――ああ、もう5日になる。

いつになったら来てくれるのだろうか。

彼女欠乏症候群

ルネのジムトレーナー、はこの5日間、仕事を休んでいる。

理由はただ一つ、季節外れのインフルエンザ。

ジムリーダーで彼女の恋人でもあるミクリはここ数日、バトル中以外はずっとため息ばかり。

「ミクリ様……そんなに気になるんでしたらお見舞いに行ったらどうですか?」

見かねたジムトレーナーの1人がそう言ったがミクリは首を横に振った。

「行けるものなら行ってますよ…。」

「……と言うと?」

「最初に“休みます”って連絡が来たときに言ったんですよ、見舞いに行くって。だけど、“うつるから来ない方がいいですよ”って……。」

万が一ミクリにうつった場合、ルネジムはミクリが完治するまで閉鎖しなければならない。

挑戦者を始め様々な人に迷惑がかかる。

ミクリ自身が誰よりもそれを理解しているため、こうしてジムで彼女が治るのを待っているのだ。

「今頃どうしているんだろう……熱は下がっただろうか……。」

1人つぶやき、またため息をついた。


「……で、僕に何の用事なわけ?」

「ダイゴ、お前君からの様子聞いてないか?」

「うん、インフルエンザってのは聞いたよ。大変そうだね。」

「ああ、体調はどんな感じか聞いてるか?」

ゆっくり休ませるべきだと判断し、ミクリからは電話も何もしていない。

だから彼女の下の妹と仲がいいダイゴを呼び出し聞いてみたが。

「や、なんかちゃん、ちゃんのインフルエンザが治るまで家帰んないことにしたんだってさ。
元々今は家から遠いところをずっと旅してるし、ひみつきちに寝泊まりしてるって。」

「……チッ、役に立たない。」

「はあ!? ミクリ、ちゃんに何てこと言うんだ!」

「お前のことだよ。」

「僕関係無いよね!?」

――そうだよ、関係無いよ。

涙目のダイゴにミクリは心の中で謝った。


「勝者、ジムリーダーのミクリ!」

「ふう。」

がいない間は明らかにミクリがバトルをする回数が増えている。

もっとも、決して他のジムトレーナー達が不甲斐ない訳ではないが。

バトルだけではない。

例えば休憩時間中に「お疲れ様です」と声をかけるのも、紅茶を淹れてくれるのも。

がこのジムに来る以前は何も感じなかったけど、他の者がそれをすると違和感を感じる。

彼女たちに悪いと、十二分に分かっていても。

に数日間会わないだけで、普段は余裕綽々な自分がこんなにも不安定になる。

出会ってわずか数ヶ月で、こんなにもの存在が自分の中で大きくなっていたのだ。

今回のことでミクリは改めてそれを自覚した。

格好悪いと思いながらも、そんな自分も何だか悪くないな、と感じた。


その日の業務が大体終わった頃、ジムの電話が鳴った。

「はい、こちらルネジムのミクリです。」

『ミクリさん、お久しぶりです。です。』

「…!」

『はい。ずっと休んでいてすみません、もう熱も下がったので、明日から出勤しますね。』

のその言葉で、ミクリの表情が明るくなる。

「そうか、治ったんだな、よかった……。」

明日、久しぶりにに会えるのだ。

ミクリはほっとした後、ひとつ思い付いた。

。明日、いつもより早めに来れるか?」

『早めって…どの位ですか?』

「そうだな……30分でいい。」

『はい、分かりました。じゃあ失礼しますね、おやすみなさい。』

「ああ、おやすみ。」


「おはようございまーす。」

翌日、はミクリに言われた通り早めに来た。

奥に向かって挨拶をすると、すぐにミクリが出て来た。

!」

氷を滑っての元まで来たミクリは、そのままぎゅっとを抱きしめる。

「うにゃっ。」

突然の行動に驚いたは思わず変な声が出て、その声と今の状態両方が恥ずかしくなり顔を真っ赤にした。

、見舞いに行けなくてすまない。」

「い、いいえそんな…私が“来なくていい”って言ったんですし。」

……やっと来てくれたね。寂しかった、会いたかった……。」

耳元で大好きな人の大好きな声で囁かれたは益々顔が赤くなったが、何とか、

「私も、ずっと寂しかったです。寝ている間、ミクリさんの事ばかり考えちゃいました……。」

と言った。

それを聞いたミクリはにっこりと笑顔になり、

「それは嬉しいな。」

と、の頬に優しくちゅっと口付けた。



ミクリが敬語じゃなくなったのは彼氏彼女になったからだと思う。

早めに来るよう言ったのはもち、いちゃこらするため。ミクリ×はとにかくバカップルでいきますよ〜

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