――その日は朝から暑かった――
「おでんが食べたいんじゃっ!」
「嫌ですっ!」
が食堂前の廊下を歩いていたら、中から学園長と同僚・土井半助の怒鳴り声が聞こえてきた。
「おばちゃーん。」
「あら、先生。」
「何の騒ぎですかぁ?」
それがねぇ、と困った笑顔で食堂のおばちゃんはにいきさつを話した。
「はあ…。」
とおばちゃんの目の前では、相変わらず二人が言い争っている。
「分かったわ、じゃあこうしましょう。」
おばちゃんが学園長に10人分の署名を集めたら昼食をおでんにすると言い、
学園長は張り切ってヘムヘムと外へ出て行った。
「こんな暑い日におでんなんてイヤだよなー。」
「私は冷や奴がいいと思うな。」
の前を通り過ぎていった5年生がそんな会話をしていた。
「!」
「半ちゃん。学園長の署名、どんな感じなの?」
同僚である以前に親友の二人。
生徒や他の先生がいる場以外では、昔からの呼び名でお互いを呼んでいる。
「絶不調だ!」
半助は非常に嬉しそうに話す。
「まあ、そりゃそうよねぇ……こんな日におでん食べる位なら忍者食のがマシよね。」
「まったくだ。」
二人が話をしている間に、いつの間にか学園長の署名を呼びかける声は聞こえなくなっていた。
「……、どう思う?」
「学園長がすんなり諦めるわけはないわ。」
「……だな。」
一方、その頃。
「。」
「。」
木陰で涼んでいる6年生、に声をかけたのは同じ家の6年生、。
「聞いた?学園長の署名。」
「ヘムヘムと大声張り上げてたあれか?」
「そ。あまりにも集まらないから、作戦を変えたらしいわ。
何人かの忍たまに勝負挑んで負けて、サインと称して署名貰ってるみたい。喜車の術ね。」
「うっわ。あの人のやりそうな事だ。」
「それにまんまと引っかかっているの、どうやらほとんど6年らしいの。」
「マジか。」
は呆れた表情になり、は無言で頷いた。
「どこの誰だ、一体。」
その時、二人の耳に微かに「ギンギーン」という叫びが聞こえてきた。
「……まさか。」
二人が声のした方へ行くと、予想通りの人物潮江文次郎が、学園長の持っている紙に何かを書いている最中だった。
「お前かい!」
「何やってんのよ、文次郎。」
学園長が去って一人になった文次郎に、二人は声をかける。
「……?何がだ?」
文次郎は学園長の思惑に全く気付いていない。
とは深いため息をついた。
一方、その頃学園長は最後の署名をかけて半助と勝負をしていた。
勝負は半助の圧倒的優勢だが、それが仇となり生徒が学園長の見方につき、半助はついに降伏した。
「……半ちゃん。」
「うう……。」
半助は周りみんなが自分の敵になったショックから立ち直れていない。
「はーんちゃん!」
がもう一度大声を出すと、やっと彼は顔をあげた。
「ほら、いつまでも落ち込んでないで。午後は特に大きな仕事、ないんでしょ?冷たいおうどんでも食べに行こうよ。」
ほら!と笑顔で言うにつられて、半助にも笑顔が戻った。
「……そうだな。たまには外で食べるか!」
「そうそう、レッツゴー!」
二人が出かける準備をしに行った頃、校庭の一角で6年生が異様な雰囲気を醸し出しながら集まっていた。
「おでん熱かったね、みんな。」
「文次と仙と伊作とこへが調子に乗って学園長にサインなんかしたからな。」
「…ごめん。」
「…すまん。」
そう。
学園長と勝負をし、サインを書いたのは6年生がほとんどだったと言う理由から、6年生は全員余ったおでんを食べさせられた。
「他の学年はみんな外に冷たいもの食べに行ったり、他のメニューを食べたりしていたのにね。」
「忍者が聞いて呆れるなあ、学園一忍者している男。優秀が聞いて呆れるなあ、学園一冷静で優秀な男。
不運はやっぱり不運だなあ、不運委員長。いけいけどんどんは身を滅ぼすなあ、体力馬鹿。」
もも普段はこのメンバーの頼れるいい友人だが、怒るとこのように恐ろしく怖い。
「…すみません。」
四人は萎縮しうつむいて正座をしている。
うつむいているのは二人の顔を怖くて見れないからである。
「………俺たち、学園長に目ェつけられなくて良かったな。」
「………。」
少し離れている所で見守っている留三郎がつぶやき、長治が頷いた。
異様な雰囲気はまだまだ続く。
んなこたないよなって思って6年に矛先向けてみました。
おばちゃんっておでん学園長の分しか作らなかったのかな?