潜入調査中のと三郎は知ってしまった。

久洞藻城の目的を。潰そうとしている先を。


第23話 過去と今の交差点


「え? 兄様がいたの?」

「おー、なんか私達が欲しかった情報ほぼ全部教えてくれた。」

二人は予定通り五日間の忍務を終え、帰路についた。

「あの城下街も、十年前に支配下に置かれたばかりだったなんてな。」

「町の人達が暗ーい顔してた訳だ。」

話をしながらも周囲に注意を向けることは怠らない。

「あと、どこだっけ?早乃村?」

「ああ…2、3年前に配下に置かれたトコな。先生達が言ってた通りの城だな、久洞藻城。」

(にしても……。)

――早乃村って、どこかで聞いたことがあるような……。


っ!!」

、ただいま。」

「お帰りなさい!」

学園の門を数日ぶりにくぐると、事務員の小松田より先にの元へ駆けてきた。

双子はお互いの姿を見つけ、帰ってきたことを確かめるように抱きしめ合う。

遅れて他の仲間や教師達も出て来たところで、二人は離れた。

「じゃ、報告行ってくる。」

「うん、行ってらっしゃい。」

この先どんな戦いになっても、頑張れる。戦える。

お互いがいれば、お互いのために。そして自分のために。


「では報告を頼む。、鉢屋三郎。」

「はっ!」

学園長以下教師全員が一堂に集まる職員会議で、と三郎は得た情報を洗いざらい話した。

「忍者嫌いの城主が学園を襲おうとしている……か。」

「はい。城内は本気で戦の準備をしていました。」

「それと、やはり近隣の村を数多く支配下に置き、勢力拡大を謀っています。城下街の住民の様子を見てきましたが、久洞藻城の配下になってからの10年で生活は大変悪くなったそうです。」

「ふむ……。」

「……君、鉢屋君。」

部屋の端に座っている新野先生が、遠慮がちに手を挙げた。

「はい……。」

意外な人物の挙手に、二人は顔を見合わせる。

「その……早乃村へは行きましたか?」

「いえ……。」

「……そうですか。」

「……新野先生?」

僅かな躊躇いの後、新野先生が再び口を開きかけたその時。

「早乃村がどうしたんですか!?」

「ちょ、綾部君!?」

完全に気配を消し床下に潜んでいた喜八郎とが突如現れ、教師数名を驚かせた。

、それに綾部喜八郎! お前らいつもいつも!」

「す、すみません。会議が気になっ……」

「それより新野先生、早乃村に何かあったんですか!?」

普段の喜八郎からは想像もつかない剣幕に、一同は息をのむ。

「……なあ綾部。お前早乃村を知ってるのか?」

が喜八郎を見上げ、恐る恐る尋ねる。

「……私より新野先生の方がよくご存知ですよ。先生のご出身ですもんね。」

「えっ…。」

と三郎は互いに顔を見合わせ、教師達は新野先生を見てざわつく。

そのため、喜八郎が必死で何かに耐えているような表情をしていることにはしか気づかなかった。

「……綾部君の言う通りですよ。私の家がある早乃村は………数年前から久洞藻城の支配下に置かれています。」

―――!!!

ガタッと音がし、喜八郎がその場に崩れ膝をついた。

「綾部君!」

「綾部、どうした!?」

「…………すみません、何でもないです。もう部屋に戻ります。」

「あ、ああ……。」

「綾部君、送るよ。」


と喜八郎が出ていったところで学園長が咳ばらいをした。ざわついていた部屋が一瞬で静まる。

「…新野先生。お主のもつ情報はワシらに必要なものじゃと思う…話してくれんか。」

「……はい。早乃村は久洞藻城から歩いて一日くらいの距離にある小さな村です。いきなり城の兵が村を襲って、僅か一日で陥落したそうです。それ以来村の生活は変わってしまい……身内に忍者の関係者がいると分かれば家族がどんな目に合わされるか分からないので、二年近く家には帰っていませんし、久洞藻城が怖くて今まで誰にも言い出せずにいました。」

「新野先生……よくぞ話してくれたのう。」

学園長はまっすぐ新野先生を見る。新野先生は黙って頭を下げた。



「綾部君、大丈夫?」

同室の滝夜叉丸は部屋にいなかった。

喜八郎は部屋に帰るとすぐに壁にもたれて座り込む。

「……大丈夫です。すみません、迷惑かけて。」

「迷惑じゃないよ。」

返ってきたその言葉に、喜八郎は顔を上げる。

「私の格好悪いとことか弱いとことか……綾部君は全部聞き出して、一緒に背負おうとしてくれたでしょ。」

なんだか恥ずかしい。目の前の彼のように上手く言えない。

――だけど、私の気持ちに嘘はない。

「…私だって同じだよ。抱え込んでること教えて欲しい。私のことも頼って…」

の言葉は途中で途切れた。喜八郎に急に抱きしめられたからだ。

「綾部く………」

「…ありがとうございます、先輩。」

喜八郎の身体が震えている。が自分の腕をそっと動かし彼の背中を優しく撫でると、抱きしめる力が強くなった。

「……大事な、私の友人が早乃村に住んでるかもしれないんです。二年になる前に学園辞めて、それ以降会ってないんですけど……。」

「うん。」

「もしかしたら……久洞藻城と関係あるのかもしれないって……。」

「うん。」

喜八郎の身体はもう自分より大きくなったが、今はなぜだか小さく思える。

「綾部君……確かめようね。一緒に。久洞藻城と忍術学園が戦うときは、一緒に行こうね。」

の過去を知り、幸せを手に入れさせたいと真っ直ぐに思う喜八郎。

喜八郎の悲しさを知り、一緒に確かめようと決意した

お互いがお互いのために諦めようとした幸せを、お互いのために取り戻そうと誓い合った

大事な友人や後輩のため、協力を惜しむ様子を見せない五年の仲間や留三郎。

久洞藻城、早乃村、忍術学園、家、それぞれの様々な過去、そして今。

それら全てが複雑に、けれど確かに、つながった。


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