貸してもらって読みました。どうもありがとうございました。
海外駐在はしたことがないが、海外駐在の人はたくさん知っている。
出張した時は、必ずお世話になったし、場合によっては家に呼んでくれて、ご馳走になったりした。
本当に海外駐在は大変だと思う。
単身赴任の人はもちろん大変だと思うが、家族で行っている人は違う大変さがあると思う。
実際に海外で仕事をする人(たいがいはお父さん)は、仕事先に日本人がいたり、日本とのやりとりもあり、何らかのかたちで日本や日本語と接する事がある。
しかし、家族は大変だ。
子供もお母さんも、いきなり言葉が通じない所で、日本とは何のつながりもなく生活を始めなければならないのだから。
何人かの海外駐在の方々のご家庭を見たが、本当に大変なのは奥さんだろうなあ、と思った。
子供の面倒は見ないといけないし、買い物や色々な手続き、地域とのつながりなど、外国でやるのは想像を絶する経験だろうと思う。
行きたい、と思っていた人ならまだしも、えー、ほんと?という人がほとんどだろう。
慣れてくれば、まだましだろうが、それまでは苦労の連続だと思う。
この本は、その駐在員の妻として、家族でアメリカに行った作者のニューヨーク紹介の本。
最初はオーランド(フロリダ)に住み、そこで3年、ニューヨークに移って2年、足かけ5年をアメリカで過ごしたとのこと。
3年のオーランドでの生活でアメリカに慣れてからニューヨークに来ているためか、ニューヨークでの苦労話というのは少ない。これは作者が意識して書かなかったという事もあるのだろう。きっとたくさんの苦労話があったに違いない。
本の全体を通して、何でも見てやろう、何でもやってみようという前向きさと、せっかく来たんだから、楽しまないと損、という関西人らしさ(関西の人だ!)がある。そういう人だから、この本が書けたんだろう。
一番驚いたのは、ニューヨークでの移動は地下鉄を使う、ということ。
ニューヨークの地下鉄というと、まず、アブナイというイメージがあるが、景気が上向いてから(市長が犯罪取り締まりにも力を入れたらしいが)、安全になったとは聞いていた。でも、普通に市民が移動の足として地下鉄を使うのか・・ということにびっくり。
ただ、駅にはトイレがなく(安全のため)、トイレがないのに、おしっこのにおいがするらしい。(トイレがないからするのか・・。)
そんなニューヨークでの生活がよくわかる。
普通の人の視線で書かれているからだろう。
また、音楽の事が色々と書いてあり、これを読むと行きたくなる。
ブロードウェイのシンフォニースペースに、ジャズのアンサンブルを聴きに行った話とか、あの、ダンディなベーシスト、ロン・カーターをブルー・ノートに見に行った話とか、歩いていけるところにジャズのライブハウスがあり、夜な夜な出かけるとか・・・。
なんと、ギターの名前にもなっている、レス・ポールも、ジャズ・ピアニストのオスカー・ピーターソンも見たとのこと。
作者には悪いが、普通の人が、そんな人たちを見られるのが、ニューヨークなのか・・とため息が出る。
個人的に共感したのは、作者のお父さんが「エンサイクロペディア・ブリタニカ」を買った、というおはなし。(これはニューヨークとは関係ないが)ある日、若いおねえさん(ウチの場合はおじさんだったが)が来て、本の丈夫さを示すために、ぶ厚い思い事典をページ一枚で持ち上げて見せたのにいたく感心し、結局は英語の二十数巻の百科事典を買ってしまった、とのこと。
ウチも全く同じパターンだったので、一緒や!と感心し、すごく親近感を覚えた。
本の中では、作者の家族も紹介されているが、息子のこと、娘のことについては何度か語られる。他の家庭と同じく、親子の葛藤があり、子どもたちの悩みがあるのだが、まわりの人々に恵まれ、そして親も子も努力したおかげで、異国の地で家族がつながりを強くして、成長していく姿も語られている。
異文化の中で時間を過ごすことで、成長できる部分というのもあるのだろう。
僕も短い経験だが、3ヶ月ほどを異文化の中で過ごし、それはすごく濃縮された経験になっている。過ぎ去ってから、ふり返るとよけいにそう思う。
この本自体が、作者の日記と言えなくもないが、日本とは異なる文化に触発されて、作者の才能が開花した、という側面もあるように思う。
ニューヨークの歳時記である、サンクスギビングデーのパレード、ロックフェラーセンターのクリスマスツリー、タイムズスクエアのニューイヤーズイブ・カウントダウンや児童厚生施設でのボランティア体験、ハーレムの話、イチローと松井の野球観戦、ニューヨークで活躍する日本人のことなど、一般人の視線で見たニューヨークがかいま見られる。
それと、何といっても楽しいのは、食べ物の話。作者の嗜好が出ているのか、食べ物のことになると筆が進んでいる。ガーリックブレッド、ギリシャ料理、デザートバー、アフタヌーンティーのおはなしなど・・・太るやろなあ、と思わされる。(実際太っている、と書いてあった)
ニューヨーク・・・この本を読むと、行ってみたいと思わされる。
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