動物行動学者である日高敏隆のエッセイ集。
以前、この人が訳した「利己的な遺伝子」という本を読んだが、すごく面白かった。それから、この人の名前を見ると、読むようにしているが、文庫は少ない。今回の本は動物行動学者の観点から一般向けに書かれたエッセイ集。
個人的にはもっと動物寄りの話の方が好きだが、今回の本は人間寄りのエッセイ。
淡々とした味がある。動物といっても、昆虫の方がたくさん出てくる。
若い頃にカイコの手術を勉強するために信州へ行った話(夏のコオロギ)
スリッパは日本特有のものであるという話(スリッパ再論)
ニューヨークの街に住むハヤブサの話(街のハヤブサ)
鳥がみんなで飛び立つときの民主的合意形成の話(鳥たちの合意)
カマキリのタマゴの位置と積雪を話(動物の予知能力)
地下に住む昆虫の話(洞窟昆虫はどこから来たか)
利己的な遺伝子について書いた話(幻想の標語)
最近分かってきたペンギンの生態の話(ペンギンの泳ぎ)
・・・・
などなど。
特に、人間は自然界に調和があると思っているが、実際には自然界はさまざまな種によるシェア争いの場であり、一見調和があるようにみえているだけで、実際には互いに相手を徹底的に利用して、自分の子孫をできるだけたくさん残そうとしているだけらしい・・という話(幻想の標語)は興味深い。
「 花はなんとかして昆虫に花粉を運ばせたい。蜜はそのためのやむを得ないコストとして作っている。昆虫は蜜だけ手に入れればよい。花粉なんか運んでやる気はさらさらない。けれど、花のほうが無理やり花粉をくっつけてしまうので、やむなく運ぶことになっているだけだ。そうだとすると、「自然と人間の共生」とは何を意味するのか?
自然が果てしない競争と闘いの場であるなら、「自然にやさしく」というとき、いったいそのどれにやさしくしたらよいのだろう?どれかにやさしくすれば、その相手には冷たくしていることになる。」
これは市場でモノやサービスを売るときの原理に近いように思う。
資本主義、自由主義が生き残るというのは、自然の原理に合致しているからなのかな?と思った。
なかなか含蓄の深いお話が多いエッセイ集。
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