「わ〜、いい匂い。」

「先生の出張が今日でよかったわよね、本当。」

笑いながら話す二人の目の前で、焼き芋が美味しそうに出来あがった。


焼き芋の日〜彼女と藤内の場合〜


話は半時ほど前に遡る。

「二人ともありがとうね。おかげで気兼ねなく行ってこれたわ。」

「あ、お帰りなさーい。」

四年くの一のは、私用で出かけた食堂のおばちゃんの代わりに昼食の洗い物をしていた。

たまたまこの日は教師の出張で午後の授業が無かったのだ。

「これお礼よ。向こうでたくさんいただいたのよ〜。」

そう言っておばちゃんが差し出したのは、かごいっぱいのさつまいも。

あまりに大量なのでどうしようかと考えた結果、焼き芋にして色んな人におすそ分けをすることにした。

丁度タイミングよく従姉妹たちが次々現れたため、彼女達に二つずつ分け、残りは四つ。

「私たちも二つずつ持ってく?」

「そうね、そうしましょ。」

二人は風呂敷に自分の分の焼き芋を包んで枯れ葉の掃除をし、

「じゃあね。」と言っては自室へ、は委員会へと向かった。


「さて、あったかい内に食べるかあげるかしないと冷めちゃうわよね。」

今一気に二つ食べてもいいが、太りたくはない

ちょうどこれから委員会なので体育委員会のメンバーで分けようかとも思うが、一つの芋を三等分するのは少し難易度が高い。

「さて、どうしたものか……。」

集合時間には半時ほど余裕があるので、のんびりと歩きながら考える。

「……ん?」

用具倉庫の辺りから男子の声が聞こえてくる。

「あれ、あの子……。」

声の主は三年の男子二人で、よく見ると片方は知り合いの作法委員、浦風藤内だった。

「もー、藤内! また屋根瓦はずしただろ〜!」

「ごめん、作…。でも悪気があったわけじゃないんだ、縄梯子の予習しようと思って。」

「それは分かってるよ……でも瓦はずれるまでやることないだろ〜。」

「ごめん、直しとくから許して?」

「はあ、しょうがないな。」

作と呼ばれた少年は修理道具を藤内に渡し、長家の方へ行った。

「とーない君っ。」

が名前を呼んで軽く肩をぽんと叩けば藤内は「うわあっ!」と驚き、振り返って自分を見たら何故か顔を真っ赤にして「こ、こんにちは!」と叫ぶような挨拶をした。

(面白い子。)

「失敗しちゃったの?」

「み……見てたんですか? 先輩……。」

うん、と頷けば藤内ははああ〜……と大きなため息をついた。

「大丈夫大丈夫、屋根瓦外すくらいあたしたちの学年が今までやらかした事に比べりゃ可愛いものよ。何しろトラブルメイカーが揃ってるからね。」

「はあ…。」

がフォローを入れても、藤内の表情は曇ったまま。

(好きな相手に失敗を見られた上本人にフォローされたら当然かもしれない。)

「……あ、俺屋根直してこないと。すみません、失礼しますね。」

「あ、ちょっと待った。」

立ち去ろうとした藤内を、は呼び止める。

「焼き芋食べない? ちょうど二つ持ってるから、一緒に食べましょ。」

「……へ?」

ぽかんとする藤内をはやや強引に座らせ、自分も隣に座る。

風呂敷の中身はまだほかほかと温かい。

「はい、どうぞ。」

「あ…ありがとうございます。」

(……なんで俺、いきなり焼き芋もらってるんだろう。いや、先輩といられて嬉しいんだけど。)

「いただきま〜す。」

「いただきます。」

一口かじった瞬間、ほんのり甘い味が口いっぱいに広がる。

「……おいしい……です。」

「でしょ? あのね、いいこと教えてあげる。頑張るのも偉いけど、たまにはこんな風に息抜きすることも大事。」

「……はい。」

「あー、いい天気ねぇ。」


その後藤内の補修作業ははかどり、もなんとなくいい気分で委員会活動をした。


他の焼き芋の行方は小松田夢もしくは拍手ログへ。

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