今回の文庫はすごい。のっけから強烈な短編。あとがきに、体調が悪いときは読まない方が良い、と書いてあったが、その通り。いくらスカトロやエログロに耐性があっても、これはちょっとびっくりする。
表題作はマスコミに言葉狩りに対して反発し、断筆していたときに書かれた作品とのこと。この本の最後にある、「附・断筆解禁宣言」の中で、ご本人は断筆中に作品が発表できなかったことについて、「負け惜しみではなく、発表できないことがまったく苦痛ではなかったんです。」と書いておられるが、この作品を見るとそんな気もする。のびのび書いているという感じはしないが、冷静に計算して書いている、という感じであり、断筆のあせりというようなものは感じられない。
前半の5つの作品については、筒井康隆の得意パターン。ドタバタあり、えぐいものあり、不思議な夢感覚のものあり。今回は笑える、というものは少ないが久しぶりに筒井康隆の世界に来た、という気分。
後半の七福神をテーマにした作品、歌舞伎を扱った作品は、ちょっと難しかった。
最後の首長ティンブクの尊厳、という作品はまた僕の知っている筒井ワールド。
下品、というとそうかもしれないが、それによって心の領域を広げられるという事に価値がある、と思うのは筒井ファンだからか・・・。
最後の「附・断筆解禁宣言」は、断筆を解禁したときに文藝春秋と行った対談。断筆宣言をした後に、朝まで生テレビにご本人が出演した討論を見たが、これについては今回あらためてインターネットで色々なページを見てみたら、賛成・反対ともに色々な人が書いていた。
差別の問題は難しい。
池田晶子の「帰ってきたソクラテス」に書かれていた言葉が、その難しさを表していると思う。
「差別の問題は、契約の範囲でしか扱うことはできないよね。人は他人の意識なんてものを問題にすることはどうしたってできない。したがって、それを責めることも変革を命じることも同じだね。僕たちはそれを外に現われた発言と振舞でしか扱えない。このことは知っておいて損はないよ」
断筆の経緯については、色々と本が出ているので、そのうち読んでみたいと思う。
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