この本を書いた人の講演を聴いて、感動したので読んだ。
山本晴義という人は、病院の心療内科の医師で、心の悩みについて、日本で唯一メールでの無料相談をやっている医師。
横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長という長い肩書きの人である。
講演では、メンタルヘルスに関する(主にうつ病)メール相談の実際について、話を聞いた。
メールは便利だけれど、直接顔も見られないし、声も聞けないし、相手の情報量が圧倒的に少ないので、実際には非常に危険であり、やるべきではないという意見が多いのは事実として認めていた。
医師法の問題もあり、対面以外での診察は違法になるとのこと。
だから、「相談」をしている(診察ではない)という立場。
本の中でも紹介されているが、うつ病の方からのメールに対して、自分の経験と知識に基づいて、丁寧な返信を行い、何度かのやり取りの後、相手の方が良くなっていく・・・というところに感心した。
簡単に、誰もができることではないと思う。
メンタルヘルスに関する知識、経験、そして情熱がないとできない事だ。
本を通じて、少しでもストレスやうつ病に悩まされる人を減らしたい、という作者の熱意が伝わってくる。
本の中に、現代の医療提供体制について、ほとんど大部分が「治療」にのみ目が向けられていて、「予防」にはあまり関心が向けられていない、という指摘がある。
国民総医療費は年間30兆円を越えていて、その一万分の一の30億円でも予防に割いたら、たくさんの事ができるという。
一人が脳出血で倒れると、何百万円単位の医療費がかかることになり、それを予防できれば、医療費の大幅な削減ができることになる。
そのためには、産業医が重要、という事が書かれている。
第二章の「仕事とストレス」というところには、色々なつらいことがあっても、それは「今」の事であって、明日、来週、来年はどうなっているかは、わからないのだ、と書いてある。現在が最後ではないことを自覚しようという考えが、ストレスを軽減する、という事だろう。
メールでの「生きるって何ですか?」という質問を紹介して、その質問に正解はない、とことわった上で、著者は、「生きがい」を持っていないとストレス社会の中で、「なぜ生きているのか」がわからなくなり、それを持つことがうつ病の予防になるのだ、という。
また、現在の日本の自殺者の数が年間3万人以上、ということだが、この数字にはトリックがあり、自殺者にカウントされるのは、統計上、自殺を図ってから24時間以内に死んだ人だけとのこと。したがって、この3万人以上というのは氷山の一角かもしれないということになる。
長生きをするためには、「社会的健康」が必要、ということも書かれている。「自分が周囲の役に立っている」「自分の仕事で誰かが喜んでくれた」という周囲との良好な関係が、社会的健康を確保することにつながる。これはその通りだと思う。
最後近くに、著者が考えている、「生きるとは何か」に対する答えが書かれている。
生きるとは、「息をしていること」であり、自分は一日に200回は意識して息をしているとのこと。意識して息をするたびに、「生かされているんだなあ」と実感することができるという。
たしかに、ストレスがたまるような会議の席では、意識して息を吐くことで、ちょっと気分が楽になるのは事実。
意識して息をすることは大事だと思った。
ストレス解消のためには、スポーツすることや旅行すること、休息して遊ぶこと、食べることを楽しむこと、話すこと、歌うこと、眠ること、笑うこと、そして飲むこと・・とのこと。
結びに、「やまない雨はない」という言葉が書かれている。
「今がどんなにつらく苦しい時期であったとしても、必ずそこから脱却する時はきます。たとえ今、本当にあなたが世界中で一番つらい人物だったとしても、あなたには他の人と同じように「明日」がやってきます。
金がない、失業した、大切な人が死んでしまった・・・。この世の中はつらい出来事ばかりです。今幸せでも、明日、いや数分後にはとんでもない事件に巻き込まれて人生のどん底に突き落とされるかもしれません。しかし、そんな人にも、世界中のすべての人と平等に「明日」はやってくるのです。そのことだけは忘れないでほしいし、たとえ忘れても、本当に生きていくのがつらくなった時には思い出してもらいたいと思います。」
こういう人が、精神医療の現場で頑張っている、ということは素晴らしいことだと思う。
|