メイがいなくなった。

朝1番に彼女の祖父であるムギは、町長とゴッツと近所の牧場主――メイと仲良くしてくれているクレアに助けを求めた。

そして、夜遅くにクレアが海岸でメイを見つけた。

「お姉ちゃん、また明日ね。」

「クレアさん、今日は本当にありがとう。」

誰1人気づかなかった。

もう1人、必死にメイを探している少年がいたことに―――。


「お姉ちゃん……。」

「ユウ君!?どうしたの、こんな遅くに。お姉さんやおばあさん、心配してるよ?」

「メイ、見つかったの?」

「え?あ、うん。心配してくれてたんだ。もう大丈夫。ユウ君もおうちに帰ろう?送っていくから。」

「大丈夫。1人で帰れるよ。…じゃあね。」

メイが見つかったことを聞いても、ユウはなんだか浮かない顔をしていた。……ように思えた。

そして、10年の月日が流れた――。

この町に。

「え。またメイがいないの?」

「すまんのう、ユウ。ほっといてもそのうち帰ってくるから大丈夫とは思うが…。」

「じーさん、俺、ちょっと見てくるね。」

ユウとメイは16歳、立派な大人とは言いがたいが、それぞれが一人前に家事や家業を手伝うようになっていた。

ただ、メイには困った癖があった。

1年に1,2回、夏の間、ふらっと何も言わずにいなくなることがあった。それも毎年。

2,3時間したら帰ってくることがほとんどだったが、たまに夕方になっても帰らないことがあった。

そのときはゴッツやクレア、カイなどがつれて帰ってきてくれていた。

ユウも毎回探しに行くのだが……。

ユウが牧場を出ようとしたそのとき、メイが帰ってきた。

「あ、おじいちゃん、ユウ。ただいま。」

「メイ!」

「ただいまじゃないよ!俺、今から探しに行くとこだったんだから。」

ユウは思わず大声をあげる。のんきな様子のメイを見て、安堵もしたが心配したことも知ってほしくなる。

「ごめん。」

「まあまあユウや、ちゃんと帰ってきてくれたんじゃから。最近は昔みたいな大事にもならんし…。」

「………。」

「ゴメンね、ユウ。お詫びにコレあげるよ。山でとってきたピンクキャット。」

ユウはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、素直に花を受け取った。

「なんだよ、花畑の方行ってたの?」

「そうなの。昔よくポプリお姉ちゃんといってたから懐かしくなって。」

「まあ、次からはどこ行くか位言ってからにしてよ!危ないとこ行くんだったら俺、着いていくし。」

「うん。」

そのとき、エリィがユウを呼ぶ声が聞こえた。

「ユウー?あ、いた、ユウ!メイちゃんも。」

「エリィお姉ちゃん。こんにちは。」

「こんにちは、メイちゃん。あのねユウ、おばあちゃんが今日の花火見に行きたいんだって。連れて行ってあげて?」

「うん、分かった。」

「あ、あたしも行く!手伝うよ。」


結局、メイも手伝おうとしたが、ユウは軽々とエレンをおぶって海岸まで行った。

エレンを家まで連れて帰った後メイは1人で帰ろうとしたが、ユウは送っていくといったので、メイはお言葉に甘えた。

「ユウってさ、力持ちになった?」

ユウに尋ねるメイ。

「え?何、いきなり。」

「だってちょっと前までおばあちゃんを1人でおんぶするなんて出来なかったじゃない。」

「そりゃ、もう16だし。それなりに力だってつくよ。」

「そっか。」

「そう。」


「またいなくなっただってぇ!?」

3日しかたっていないのに、メイは反省していないのか。苛立ちと心配でいっぱいになるユウ。

「本当にすまんのう、ユウ。ほっといてもそのうち帰ってくるから大丈夫とは思うが…。」

「もう5時なんだってば!ちょっと行ってくるね!」

悪い予感がした。

海岸にもいない。

町にも、教会の裏の森にもいない。

「――という事は、また山か!」

既に時刻は6時を回っている。

温泉、ゴッツの家付近、鉱石場にもはしごを掘った後はないからここには来ていない。

前回来ていたという花畑にもいなかった。

「上……か。」


だが、頂上にも誰もいなかった。

「おかしいな…。……いや、ここにいる。」

幼馴染としての勘か、それとも別物か。

とにかくユウはここにメイがいると確信した。

「メイ、メイー!」

そのとき、どこかからメイの、ユウを呼ぶ声が聞こえた。

「メイ!」

「ユウ……。」

メイは木と茂みの陰でうずくまっていた。

「馬鹿!もう夜だぞ、心配したんだから!」

「ゴメンね、あのね、足、怪我しちゃって。」

涙目で訴えたメイの足には、確かに傷があった。

ユウはメイに背中を向け、しゃがみこんだ。

「……のって。帰ろう。」

「え、でもあたし重いよ、おばあちゃんより。」

「怪我人が四の五の言わない!」

「……お願いします。」


あたりはすっかり暗くなっていた。

「あのね、あたし…夏になると思い出すの。…お母さんのこと。」

ユウの背中で、メイがぽつりぽつりとしゃべりだした。

「ここに来たの、夏だったからかな。無性に懐かしくなって、泣きたくなって。……じっとしていられなくなるの。」

「……そっか。」

「ふらふらしたからって、どうにかなるわけでもないのにね。ゴメンね、いつもユウやみんなに迷惑かけて。」

「……ねえ、メイ?」

「何?」

「小さいとき…メイが最初にいなくなった日。覚えてる?」

「え、うん。確かクレアお姉ちゃんが見つけてくれたよ。」

「俺も、あの日メイをめちゃくちゃ探してたんだ。見つけないといけない気がして。今日会えなかったら、ずっと会えなくなる気がして。」

「え……。」

「それからもメイがいなくなった日は、俺、全部探しに行った。俺じゃなくて、いつも他の人が見つけたけど。」

メイは黙って聞いていた。ユウは続ける。

「姉さんがいつも言ったんだ。ユウは子供なんだから無理して捜さなくていいって。ユウまで行方不明になったら困るって。
でも、俺は探した。いつも、メイを。メイと会えなくなるなんて、俺、耐えられないから。」

「ユウ……?」

「ねえ、メイ。ここには確かにメイのお母さんはいないけど、じーちゃんもいるし、町のみんなだって、それに。」

ユウは立ち止まり、メイの顔を見る。

「それに、俺だっているよ。メイは俺じゃ嫌かもしれないけど。俺は、あのころより少しは大人になったよ。
自分でメイを見つけて、おぶって連れて帰れるぐらいには、なった。」

少しの沈黙。ユウは、真っすぐメイを見つめている。メイが口を開いた。

「ユウ……。ユウ、あたしは、ここにいるよ。」

「本当?もう、黙っていなくならない?」

「うん。ずっと、ユウと一緒にここにいる。」

元から、おじいちゃんやユウがいるこの町から出ることも出来なかったし、しようとしなかったもの。

そういってメイは、ユウに抱きついた。


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