2005年2月12日
9.11アメリカに報復する資格はない! ノーム・チョムスキー 文春文庫
ノーム・チョムスキーというと、人間の言語の構造は基本的に同じであり、あらかじめ脳に言語能力がインプットされている、という事を唱えた言語学者、ということをどこかで読んで名前を覚えていた。本屋に行くと、薄い文庫本に名前が出ていて、その題名が9.11という大きな文字であり、何で言語学者が・・・と思って購入。

著者紹介を見ると、チョムスキーは言語学、哲学、政治学の分野で活躍しているらしい。

本の内容は、2001年9月11日のテロの事について、チョムスキーが各国のメディアのインタビューにこたえたものを集めたものである。

心理学者の岸田秀がアメリカの病理の根っこは、国を作るときに原住民(アメリカインディアン)を虐殺した事の原罪感にある、という事を言っているが、この本のあとがきによると、チョムスキーも同じ事実を指摘しているとのこと。
訳者のあとがきによると、

「・・・感謝祭(11月の第四木曜日)に国立公園を散歩していたチョムスキーは、一つの墓石を見つける。碑文には、「ここにひとりのインディアン女性が眠る。ワムパノグ族の人だ。その家族と部族は、この偉大な国が誕生し、成長することを願って、身を捧げ、土地を与えた。」チョムスキーは、碑文の背後にある歴史的事実を指摘する。歴史上で最も大掛かりな集団虐殺の一つとされる行為があり、インディアンは殺され、人口が二十分の一に減らされ、追い散らされたのである。彼ら原住民族が、国家建設の気高い目的のため身を捧げたというのは正確とは言い難い。現在の推定では、コロンブスがアメリカ大陸を「発見」した一四九二年の時点で、ラテンアメリカ一帯には八〇〇〇万人のアメリカ原住民がいた。それが、一六五〇年には、五%しか残っていなかった。もの凄い規模の虐殺が行われたのだ。
 国立公園であるから、大勢のアメリカ人が訪れ、碑文を読む。善意の、まともな人々であるが、別にこれと言う反応は示さない。しかし、アウシュビッツやダッハウ(ナチスのユダヤ人強制収容所があった場所)を訪れ、「ここにひとりの女性が眠る。ユダヤ人。その家族とその民族は、この偉大な国家の成長繁栄のために、自らの身体と、財産を捧げた」と書いてあったとしたら、反応が違うだろう。
 これがチョムスキーの筆法である。」

チョムスキーはこのような状況を、アメリカの「幻想と自己欺瞞の複雑なシステム」と呼んでいるらしい。
ニューヨークタイムズは、チョムスキーを評して、「議論はあるが、現存する最も重要な知識人」と呼んだ、とのこと。
ここにアメリカの岸田秀がいた。ということは、岸田秀は日本でもっと評価されてもいいと思うが・・。

本の内容は、通常のマスメディアではほとんど得られない情報。

アメリカが1980年代にニカラグアを攻撃し、国際司法裁判所で国際的テロとして有罪を宣告されていた事は、全く知らなかった。(アメリカが唯一の有罪を宣告された国とのこと)
また、トルコにおけるクルド人撲滅の支持、スーダンの製薬工場の破壊など、アメリカはテロ国家の親玉である、という事が示されている。
1980年代には、英国と米国はサダム・フセインに強力な支持を与えていた(これは何かで読んだことがある)、という事も書かれている。

9.11のテロに対する正しい対処とは何なのか?・・法のルールに従い、犯人を処罰する、これではないか、とチョムスキーは言う。

「背後にある懸念や苦情を現実的に検討し、それに手当てする努力をする一方で、法のルールに従い犯人を処罰する。これの方がはるかに理にかなっている、とわれわれは考える。」

この本を読むと、今のアメリカのやり方、日本の追従のしかたについて、これでいいのか、と思う。

国家や宗教や民族が悪いのではなく、犯人が悪いのであり、なぜその犯罪を犯すに至ったのか、という事について何らかの対処をする、というのが正しい、というチョムスキーの言うことは当たり前の事のように思える。

当たり前の事は難しい・・これは真理。

9.11のテロについて、考えてみたい人にお勧めします。