――どうして……こんな時に限って!


幸か不幸か?

立花仙蔵は本日、町に来ていた。

女装の際に使う紅や白粉がなくなっていたため、買いに来たのだ。

目当てのものを買った後は真っ直ぐ帰るつもりだったが。

「あれは……まさか?」

少し前を歩いている一人の女性に気付いた仙蔵は、こっそり近づく。

しかし向こうはさすがのプロ忍者、仙蔵が声をかけるより前に彼に気付き、振り返った。

「こんにちは、仙蔵君。」

「こんにちは、先輩。奇遇ですね。」

「本当ね。お買い物?」

「ええ、紅と白粉がなくなっていたので、買い足しに。」

普通に話をするが、仙蔵は今、偶然と会えたことで内心かなり喜んでいる。

「先輩、今お時間ありますか?」

せっかくの幸運、有効活用をするべきである。

「え?うん、用事は終わったけど。」

「この近くに美味しい甘味所があると聞いたんです、よかったら一緒に行きませんか?女性客が多いらしくて、一人だと行きづらかったのですよ。」

の顔がぱあっと明るくなる。

「行く行く!仕事中は甘いもの食べられないから、今のうちに何か食べておきたいって思ってたの。」

仙蔵はほど甘いものが好きではないが、使えるものならなんだって使う。

「では、行きましょうか。」


友人の伊作が委員会の後輩と時々訪れるというその店は、町から少しだけ離れた川沿いにあった。

少し前までは花見客でにぎわっていたと思われるが、今日は子供が二人ほど見えるだけで、落ち着いて過ごすには丁度いい……と思われた。

「!!」

その“二人の子供”の姿を見た途端、仙蔵の白い顔が一気に青くなる。

(何であの二人が……なんで、こんな時に限って!)

そう。

「乱太郎の教えてくれたお団子、美味しいね〜。」

「本当だね〜。はい、ナメさんたちもどうぞ〜。」

そこにいたのは、仙蔵の唯一にして最大の敵こと1年は組の福富しんべヱ・山村喜三太だった。

「仙蔵君?何があったの?」

急に仙蔵の様子が変わったことを不審がり、は小声で尋ねる。

「……先輩すみません、近くに賊がいるようです。この店は諦めましょう。」

仙蔵は小声で言い、店に背を向けた。が、しかし。

「あ〜、立花仙蔵先輩!」

「本当だ〜!おーい、先輩〜!」

「え?」

二人に気付かれ、しかも大声で呼ばれた。

仙蔵は観念し、賊は気のせいだったとに告げた。

すぐにしんべヱと喜三太は仙蔵とのそばによって来た。

の手前二人を邪険に扱えない仙蔵は、何も起こらないよう祈る。

「立花先輩、偶然ですね〜。」

「綺麗なお姉さんもこんにちは!」

礼儀正しく二人はに挨拶する。

「こんにちは。二人は忍術学園の生徒?」

が尋ねると、二人は「ええっ!」と驚いた。

「お姉さん、なんで分かったのぉ!?」

「どうしよう、忍者は忍者だってバレたらいけないのに〜。」

おろおろするしんべヱ、喜三太。

未熟な二人に仙蔵はイライラするが、は微笑ましく思う。

「大丈夫よ。私は忍術学園の卒業生なの。立花君の委員会の先輩にあたるのよ。」

「へえ〜。」


もともと年下に対して優しいは二人とあっという間に仲良くなった。

結局4人一緒に甘味屋で団子やら餅やらを食べている。

(くそ……。)

喜三太としんべヱがの両脇に座っているため、仙蔵はとロクに話が出来ない。

楽しそうにしている3人の横で、仙蔵のイライラはますます募る。

(こいつらさえいなければ、私が先輩の隣で先輩と話が出来た筈なのに……!)

いくら忍術学園の6年生と言えども、やはりまだ仙蔵は若い。

色恋沙汰が絡めば(しかも喜三太としんべヱがセット)、普通の少年になってしまうのだ。

(本当に情けない……。)

「あれ〜、立花先輩。全然食べてないですねぇ。」

しんべヱが聞いてくる。

「……ちょっと、気分が優れないんだ。放っといてくれ。」

に聞こえない声で仙蔵は釘を刺す。

しかし、相手が悪かった。

「大変たいへ〜ん!立花先輩、具合が悪いんだって〜!」

「なっ……!」

「え〜。先輩、さっきまで元気そうだったのにぃ。」

「大丈夫ですか〜?」

「お腹いたいですか?風邪ですか?」

2人は純粋に心配をしているのだが、仙蔵の方は本気で具合が悪くなりそうだった。

「こらこら2人共、そんなにそばでわーわー言ってたら立花君の具合がますます悪くなっちゃうわよ。」

「おねーさん。」

「それに2人共、さっき確か今日は食堂の当番だって言ってなかった?そろそろ学園に帰らないと、遅れちゃうわよ?」

「あ〜、本当だ!」

「しんべヱ、急いで帰ろ〜。あ、でも立花先輩……。」

「立花君は私が見てるわ。大丈夫だから、気にしないで。」

2人は走って帰り、仙蔵は心底ほっとした。

「立花君、ひょっとしてあの子達の事苦手だったりする?」

の突然の言葉に仙蔵は驚いた。

「具合が悪いって、嘘でしょう?」

「……はい。」

プロのくの一であるに、ごまかしは通用しない。

仙蔵は素直に頷いたが。

(……幻滅されるだろうか……。)

2人と仲良く話していた

その2人を苦手としている自分を、は快く思わないだろう。

しかし、の言葉は仙蔵の予想と違っていた。

「ごめんね、無理させちゃった?」

「え?」

「私は楽しかったけど、立花君には辛かったかな。」

仙蔵は彼にしては珍しくぽかんとし、恐る恐る言った。

「……幻滅、しないんですか?その……。」

仙蔵が言い切る前には首を横に振る。

「誰だって、苦手な人とか好きになれない人っているじゃない。それぐらいで幻滅なんてしないわよ。」

は笑顔でそう言った。

「……そう、ですか。」

心底ほっとした仙蔵は、やっぱり彼女と比べると自分はまだまだ子供なのだなと思った。

「立花君、時間まだ大丈夫?」

「はい。」

「もう少し、ゆっくりしていかない?学園の近況とか色々聞きたいし。せっかく会えたんだもんね。」

「……はい。」

あの二人に会ったことを差し引いても、やはり今日の自分は幸運だな、と仙蔵は思った。


でも学園に帰った後厳禁コンビに「大丈夫ですか?」「大丈夫ですか?って聞かれまくって再びげんなり。

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