「ペリッパー、戦闘不能!勝者、挑戦者のカイト!」
「……ありがとうございました。次はジムリーダー戦です、頑張って下さいね。」
「はい!」
ここ数週間、は調子が悪い。
10数回程度こなしたジムでのバトルは全て負け、同じジムの他のトレーナーはもちろん、たまたま尋ねてきていたダイゴやルネシティに住んでいる知り合い、果てはわずか11歳の末の妹にまで心配されるようになってしまった。
「ごめんね、みんな……。」
ポケモンセンターへ向かう足も重い。
にとってこのようなスランプは初めての経験だった。
ハナダにいた頃も調子の悪い時期はあったが、カスミと喧嘩をしたとか本当に体調が悪いとか、何かしら他の原因があった。
「とにかく、練習をしないと。ひょっとして、単に挑戦者たちが強くなっただけかもしれないし。」
そうだとしたら、悪いのは自分の練習不足。
原因が分からないままモヤモヤしているよりは寧ろその方がよかった。
今日は休日。
はいつもの自主練に来ているが。
「みんな、どうしたの?練習しようよ。」
のポケモンたちは、彼女を睨んだまま動こうとしない。
「…何で?今までずっと一緒に頑張って来たじゃない、こんな時に限ってそんな……。」
不安な気持ちがますます高まったは、とうとうベソをかき出した。
その時。
「いつも熱心ですね、さんは。」
一体いつからそこにいたのか、が振り向くとそこにはミクリが立っていた。
「最近、調子悪いみたいですね。」
「す、すいません。」
(怒られる…?)
ミクリはに近づいていく。
は、思わずびくっと体を強ばらせた。
だが、彼女の予想に反してミクリはにっこり笑い、言った。
「散歩行きましょう。」
「…へ?」
「ですから、散歩。ぺりーさん達も一緒に。」
はポカーンとしていたが、一瞬遅れて状況を理解した。
「待ってくださいミクリさん、私たちバトルの練習しないと…。」
が言うと、ミクリは真面目な顔をし、彼女に向き直った。
「さん、これはジムリーダー命令です。散歩に行きましょう。」
二人は会社で言うと、上司と部下のような立場。
「じゃあ、少しだけ…。」
“命令”なんて言い方をされたは逆らえなかった。
「着きました。ここですよ、さん。」
「わあ……!」
ここはルネから少し離れた海岸。
の目の前には綺麗な景色が広がっていた。
「すごい……同じ海なのに、さっきまでなみのりしていた海とは全然違う!」
ポケモンたちも彼女の隣でキラキラと目を輝かせている。
「気に入って頂けましたか?」
「はい!」
が答えると、ミクリはにっこりと笑った。
「それはよかった。」
「私もね、かつて貴女と同じような経験をしたんです。」
「ミクリさんも…?」
二人は砂浜に腰掛けて話をしていた。
ポケモンたちは少し離れたところでのびのびと遊んでいる。
「今の貴女と同じジムトレーナーだった頃です。」
は黙ってミクリの話を聞いている。
「一生懸命やっているつもりなのに結果にならない。練習を増やしても状況は変わらない。相当落ち込みましたし、いつもイライラしていました。」
自信に満ち溢れているジムリーダーのミクリしか知らないは意外に思った。
「そんな時、師匠に言われたんですよ。散歩でもして、気分転換しなさいって。」
はミクリの師匠アダンと会ったことはないが、ミクリから多少話を聞いたことがある。
「それで、ふらふらとなみのりしていたらこの場所を見つけたんです。しばらくここに居ただけなのに不思議ですね、バトルの調子が元に戻ったんですよ。」
それ以来お気に入りの場所なんですよ、と彼は付け加えた。
「そうなんですか…。本当に、いいところですね。連れてきてくださってありがとうございます。」
日が傾き始めた頃、二人は「そろそろ帰りましょう」と腰を上げた。
ポケモンたちを呼びに行こうとしたをミクリは「ちょっと待ってください。」と呼び止めた。
が振り返ると、ミクリはとても穏やかな顔で
「よかった。」と言った。
「よかったって、何がですか?」
が尋ねるとミクリは急に彼女の方に自分の手を伸ばし、そのまま頭をぽふぽふと撫で、言った。
「やはり貴女は笑っている方がいい。」
「…へっ。」
思わず変な声を出してしまったを見、ミクリはくすくすと笑った。
「じゃ、ポケモンたちを呼んできますね。」
の頬が赤くなるのに時間はかからなかった。