2005年5月15日
大学は生まれ変われるか 喜多村和之 中公新書

著者はずっと大学教育関係の仕事をして、現在早稲田大学の客員教授・私立高等教育研究所主幹という肩書き。
今までにもたくさん大学教育に関する本を書いている。

この本は、現在の大学が受けている(というか、文科省に言われて受けさされている)評価について、主に書かれている。

第一章ではアメリカ・ヨーロッパで盛んになっている、大学のランキングについて紹介し、その功罪について触れている。ただ、アメリカでは、ランキング方式による大学評価を支える理論や法則の研究が進んでおり、一概に大学ランキングを否定することはできないとのこと。
著者曰く、大学がランキングに対抗できるためには、「大学自身が学生や保護者や雇用主たちに、より信頼できる、たしかな評価情報を発信すること、つまりみずからの真価を公開できることが前提となるだろう。日本の大学はそれをできるだろうか。できなければ市場の評価に頼るほかなくなるだろう。」とのこと。

第二章では、「評価をめぐる大学・市場・政府」と題し、大学に対する評価について、いろいろと書いている。
ここでも、「今日の日本には、科学的な大学評価の理論も方法も開発されているとはいえず、したがって万人が公正かつ客観的だとみなす基準にもとづいた大学評価の方法は確立していないのである。」と書かれている。
この前段でも書かれているが、「教育や研究の質」というものを評価する、というのは非常にむずかしいものだとのこと。
一体何をもって「質が高い」というのか、一概には決められない、という話である。

だからこそ、大学関係者からは批判があるかもしれないが、僕は、就職率や中退率等々の数値や海外でやられているような数々の指標を用いた、市場関係者の評価をどんどんやればいいと思う。過渡期には問題があるかもしれないが、その中から選ばれる指標や方法というものができてくるのではないか。
おそらく、大多数の大学内部の人たちには、もともと「大学評価の理論や方法」を開発しようというような気もないだろうし、第一、「万人が公正かつ客観的だとみなす基準」というものがあると思っている事自体が少し世間離れしているように思う。
どんな評価を作ったところで「万人が公正かつ客観的」であるようなものが、特に大学というようなものにたいしてできるとは思えないし、それはやらないことの言い訳にしかすぎないと思う。
文科省に守られて、護送船団方式でやってきたツケが回ってきたという事だろう。
この章の結びに、

「したがって、大学が社会的支持を獲得していくためには、大学は、大学を必要とし、これを支援してくれる国民に、現代社会において果たしている大学の役割の重要性を納得してもらえるような形で説明するとともに、みずからもたえず大学の教育・研究の向上に努め、そのことをさまざまな形で実証していかなければならなくなっている。現代ではそうした努力を怠ったり、あるいは世間を納得させることに失敗したりする制度や組織は、生き残りが困難になってきている時代である。こうした観点から臨教審は、すでに一九八六年に大学はいまや「大きな社会的存在」であり、「社会の公共的投資に支えられている組織体」であるから、「大学がその社会的使命や責任を自覚し、大学の根本理念に照らしてたえず自己の教育・研究および社会的寄与について検討し、評価を明らかにするとともに、教育、研究の状況についてその情報を広く国の内外に公開することを要請する」として、大学の社会的責任の自覚と大学情報の公開をもとめている」

と書かれている。
1986年からほぼ20年間、大学がみずからほったらかしにしてきた、ということだ。

第三章では、実際に大学で行っている評価について書いているが、最後の部分に、学生による授業評価について書いてある。僕らの世代では考えられなかったことだが、学生が先生を評価する、という事が実際行われているということである。
この章の最後に書いてある事が印象的だった。

「授業評価が成立する土壌は、最低限、教員と学生のあいだに、学ぶということの共通目的にもとづいた信頼関係が確立されているということが不可欠である。いいかえれば、この信頼がないところでは、教育は成立しないし、授業評価を行っても実効性に乏しいであろう。」

また、四章で自己評価と第三者評価について書いている。現状の紹介という事ではよく書けていると思うが、一体どうするべきなのか、どうすれば、少なくとも今よりは進めるのか、というような部分が出てこない。
このあたりが、大学関係者の限界なのか、と思ってしまう。
いきなり100は無理でも、70できれば進歩、という考え方が普通の世の中の考え方だと思うが、そうはできないのか?

さすがに、終章で、「大学の危機は、政治や産業など外からの圧力ばかりでなく、むしろ大学の自立性の喪失の危機に由来するのではないだろうか。」と著者自身も書いている。
その通りなんだろう。

タイトル通り、「大学は生まれ変われるのか」と問いかけている内容の本。
もうちょっと著者自身の答えがあれば良かったのに・・・。

今の大学を取り巻く状況を知りたい方は、読まれてもよいかと思います。