平滝夜叉丸の宿敵といえば、誰もが田村三木ヱ門を思い浮かべる。
しかし、実は少し種類の違う宿敵がもう1人、彼にはいる。
「あー、たっきー。偶然ー。」
「その名を呼ぶなと何度言ったら分かるんだ、!」
「だって普通に呼ぶんじゃつまらないでしょう?」
「普通でいい、普通で!」
あの滝夜叉丸に「普通でいい」と言わせる事の出来る人間はおそらく彼女――くの一四年のしかいない。
「全く、この滝夜叉丸様に対してなんと無礼な!」
「ごめーん、たっきー様。」
「お前、私を馬鹿にしとるだろー!!」
周りの友人たちは「またやってるよ」と思いつつ静かに見守っていた。
そんな両者の出会いは、3年前に遡る。
当時から同じ体育委員に所属している2人は、入学当初の初顔合わせで出会った。
「今年は2人の一年生が入った。男子と女子1人ずつだ!」
「一年い組の平滝夜叉丸です!」
「くの一教室のです。」
「よろしくお願いしまーす。」
挨拶をしながら滝夜叉丸はちらりと隣のを見る。
もそれに気付き、「よろしくね」と微笑んだ。
「よ、よろしく。」
今の滝夜叉丸にしてみたら一生の不覚なのだが、この時の彼はの事を「可愛い」と思ってしまったのだ。
が滝夜叉丸を“面白い奴”と認識し滝夜叉丸がの本性を知ったのは、それから一週間後のことだった。
「ねえねえ、滝夜叉丸くんってよぶの長いから、あだなつけていい?」
「あだな?」
「うん、これからはたっきーってよぶわね。」
「た、たっきー?」
「うん、ねえたっきー、勝負しない?ここからあの木までかけっこしようよ。」
体育委員に自ら志願して入ったが体力に自信を持っていることは滝夜叉丸も知っていたが、
……まさか自分が女子に負けるとは思っていなかった。
「なっ……なぜだあ!なぜわたしがまけたんだ!」
2人の差は歴然だった。
「…ああそうか、わたしさっきは本気じゃなかったんだった〜。」
滝夜叉丸は白々しく惚け、叫んだ。
「、もう一回勝負だ!」
だが、結果は全て滝夜叉丸の負けだった。
「たっきーってば、いつも“わたしはすごいんだ!”って言ってるくせに、弱ーい。」
「……うるさーい!たっきーって言うなー!」
「やだ、たっきーってよぶ。たっきー、おもしろいもの。」
男なら誰もが見惚れてしまうような笑顔で、はけらけらと滝夜叉丸を笑い続けた。
「思えば、私はずっとに負け続けていないか?私は誰よりも優秀だというのに……。何とかあの女の鼻を明かせないだろうか。」
負けたままというのは平滝夜叉丸のプライドが許さない。
「……ん?」
思案中の滝夜叉丸の前方に、がうずくまっているのが見える。
「あいつ、何をやっておるのだ?」
首を傾げる滝夜叉丸。
しばらく見ていたが、はうずくまったまま動かない。
滝夜叉丸は迷った末、に声をかけた。
「……おい、。何をしておるのだ?こんな所で。」
顔をあげたを見て、滝夜叉丸はひどく驚いた。
は泣いていたのだ。
「あ、たっきー……。」
「ど、どうした?お前が泣くなんて珍しいではないか。」
「何でもないわ、ちょっと実習で失敗して落ち込んじゃって……。」
何でもないと言いながら、の表情は暗い。
滝夜叉丸は遠慮がちに隣に腰掛けた。
「一回きりの失敗で落ち込むなど、お前らしく無いではないか。そんな暇があるなら失敗の理由を分析して、次に繋げるくらいしたらどうだ?」
「たっきー……。」
「……早く元気になれ。お前が暗いとこの滝夜叉丸様の調子が狂うんだ。」
の方を見ずに一気にそう言った滝夜叉丸の顔は赤い。
「ありがとう、たっきー。」
の声が少し明るくなったのに気付いた滝夜叉丸が彼女の方を向こうとしたその時。
「はーい、、合格ー!」
「どぅわぁ!」
2人が座っている真後ろの茂みがガサッと動き、中からくの一教室の教員が現れた。
「え……先生!?何故ここに……。」
「ごめんねぇ、滝夜叉丸。今のはぜーんぶ嘘、演技だったのよ。」
「……はあ!?」
「姉様の授業の試験。“何らかの方法で男子忍たまを騙す”!ここまで綺麗に騙されてくれるとは思わなかったわ。」
さっきの涙が嘘のように(実際嘘だが)はけらけら笑う。
「じゃあね、たっきー。助かったわ。」
滝夜叉丸はくの一長家の方向へ去っていく2人を見ながら呆然としていたが、今度は怒りで顔を真っ赤にし、叫んだ。
「ーーーー!!!!!」
滝夜叉丸&=力の差ははっきりしているけど、滝は認めない……って感じ。
滝夜叉丸&三木ヱ門=同レベルなライバル