ブラブラと本屋に行き、帰りに喫茶店に寄るために、何かいい本はないか?と店頭を探していたら面白そうな本が見つかった。
この本には、アメリカ駐在のサラリーマンが見た、素顔のアメリカが書かれている。
実際に住んで、アメリカ人とつき合い、自分で確かめたアメリカの姿は説得力がある。
第1章 アメリカは底抜けに面白い
第2章 ビジネスマンとサラリーマンの間
第3章 アメリカ人の財布の中身
第4章 アメリカという国のかたち
という章立てで、実際に作者が歩き回り、つき合ったアメリカが語られる。
いくつか、面白いものを紹介すると・・・
「ところで、アメリカでいちばんうまいハンバーガーショップはどこか?これはアメリカ人にとっての永遠の問いである。日本に進出しているのはマクドナルドとウェンデーズぐらいのものだが、本場アメリカには無数のハンバーガーショップがある。
カリフォルニアに住む人が文句なく「うまい」と絶賛するのは、ファットバーガーとイン・アンド・アウト・バーガーだ。
(中略)
この両方の店に共通しているのは、注文してから焼き上げることだ。冷たい野菜のさくさく感と熱いハンバーガーのうまみが口のなかでミックスし、もう病みつきになりそうなほどだ。これにくらべると、アイスクリームやチキンナゲットで釣るマクドナルドはガキの食い物と、カリフォルニア人がいうのもうなずけてしまう。」
「だいたい、ダウンタウンをうろついているラリったレゲエのオジさんは、ピストルも何も買うお金がないので、本当は見かけほどは怖くない。じつはロスアンゼルスで本当に怖いのは、そこいらへんを歩いている中学生や高校生のガキどもで、親父の実弾入りのピストルを盗んで仲間とヤクザごっこをやったり、金ほしさに麻薬の密売人をしたりするから手に負えない。ま、唯一の救いは、日本と違ってカリフォルニアの場合、少年でも十六歳以上には成人法で死刑が適用可能なことぐらいだ(こんないい方をすると、「少年法」改正反対論者の反発をかうかもしれないが)。」
「・・・「日本の会社はマネジメントがやりやすいはず」とのことだ。その理由は、社員の価値観が統一されていて道が一本しかないこと。すなわちホワイトカラー全員が社長を目指すという競争体制ができあがっており、この競争体制に疑問をもち、ほかのことをする者は人生の落伍者と社会が見なす。社員は、この一つの価値観だけで落伍者とならないように必死に努力する。アメリカの企業であれば、会社が傾いてきたら、クモの子を散らすように優秀な社員から先に辞めてしまい、ライバル会社に引っ張られる。そういった人材流出のしんぱいがあまりないだけ、日本のシステムの方が経営がやりやすいだろうというわけだ。」
「・・・IBMの人間に、現状の日本企業のリストラを説明すると、「それはリストラではなく単なるレイオフ(人員削減)ですよ」という。リストラとレイオフの大きな違いは、それを行なう経営者がコア競争力に対する明確な理想像をもっているかいないかということだそうだ。日本企業ではやりの分社化は、コア競争力の極大化と直接関係があるのかどうか疑問だし、究極的には分社化・転籍による給与削減が目的ではないかという。ちなみにアメリカでは転籍とはいわず、そのものずばり「解雇のうえ、関係会社で再雇用」というそうだ。この人曰く、「日本は戦争に負けて退却することを転進といったり、解雇を転籍といったり、変な民族だね。大事なことは本質を動かしていくことだが、日本の文化が本質をストレートにいうことを歓迎しないのだろうね。・・・」
「アメリカ人は一般的に貯金をしないといわれているが、貯金をしないのではなく、銀行預金をしないだけで、余剰資金でだいたい有価証券を買い、せっせと利殖に励んでいる。銀行預金をしない理由はいろいろあるが、いくつか大きな理由をあげると、
1. アメリカでは銀行倒産がけっこうあること
2. 倒産した場合、金利も含めて十万ドルまでしか預金の払い戻しが行われないこと
3. 銀行金利は、一般的にいってインフレ率と大差がなく、利殖の手段として非常に効率が悪いこと
4. 銀行預金以外にさまざまな度合いのリスクとそれに応じたさまざまのリターンを提供する各種の運用方法が手軽に利用できること
などだ。
要するにアメリカ人は、銀行の経営者や政府の役人をあまり信用していないのである。経済統計でよく日米の貯蓄率の大小が論議されることがあるが、アメリカの貯蓄統計には一般的家庭の利殖手段として大きな部分を占める株式投資は、貯蓄として算入されていない。一方、日本の統計では住宅ローンの返済分が貯蓄として入ってしまう計算方法になっている。アメリカの統計は、国民の蓄財方法が銀行預金ではなく投資であることを無視し、日本の統計方法では自宅など事実上現金化して消費することが難しいという事実を無視している。これらの事情を考慮すると、広義のアメリカ人の貯蓄率は、少なくとも中産階級においてはそんなに低くはない。」
