「さん、今よろしいですか?」
「あ、はい。何ですか?ミクリさん。」
「貴女が好きです。」
それはある日のこと、ルネジムの事務室にて。
はぽかんとしたが、自分の手からバサバサと書類が落ちたことにはっとし、慌ててそれらを拾いながら、
「え、え?すみません、私耳が悪くなったみたい……それとも頭かな……と、とにかく今、ミクリさん何ておっしゃったのかがよく分かんなくて……。」
混乱状態のまま、そう言った。
そんなを見てミクリはくすくすと笑い、もう一度言った。
「貴女が好きです。私の恋人になって頂けませんか?」
はっきりと完璧にミクリの言葉の意味を理解したの叫び声が、ルネジム中に響いた。
「……落ち着きましたか?」
「え、え、ええ?」
未だの混乱は解けていない。
慌てふためる彼女に対し、ミクリはずっと笑顔だ。
(ああ、可愛らしいなあ。)
と、そんな事を考えたが、口に出すとがもっと大変な事になると、考えるだけに留めた。
「じ、冗談とか、ドッキリとか、え、エイプリルフールとか……ではないですか?」
ミクリの先程の言葉を、は信じられない。
ミクリは心外だという顔をし、
「……信じて頂けませんか?」
と言った――切なそうに。
当然、はうっと申し訳ない気持ちになる。
「し、信じないんじゃなくて、えーと……。」
はより一層あわあわとする。
「なら良かった。返事、考えておいて下さいね。」
笑顔でミクリはそう言った。
「どうしよう………。」
それから数日の間、はひたすら悩んでいる。
だってミクリの事は嫌いじゃない――否、むしろもミクリの事が好きだ。
日頃何かと気にかけてくれて、親切にしてくれるミクリを、いつの間にかは好きになっていた。
だが、好きだからこそ、ミクリの告白に首をあっさり縦に振ることが出来なかった。
眉目秀麗、優秀ジムリーダー、人を惹きつける人格。
そんなミクリだから、彼を好きな女性は数多い。
童顔、低身長の自分は彼に似合わない。
そう思っていたのに。
『貴女が好きです。』
ミクリは確かにそう言った。こんな自分に。
(……どうして?)
もちろんそう言って貰えたことは嬉しかったが、それ以上に
“なぜ、どうして”“こんな自分でいいのか”というネガティブな思いがを支配した。
彼には、他にももっと釣り合う女性がいる。
実際、時々ジムに現れる“ミクリの知り合い”という女性もみんな綺麗な大人の女性で、
彼女らを見るたびは自分が子供っぽい外見であることを嫌でも自覚していた。
戸惑い、悩み、考えて、気付けば1ヶ月近く経ってしまった。
「返事……考えて頂けました?」
の心境を知ってか知らずか、ミクリはたまたま二人になった時、優しく尋ねた。
「……あ、あの。」
これ以上返事を伸ばし伸ばしにするべきではないと気付いたは、自分の思っていることを伝えようと決心する。
「私……分かんないんです。どうしてミクリさんが、私なんかを好きって言ってくれたのか。私、子供っぽい見た目だからミクリさんには…
釣り合わないって、ずっと思ってて。もっとミクリさんに似合う女の人がいっぱいいるはずなのにって。
好きって言ってもらえた事………嬉しかったのに、すごく戸惑って。」
ミクリは黙って彼女の話に耳を傾けていたが、が話し終えるとぽんぽんと優しく頭を撫で、言った。
「どうしてそんなに自分を卑下するのです?私が外見のみで好きな女性を決めるとお思いですか?」
「え……。」
「もちろん、さんは可愛らしい方ですが、それだけではありません。いつも向上心を持って一生懸命な所も、妹さんたちの事を気にかけている優しい所も、毎日温かい笑顔でいる所も。それら全部がさんの魅力だと私は思いますし、好きになったのですよ。」
は顔を真っ赤にし、嬉しさで泣き出しそうになりながら
「………私で、いいんですか?」
と言った。
そんな彼女をミクリは優しく抱きしめ、言った。
「何言ってるんですか、あなたがいいんですよ。」