「ああ〜、どうすりゃいいんだ。」
思い悩むきり丸の隣には、呆れた様子の土井半助。
「あれ?」
そこにくの一四年の図書委員、が通りがかった。
「きり丸に土井先生。こんにちは。」
「あ、先輩。どーも。」
ぺこっとお辞儀をするきり丸。
半助もの方を振り向き、「おお。」と挨拶を返した。
「丁度いい、もコイツに一言言ってやってくれ。」
いいながら半助はきり丸の頭を軽く小突く。
「何かしたの?きり丸。」
「や、それが………。」
きり丸の話によると、彼が今度掃除のバイトを入れた休日に1年は組の補習授業が入ったらしい。
「バイトを休むわけにいかないから、補習授業の日にちを変えて欲しいって言ったんスけど。」
「もう学園長にも届けは出した、お前の超個人的事情には合わせられない!」
「だって〜、こういうのは信頼関係が大事なんですよ?“休みます”って言いにいく時間はもうないから、行くしかないじゃないっスか!」
「お前、授業とバイトのどっちが大事なんだ!」
「バイト!」
「アホー!!」
はぽかんと2人の様子を眺めていたが、何かを考え出した。
「ねえ、きり丸。要は代理をたてる事が出来れば良いわけよね。」
「ええ、まあ……。」
「私行こうか?」
「へ!?」
思ってもいなかったの提案に、2人は一瞬固まった。
「その日は私暇だし。これでも掃除は得意なんだから。」
「え、でも……。」
「いいのか?。」
「悪かったらそもそも提案しませんよ。」
「まあ、それはそうだが……。」
「どうする?きり丸。」
きり丸は遠慮がちにを見、「お願いしていいですか?」
と言った。
「任せなさい、どんなに厳しいバイトでも小松田さんと一緒に掃除するよりマシよ。」
へっぽこ事務員小松田秀作との掃除を思い出したのか、はため息をついた。
「きりちゃん、バイトは結局どうなったの?」
「乱太郎。」
その夜、忍たま長家にて。
「一応、図書委員の先輩が代わりに行ってくれることになった。」
「そうなんだ、良かったね。」
笑顔の乱太郎に対し、きり丸は浮かない顔。
「……どしたの?」
そんな彼の様子を不思議に思い、乱太郎は尋ねる。
「……や、なんか先輩に悪いなー……って思ってさ。」
「へ?何言ってんの、私たちや土井先生には今まで散々手伝わせてきたじゃない。」
「だって、それは何て言うか、気心知れてる間柄って言うの?頼みやすいんだけどさ……先輩とは委員会の時にちょっと話す程度だから、気がひけるんだ。」
「ふうん?」
「こんにちはー。」
「あ、きり丸来ましたよ、中在家長次先輩。」
数日経って、図書委員の会議の日。
「遅くなってスンマセン、掃除当番で……。」
「大丈夫だよ。じゃ、始めましょうか先輩。」
雷蔵の言葉に長次が頷いたのを合図に、図書室がいつも以上にしいんとする。
「……今週の図書当番に……変更がある。急に五年の校外実習が入ったため、明日放課後の不破と金曜昼休みのを入れ替える。」
「はい。」
雷蔵とが返事をする。
(あれ?)
きり丸は気付いた。明日の放課後は、確か自分も入っていたはず……。
「明日はよろしくね、きり丸。」
「きり丸、一年は組の団蔵君が借りている馬術の本、返却日昨日だから言ってきてくれない?」
「はーい。」
きり丸が団蔵の部屋へ向かい、は本棚の整理をする。普段の平和な図書室の風景。
「先輩、団蔵連れて来ました。」
「ごめんなさい、忘れてました〜。」
きり丸に続いて、慌てた様子の団蔵が図書室に入ってきた。
声のボリュームが少々オーバーしていたので、ときり丸は慌てて口元に指を当て、「シー」と言う。
「はい、貸し出しカード。今度からは気を付けなさいよ。」
「すいませんでしたー。」
団蔵も委員会の途中だったらしく、急いで帰っていった。
「ご苦労様、きり丸。」
「あ、ハイ。」
「あ、そういえば今度のバイトの事だけど。バイト料はどうすればいい?私貰っていいの?」
「あ、それでいいっスよ。あ……それと悪いんスけど、店の人に次は来週末に入りますって言っといてもらえますか?」
不定期的に入るバイトな為、毎回の仕事後に次入れる日を言う制度らしい。
「うん、分かった。」
「すいません、本当に。」
「……ねえ、きり丸。」
はきり丸の方に向き直る。
「ハイ?」
「そんなに遠慮しないでいいのよ?」
「え……。」
「土井先生やは組の仲間たちと一緒ぐらい……とまでは言わないけど、もっと頼っていいんだからね。」
はきり丸の頭をぽふぽふと軽く撫でる。
その手つきはとても優しく、きり丸は心があったかくなるのを感じた。
「あんたは私の可愛い後輩なんだから。」
「………はい。」
「あ、先輩。こないだはどーもっす!」
「や、きり丸。いえいえ。結構楽しいのね、あのバイト。また無理な時は声かけてね。」
「はいっ。」
その後、前より少しだがそれでも大分打ち解けた様子のきり丸との様子が見られたとか何とか。