2004年9月18日
今どきの教育を考えるヒント 清水義範 講談社文庫
宴会で清水義則が面白いと聞いて本屋に行って見てみたら、たくさん文庫が出ていた。この人は愛知教育大の国語科を出て、東京に出てサラリーマンをしながら小説を書き、文壇デビューを果たした、という人らしい。
お勧めのタイトルは無かったが、何冊かの中からこの本を選んで買った。

この本は雑誌「現代」に連載していたものを一冊にまとめたもの。
タイトルどおり、教育に関する事を書きつづったものである。作者曰く、自分は教育大には行ったものの、教師にはなろうとは思わなかったけれど、自分の資質の中に先生というものがあり、一度は自分の教育観を書かないといけないだろうと思って書いたとのこと。

作者は長いこと小学生の作文教室をやっており、実際の子どもたちの事を作文を通して知っている事や、教育業界に知り合いがたくさんおり、観念的な教育論ではなく現場に即した意見を書いてあると思う。

「教育業界という奇妙な世界」では教育に関わる先生たちが非常に狭い世界におり、「学校教育ももう少し間口を広くし、世間に顔を向けていく必要があるんじゃないだろうかという気がする。」と書いている。そうかもしれない、と思う。

荒れる子供たちに関して、3回にわたって書いているが、作者がたくさんの新聞記事を読んだ上で原因を分析し、今の日本は物質的には非常に豊かであるが、一方で人々の満足感は物を所有する事にしかなく、物をすべて所有する欲求を持ってしまったら、その欲は満たされるはずがない、と説き、今の日本人はそこにしか幸せ感が無いので、誰も確かな誇りが持てないで生きている、と分析する。それが何となくイライラしている元だと。

要は消費文明だけの国になってしまった日本では、あれも買える、これも買える、こんなものも持てた、というのが自分の存在意義であり、誇りなのだ、ということになる。
でも、何でも買えるような人は一握りの人だけであり、そんなことは中学生くらいになればわかってしまう。
だから、イライラしてキレてしまうのだ、という。

これは本当にその通りだと思う。

すべてが拝金主義になり、社会にお金以外の良きもの、夢がなくなってしまったのが大きな原因だ。

それを作ったのは今の大人であり、「ひとに迷惑をかけず、正直に、好きなことをコツコツやっていく人生の幸せや満足感」を子供に教えられますか?と書かれると、う〜ん、苦しいなあというのが今の中年の実情かもしれない。
バブルで日本中が踊って、その後しばらくしてキレる子供たちが問題になったんだから、時期的にも合うだろう。
今の大人がその風潮を変えないと、キレる子供たちは無くならないという事だと思う。

また、「教育の背負う宿命」というところでは、

「大人は子供が嫌いである。
 そして、子供は大人が嫌いである。
 どうも、それが人間としてノーマルなことらしいと、私は思うのだ。」

と書かれている。これも賛成。
「人間だけが、前の世代のやり方を批判できる。」という言葉は正しいと思う。
ジェームス・ディーンをステレオタイプとする、怒れる若者、というイメージは、社会が良かれ悪しかれ変化していくためには必要なものであり、それが必然なのだろう。
だから、教育というのは宿命的に半分はうまくいったとしても、半分はうまくいかないものなのだ、と言う。

最後の「文部省の教育方針をチェック」というところでは、「心の教育をするための具体策として、家庭教育手帳なるものを配布するとか、全国の公立中学校に「心の教室相談員」を置くとか、スクールカウンセラーを置くとか、放送界にVチップを導入するなどのことが並んでいる。」という事に対して、「はたして、そのぐらいのことで「心の教育」とやらができるんだろうか、と思ってしまう。親がちゃんと子供にむきあおう、とか、社会が子供に正しく接していこう、というレベルまで話が踏みこんでいながら、そのための方策がとても脆弱なような気がするのだ。」という。
これも、言えてるなあ、と思う。

それ以外にも、色々な事が書いてあるが、全体に子供の立場に立った提言が書いてあると思う。中にはもうちょっと突っこんでほしい、という感じのものもあったが・・。

教育に興味のある方にお勧めします。