

だけど、何だか嫌な予感がした……。


「カレンー。」

「おはよう、クレア。」

クレアがミネラルタウンに来てから1ヶ月。

彼女は持ち前の明るさと優しさで、既にすっかり町の一員として、みんなになじんでいる。

「今日は何を買いに来たの?」

「えーとね、夏野菜の種とー……。」

自分でいうのもなんだけど、私も結構気さくな人間だから、彼女とはすぐ打ち解けた。

私の家は雑貨屋で、よく彼女が訪れる場所でもあるから、それも関係あるだろうけどね。


「ねえ、カレン。リック君ってさ、優しいね。」

「え、え?」

いきなりクレアの口からリックの名前が出て、私はガラにもなく驚いてしまった。

「この間ね、私山で迷っちゃったんだけど、リック君が探しに来てくれたんだ。」

「へえ………。」

そういえば、リックが言ってたっけ。

『クレアさん、しっかりしてそうに見えて結構抜けてるんだ。方向音痴だし。』

って………。

「頼りになるよね。」

「そ…そうでもないわよ?」

え、何言ってるの、私。

「今でこそだいぶまともになったけど、昔はよくあたしに泣かされててねー。」

「え、そうなんだ。」

「そうそう、それに好き嫌いも多かったのよ。」

何言ってるの、私。いや、真実よ。真実を言ってるんだけど。

なんで私、クレアにこんなこと言ってるんだろう。

「そうなんだ。何か意外だねー。」

笑いながらしゃべる私たちは、店にいつの間にかリックが入ってきたことに気付けなかった。。

「カレン?クレアさんに何を吹き込んでるのかなぁ?」

げっ。

「あ、リ、リック君。」

クレアも、「あ、マズイ。」って顔になった。

「こんにちは、クレアさん。カレンの言ったこと、全部ウソだからね。」

「え?」

「あら、私が言ったのは本当なんだから。ね、クレア。信じてくれるでしょ?」

「え、え?」

「カレン!」

あーあ、こんな風にリックと喧嘩したいわけじゃないのに……。


謝ったほうがいいのかな。

謝ったほうがいいのよね。

次の日の朝、私はいつもみたいにベンチでリックを待つ。

結局あの後、盛大な口げんかに発展して、クレアが必死に止めてくれたのよね…。

「はあ……。」

昨日のあの喧嘩のあとから、何度目のため息だろう、これ。

ああ、なんだか心がモヤモヤする。

「カレン。」

いつもと同じ時間にリックは来た。

「……おはよう。その、昨日はごめんなさい。私、つい言いすぎちゃって………。」

私、少しの沈黙のあと、あわてて謝る。

「僕も、ごめん。言い過ぎたね……。」

お互いに謝って、それで解決。

「クレアさんが絡んでいたから、ついカッとなっちゃって。」

「そう……。」

クレアとリックは、惹かれあっている。

はっきりと、私には分かった。

「悪かったわね。今度機会があったら2人っきりにでもしてチャンス作ってあげるから、許して?」

私がそういうと、リックは真っ赤になって、

「チャ、チャンスってなんだよ!」

って言った。

そう。

さっさと2人がくっついて、結婚でもなんでもすればいいんだわ。

そうすれば、きっと心のモヤモヤもなくなる――。

<おしまい>



分かり辛いけど、カレン→リック→←クレア的な。

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