「・・・日本では「アメリカの大学は入るのが簡単で出るのが難しい」といわれているが、これは少しかいかぶりすぎだ。アメリカの多くの大学の場合、もうおとなである大学生に対して宿題まで出してくれて、まるで日本の受験高校のように手とり足とり指導してくれる。この指導のとおりにやっていれば、なかなか落第することはない。大学の落伍率が高いのは、勉強についていけないという消極的な理由より、学費が続かなくなったり、途中で専攻を変えるなどという明確な理由がある場合が少なくない。目的がはっきりしていて、そうした理由が生じにくいところ、たとえばハーバードのビジネス・スクールなどを見ると、途中退学者は三%程度しかいない。・・・」
「401Kの最大の利点は、なんといってもその資金の運営にかかわる人が、全員当事者であることだ。ファンドの組み合わせを選ぶ本人は自分の金を運用預託するわけだし、資金を運用するファンド・マネジャーは運用成績が直接自分の給料に響いてくる。運用成績が二年間ふるわないと、そのファンド・マネジャーはクビになるという厳しい社会だから、必死になって運用する。
これに比較すると、日本の厚生年金基金の場合、そのトップはたいがい厚生省役人の天下り者で、当事者意識は完璧にゼロ。できるだけつつがなく職務を全うし、退職慰労金をがっぽりもらって、またどこかほかの外郭団体に天下りしようと考えている場合がほとんど。職員も、母体会社で出世頭の切れ者が派遣されることなどほとんどなく、確実にいえることは資金運用に関しての「ほぼ素人」が派遣されて組織が構成されていることだ。さらに組織全体が硬直しているうえ、運用期間である損保会社とも長年の関係で多かれ少なかれ癒着してしまって、機動的な資金の運用ができない。仮に年金基金団体のなかにやる気のある社員がいて積極的な資金運用により高い運用実績を出したとしても、その人の給料が上がるわけではない。なのに、逆にもし損を出したりするととんでもない責任問題に発展する。つまり、やる気なし、知識なし、インセンティブなしと、三拍子そろっているわけだ。こういう年金基金団体の環境のもとで、他人の金を増やすために真剣に仕事をしろという方がムリな話だ。」
「日本でも税金を全員青色申告にすると、選挙におけるサラリーマンの投票率が上がることは間違いないと思う。とにかく何百万円も毎年税金を払い、政治家や官僚を養っていることを考えると、頭にくる人たちも相当多くなるはずだ。とくに東京などの大都市のサラリーマンたちは、所得税の大きな部分が地方交付税として地方の土建業者を太らせることに遣われて自分たちの生活には充分還元されていないことなど、理不尽がまかり通っている現状に憤慨するだろう。」
「カリフォルニアにかぎらず、アメリカでは日本と比較してだいぶ金持ちが優遇されている。これはレーガン政権時代にさかのぼる伝統だ。なぜかというと、一人の金持ちがいれば、その人が企業を起こし、最終的にはたとえば千人の人に職ができる。しかし、逆に千人の貧乏人がいても、貧乏人は自分の生活を維持するだけで精いっぱいだから、なかなか新しい職ができない。したがって社会にとって金持ちは大切だというわけだ。・・・(中略)・・・
新たな起業の起こらない社会は税収もジリ貧で、どんどん下り坂の社会となってしまう。たまには事業に成功した金持ちが出ると、社会全体がその人から、税金という名目で、よってたかって大部分をもっていってしまう。こうした「タカリの社会構造」においては、タカられる方の金持ちはますますやる気をなくす。こうなると、もう救いがたい「タカリ社会」となってしまう、とアメリカ人は心配するわけだ。」
このような、普通のサラリーマンが長いこと住んで、実際に見たアメリカというものが、普通の人にもよくわかるアメリカの事だと思う。
本を通して、平易に書いてあるし、書いてあることには説得力がある。
実際に住んで、歩き回り、アメリカ人とつき合って意見を戦わせ、自分の頭で書いた本、という事だろう。
あとがきのところに、「アメリカ人が明るいのは、常に不安定で、変化をし続け、それを楽しんでいるからではないだろうか」と書かれている。「変化すること」が大事だ、という態度・・これが明るいのかもしれない。変化するのは苦しいことだが。
だからこそ、明るくしていなければ、変化しつづけられないのかもしれない。
アメリカについて、興味のある人は、一度読まれたらいいと思います。
|