何となく本屋のビジネス書のところで立ち読みしたら、目次の第3章に、「問題の真因は細部に宿る」という見出しがあったので買ってしまった。
僕は「神(真実)は細部に宿る」という言葉が好きで、自分の経験からしても、細部=現場に解決の糸口があるというのは真理だ、という確信を確かめる意味で興味があった。
何か問題があったときに、高いところから俯瞰することも必要だが、常に神は細部に宿っており、何気ない日常の仕事・作業・やり取りの中に、問題点が隠されていて(あるいは現場ではとっくに気づいていることもある)実際に現場の仕事を追いかけないと真実は手に入れられないものだ、というのは経験的真実である。
ところが、問題意識をもって細部を見ないと真実は顔を出さない。この問題意識、というのが曲者なんだと思う。これが「考える」という事につながっている。そして、問題意識を持つ(=考える)ためには、知識が必要だ。この場合の知識というのは、できるだけ幅広い、経験を伴った知識が望ましい。結局、問題解決できる人というのは、常に「考えて」いる人だろうと思う。
もう一段上で大事なのは、何のために、という理想とか理念とかビジョン、ミッションというものだろう。「何のために何をするのか」、「こうあるべき」、最終的には「何のために生きるのか」という思いがないと、問題意識というものが出てこないと思う。
この事は、ここ数年どういうことなんだろう、と思ってきた(考えた、というほどは考えてない)事だが、もう少し時間が必要だと思う。
この本だが、あとがきに書かれているように、問題を解決するためには意志決定が必要であり「意志決定とは、たんに「決める」ことではなく、ある決定事項にたいして複数の選択肢から明確に設定された判断基準により、最も適切な方法を選ぶという分析行為」であることから、その分析の方法を述べている。
それを作者は「解決学」と名付け、これは現代人の必須科目である、と第1章で書いている。「解決学」とは、「正しい解決策を導き出す思考プロセス」であり「ある状態を前にして、しっかり現状を把握する、その原因をとらえる、複数の対策を立案する、実施するなど正しい段階にしたがって考え、アクションを起こすこと」と説明している。日常生活でも必要なものだと思う。
「問題」とは何か、ということも、第1章で書かれている。実際、正面きって「問題」とは何か?と聞かれると答えるのは難しい。例をひいた上で、
問題=あるべき(期待する)状態からの逸脱
と作者は定義している。
世の中にはよくわからない解決策が多い、と言い事例が示されている。例えば・・・
学校の成績が上がらない→勉強しなさい
というもの。指示を受けた当人だけでは解決できない問題は現実に数多く存在する、と述べた上でこのレベルの解決策では何も解決されない、と言う。
次に短絡的な解決策として、
学校の成績が上がらない→学習塾に通わせる
という事例が示される。このような対策は頭を使わずして立案できる対策、といわれ実効はほとんどない、といわれる。
そしたら、どうしたら解決できるのか?というと頭を使うこと(自分の頭で考える)・・・なぜその状態になったのか、どういう点が本当に問題なのかを分析する事が必要だ、となる。「どこかに糸を複雑に絡ませる「問題の本質」が見つかるはず」とのこと。
言うは易く行うは難し、というヤツだけどその通りだと思わざるを得ない。
そのためには論理的であることが必要であり、「開かれた議論を促し真に創造的で論理的な人」になるべし、という。
ビジネス本であるが、そういう事を書いてある本で、事例はビジネスだが、これは生きるための知恵(これを本書では「思考の道具」と言っている)だと思う。
ここからは思考の道具についての説明が始まる。
最初にUCLA(カリフォルニア大学 ロサンゼルス分校)のホールに掲げられている言葉が紹介されている。
教育とは「人類が不可欠と判断したツールの使い方を身につけること」
ここでいうツールとは学問や論理を指しており、アメリカらしく実学的であるが見習うべき点も多い、と言われる。同感である。
本書の思考技術のおおもとのアイデアは、C.H.ケブナー博士、B.B.トリゴー博士が開発した「ラショナル思考」を元に作者が日本に適用するように修正を加えたものらしい。EM法(Effective
Management Method)という名称。
本書の題名となっている、15の道具は下記。
1.問題の課題化
2.分離・分解
3.優先順位
4.判断基準
5.分析課題
6.情報分析
7.原因の検証
8.対策
9.決定事項
10.選択肢
11.マイナス要因
12.重大領域
13.具体的な問題現象
14.予防対策
15.発生時対策
興味のある方は、一度読まれたら面白いと思います。
いくつか、興味深い指摘を紹介すると・・。
思考のマニュアル化とは、「この案件については、前例が無いのでお受けできません」というようなこと。
思考という行為は、決められた道のりがないけれど、どうやって前にすすんでいくかを工夫することであり、前例がない、決まりがないなどといって即座に結論を出してしまうのは、つまり「考えていない」のだという。
思考にかんしてマニュアル主義、教条主義に陥るのがいけない理由は、そこに理念や理想がないから。こういうところにはカスタマーは来なくなる。
普通に生活していれば、必ずマニュアルに載っていない事態が訪れる。その時に役立つのはいかに行動の裏づけとなる理念や、個人としての良識をきちんと保持しているかです、とのこと。
問題の真因は細部に宿る、という章では、
「問題に直面すると、現場・現実を見ないで、即座に全体的かつイメージ先行の対策を考えるから間違う。真理は細部(ディテール)に宿る。大きな問題であればあるほど、顕微鏡で見るような態度が必要なのだ。」
と書かれている。
こういうのを我が意を得たり、というんだろう。ホント、これは言えていると思う。
なぜ問題は起こり続けるのか、という章では
「情報は「集めてから考える」のではなく、「考えてから集め、そして考える」のです。これを肝に銘じるだけでだいぶ作業効率は上がるでしょう。」
と書かれている。情報が増え、集めやすくなっただけに、こういう考えが必要だと思う。
大体の雰囲気はわかってもらえると思う。
作者紹介を見ると、1934年生まれだからもう70歳になる。70歳でこんな本を書ける、というのはすごいことだ。
ビジネス本というと、敬遠する人も多いだろうし、縁がない、と思っている人も多いだろうけど、本屋のビジネス本のところを一度歩いてみて下さい。中には面白い本もありますよ。
|