2005年3月13日
宇宙船ビーグル号 A.E.ヴァン.ヴォクト ハヤカワ文庫
こないだ読んだ、脳ミソを哲学する、という筒井康隆の対談集にこの本のことが出てきており、面白そうだったので、読んでみた。
久しぶりの本格的なSF小説。ミステリと違って、SFは海外の小説をあまり読まず、日本の作家ばかり読んできたが、この本は名作と云われているだけあってすごく面白かった。

物語は、宇宙探査のために地球を出発した巨大な宇宙船ビーグル号が、色々な知的生命体と遭遇して、それらと戦っていく、というもの。
まず、出てくる生命体がバラエティに富んでおり、作者の想像力に驚かされる。

メインのストーリーはそれらの生命体との闘い、という事になるが、この作品を面白くしているのは宇宙船内の人間たちの人間模様だ。
乗組員は船を操縦する船長をはじめとする軍人と、探検のための科学者たちである。
物理学者、化学者、心理学者、社会学者、生物学者、数理天文学者、地層学者、考古学者などのスペシャリストたちと、主人公である情報総合学者である。設定では、情報総合学というのは、全ての科学を統合する学問という事になっている。

色々な学者たちが、人間味豊かに描かれていて、自分の専門の知識の枠でしか考えられない、権力志向の「学者」という人々がうまく描かれていて、面白い。
人の意見を聞き、中立な判断ができるようなまともな隊長が倒れ、権力欲丸出しで、自分の意見が通らないとキレてしまうような権威者がえてして隊長になってしまう、というありがちな不幸。
その中で、何とか正しい方向にものごとを進めようとする主人公の苦労がよく書かれている。
外の敵と戦うために、まず内の敵と戦わないといけない・・・実社会でもよくある話だが。

考古学者は日本人、という設定になっており、彼が輪廻風の文明の衰退論を言うところに作者の東洋に対する思いが入っているような気がする。

作品が発表されたのは1950年という事だが、今読んでも色あせた感じはしない。
50年以上前に書かれた作品とは思えない。今の若い人が読んでどう思うかはわからないが・・・。

しかし、日本も海外も含めて、SFの作品、というのが本屋の棚から減ったように思う。
僕らが小学校の頃は、ロボット、アンドロイド、サイボーグ、タイムパトロール、エスパーなどという言葉は、アニメから覚えていた。あの頃のアニメはSF系が多かった。
エイトマン、アトム、鉄人28号、サイボーグ009、スーパージェッター、ワンダースリー、ビッグエックス・・など。

子どもの理科離れとつながっているのかもしれない。
理科好きを増やすために、SF系のアニメを増やしてはどうでしょうか?