風邪をひいた日

「熱ぅ…。」

牧場主クレアは寝込んでいた。
なぜなら夕べから熱が出ていたから。
昨日の夜6時の段階ではまだ微熱だったから、早寝すれば良かったものを
「明日は雨だから!」と無理して牛達を小屋に入れた結果、
―――39,3度。
しかも天気予報はこんな日に限って大外れのさっぱりした秋晴れ。
恨みますよ、天気予報のおねーさん。

コンコン…
(誰か来た……?)
昼過ぎ(推定)にノックの音がした。けどクレアは起きられない。
「どちら様〜〜…?」
何とか声を出したがやっぱりかすれている。これじゃあドアの外までは聞こえてないだろうな、と思った。
が、しかし。
「クレアさん!?」
声は届いたらしい。不思議な事もあるもんだ。
そして声の主は……。
「リック君…?」
「どうしたの!?」
言うと同時に彼はドアをあけて入ってきた。
「熱でた〜……。」
「ちょっとゴメン…うわ、本当だ。」
クレアのおでこに手をやり、あまりの熱さに驚いたリック。
「あ、このタオル使っていいのかな?」
クレアから手を離すと、素早く台所においてあるタオルに目をつけたリック。
「あ、リック君…。」
「ん?どうかした?」
それを絞ってクレアの額に乗せたあとで、クレアに尋ねる彼。が、しかし。
「これ……ぞーきん。」
言われてみれば、そのタオル、もとい雑巾は、少し汚れがあり、匂いもする。
「うわ、ゴメン!」
慌てて雑巾を取るリック。
「タオルは、あの棚の中…。」
「あ、分かった。ゴメンね、本当。」

その後眠気が襲ってきたため寝て、起きたら夕方。(やっぱり推定)
1日寝てたからか、それともリックが乗せてくれたタオルのおかげか、少し熱が下がってきた。
部屋の中を少し見渡したが、リックの姿は見えなかった。
(帰ったのかな……。そういえばリック君……今日何しに来たんだろう。)
ぼんやりと考えていたら、ドアが開き、リックが入ってきた。
「あ、クレアさん。目、覚めた?」
「え…リック君、帰ったんじゃなかったの?」
「ああ、水遣りと動物たちの世話してきたんだ。鶏以外は慣れてないから時間かかっちゃった。」
「リック君……。」
確かに、秋なのに彼は汗をかいて、疲れているように見えた。クレア、感動。
「おなか減ってるでしょ。何か作るよ。クレアさんの鶏が今日産んでた卵と、あと冷蔵庫の中身もちょっともらうね。」
リックは台所に立つと慣れた手つきで調理を始めた。

「はい、できたよ。召し上がれ!」
「………う、うん…。」
「え、食欲無い?」
「え、違う違う。ただ、リック君らしいなって思って。」
食卓に並んだ美味しそうな料理を見て、クレアはくすくす笑う。
並んでいるのは、卵粥、スクランブルエッグ、玉子酒。卵は1日1個までにしたほうが…。

「ごちそうさま!おいしかった!」
「本当?だいぶ元気になってきたね、よかった。」
「今日はありがとう。あ、ねえ、リック君は何で今日うちに来たの?最初からお見舞い目的ってわけじゃないよね。」
クレアに尋ねられたリックは、少し顔を赤くした。
「え、ああ…。実は、今日僕誕生日で。」
「え、そうなんだ!ごめん、プレゼント用意してない……。」
「え、あ、そうじゃなくて。…夢があったんだ。ちょっと意外な方向だったけど、ちゃんと今日叶った。」
「何?」

「誕生日に、好きな子の家で、好きな子と2人で1日を過ごすって夢。」


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