12月25日。
がルネジムに来てから、そしてミクリと恋人同士になってからはじめてのクリスマス――。
ルネジム休憩室にあるカレンダーを何気なく見たは、ある一点に気が付いた。
「ミクリさん、これって……。」
言っている途中で言葉が止まった。振り向いたすぐ後ろに整った顔があったからだ。
「ん、どうした?」
なんてことない普通の問い掛けのはずが、それをミクリが発しているだけでの心臓がきゅんと跳ねる。
恋人同士となったのは昨日今日の話ではないのに、ミクリの一挙一動にときめきを感じずにいられない。
「…あ、あの。クリスマスの日ってジムお休みなんですね。」
慌ててヤドンを思い浮かべ、平常心を取り戻す。
「ああ。その日はわざわざ来るトレーナーも少ないし、皆もそれぞれ用事があるのでな。」
ちなみに去年――が来るまではジムのメンバー全員でパーティーをしていた。
あるジムトレーナーの提案で、ミクリが自らそれ――ハーレムの状態にもっていったわけではないが、には黙っておく。
「へえ…カントーとは随分違いますね。」
「そうなのか?」
「はい。どのジムもクリスマスは普通に営業してましたよ。その後にジムの皆でクリスマスパーティーしたりしてました。」
クリパという名の女子会。楽しかったことを思い返しているのだろうか、はくすくすと笑いながら話す。
「そうか。」
ミクリはそんな彼女の様子に目を細めると肩にそっと手を回し、身体を優しく自分の方へ引き寄せた。
「…今年は、二人っきりで過ごそうな。」
耳元でそう囁くとは顔を真っ赤に染めて、でもはっきりと頷いた。
場所はルネにあるミクリの自宅。料理はミクリが作り、ケーキはが買った。
「ミクリさん、お料理得意なんですか!?」
「まあ一応…親元を離れていた期間は長いし、アダン師匠に教わったからな。意外か?」
が驚いたようだったのでそう聞いたが、彼女は首を横に降った。
「むしろ似合います……どうして何でも完璧にこなすんですか。」
イケメンで背が高く、性格も優しくて頭もいいしバトルも強い。
その上料理も得意だなんて、才色兼備という言葉が女性にしか使えないのが惜しまれるくらいだ。
そんな完璧な彼氏をどうしようもなく好きだし、ぱっとしない自分をどうしようもなく情けなく思う。
「こら。また自分を卑下していただろう。」
ミクリの少したしなめるような物言いに、はハッと我に返った。
「だ、だって……。」
「だってじゃない。」
ミクリが唯一に厳しくなる時、それはがこんな風に自分に自信をなくしている時。
「優しく穏やかでいつも笑顔で…そんなが好きなんだと何度言ったら分かる?」
「わ……分かりました。」
何を思い悩んでいても、ミクリに真剣な顔でこう言われたら何もかもが吹っ飛ぶ。
「が思うところの私は完璧なのだろう? だったら女性を見る目も優れている、ということだな。」
ミクリらしい自信に溢れた理屈に、は照れながらもくすくすと笑った。
「改めて…メリークリスマス、。」
「メリークリスマス、ミクリさん。」
シャンパンの入ったグラスを、軽く触れ合わせる。
「あ、思ってたよりも美味しいです。」
「そうか、良かった。ほら、料理も冷めないうちに食べなさい。」
「はい。」
素直に返事をして料理に口をつけ顔を綻ばせるを、ミクリはじっと見つめる。
いつもと違う服にインテリア、いつもと違う雰囲気に若干緊張もしていたようだが……。
「、美味しいか?」
「はい。」
「楽しいか?」
「はい、とっても!」
「そうか……。」
子供の頃は、ミクリはダイゴとお互い仕事が忙しい親をもつ同士で遊んで過ごした。
アダンの元に弟子入ってから去年までは、ジムトレーナーの女性達が料理もケーキもプレゼントも用意してくれた。
どの年もそれなりに楽しかったが、今年は格別だ。
愛しい彼女が自分の作った料理を美味しそうに食べる。自分の用意したインテリアを眺める。
目の前にはいて、ミクリの大好きな笑顔を彼に向ける。
二人で同じ時間を同じ気持ちで過ごしている。
それがどれほど素晴らしいか、どれほど有り難いか――。
ミクリがそっとの隣に座りなおすと、は遠慮がちにミクリの肩にもたれてきた。
普段彼女の方からこんなふうに甘えてくるのは珍しいが、これは聖夜マジックだろうか。
「、私今泣きそうな位幸せなんだ。」
「私もです、ミクリさん。」
「…愛してる。」
「ミクリさん……私も、愛してます。」
どちらともなく、唇が触れ合った。
ひとつになった影が、キャンドルのほんのりとした明かりに照らされていた。
一緒にいることが幸せなの。