忍術学園の六年生、。
高い実力と爽やかな性格、そして美しい容姿を持つ彼女には男女問わずファンが多い。
だが彼女が最も人の注目を集めるのは、実技の授業中でも友人との談笑中でも学級委員長としての仕事中でもなく――
「やあ、ちゃん。」
「あらま、利吉さん。」
食堂にてやや遅めの昼食中。聞き覚えのある声に顔を上げると、山田利吉がいた。
「この席いいかい?」
「ええ、どうぞ。」
の目の前にカツ丼定食が置かれた。心なしか、ほかの生徒のそれより量が多めに見える。
「いただきます。はー、久しぶりのまともな食事だ。」
涙ぐみ、ありがたそうに掻っ込む利吉をおばちゃんが満足げに見ている。
「お仕事明けですか? お疲れ様です。」
「うん、ありがとう。今朝がた終わらせて仮眠とってそのままここへ来たんだ。おばちゃんの料理が食べたくなって。」
「タダですしね。」
が小さく言った言葉に、利吉は「それもある。」と苦笑する。
「後、父上にも顔を見せないといけないし。」
「利吉さんたら。山田先生よりお母様の方が顔を見たいのでは?」
「二人きりで父上の愚痴を聞かされる私の身になってくれ……。」
17歳のフリー忍者と忍術学園の六年くノたま。
立場は違えど付き合いは短くなく、気安いおしゃべりは続く。
そんな二人を、食堂に残っている他の生徒が遠巻きに見て、何か囁きあっている。
「……なんだろうな、彼らは。なんで見てくるんだ。」
「利吉さんの背中に“バーカ”と書かれた紙が貼られているんじゃないですか?」
「……変な冗談が上手くなったよね……。」
背中をさすってから利吉は呆れたような、ホッとしたような様子で言った。
「信じたんですね、その変な冗談。」
くノたまの憧れ・山田利吉に容赦のないツッコミを入れられるのは位だろう。
言葉の内容とは裏腹に、二人はどこか楽しそうな表情をしている。
「まあでも、利吉さん実家帰らなくて正解だったかもしれませんよ。」
「……という事は。」
「ええ。山田先生もかれこれ何ヶ月も帰られてなくって、利吉さんのお母様は先日愛の督促状を。」
この状態で利吉が実家に帰れば、もれなく父親の愚痴〜自分への文句というパターン、しかもかるく3割増くらいだと思われる。
「ああ、じゃあ私が帰るときは父上を土産として献上しないと。」
「泣く子も黙る山田伝蔵とその息子利吉の、唯一にして最大の弱点ですよね。」
「女性は怖いからな。元くノいちの母上は尚更だ。」
「あら、じゃあ私も怖いんでしょうか。卒業後はフリーくノいちとしてやっていくつもりですが。」
「ちゃんがプロくノいちか……敵に回したくないな。あらゆる意味で。」
「もし敵同士になったら、共謀して雇い主裏切って逃げますか? 私も利吉さんと戦いたくないですし。」
「それはそれでどうなんだ。」
気楽な会話が出来るこの場所とそしてこの相手は、緊張と殺伐さしかない仕事中とは全く異なり、利吉の心を解きほぐす。
――そして冒頭に戻るが、が学園生徒の注目を集める時間とは実は、今。
イケメンフリー忍者の利吉と学内で評判の才色兼備が揃っている風景は、たとえ食事中でも絵になるものだ。
男女の差や年齢を越えた友情か、好意を寄せているのはどちらか、はたまた実は結婚秒読みでは――。
と、本人達のあずかり知らないところで様々な憶測――時に妄想――が飛び交う。
「はあ、美味しかった。おばちゃんごちそう様。」
「はいよ、またいつでもいらっしゃい。」
途中まで一緒に行こう、と二人同時に食堂を出た。
「いつでも来ていいって場所があるのは嬉しいものだな。仕事も頑張ろうという気になれる。」
「あら、お母様もそう言ってくださるのでは?」
「そこに話を戻すか…。」
口調とは裏腹に、やはり二人の表情は楽しそうだった。
アンケートで結構人気=ニーズ高いのにまったくかいてなかった利吉夢。ええ、期待していた方いままで待たせてごめんなさい。