2006年1月7日
すごい言葉 晴山陽一 文春新書

作者は英語教材の開発などを経て、今は英語教育研究家となっている人らしい。
この「すごい言葉」は、作者がいろいろな原書から、自分で感心した言葉を自分なりに選んで集めたもの。

作者の言葉を借りると、この「すごい言葉」は誰もが知っている「すごい言葉」ではなく、私しか知らない「すごい言葉」を発掘したもの、とのこと。

323個の「すごい言葉」を、32のテーマについて、8章に分けて収蔵している。

好みの言葉というのは主観に基づくので、この手の本は自分で読んで感心するしかないのだが、集めた作者の努力には敬意を表する。

一つ一つの言葉と、各章の終わりに、作者のコメントが載っているが、これが面白い。

「歴史について」という章の終わりに書かれている。

「 ここに人類を救った歴史的なユーモアの話がある。一九六二年のキューバ、ミサイル危機の時のエピソードである。米ソの大詰めの外交交渉が膠着状態となり、決裂寸前の険悪な雰囲気になった。その時、誰かがこんな奇想天外な提案を持ち出したという。「この気まずい雰囲気を打開するため、一人ずつ笑い話でも披露することにしませんか」と。
 まず、ソ連側のひとりが、こんななぞなぞを出した。「資本主義と共産主義の違いは何か?」。彼の用意した答えは、こうだった。「資本主義は人が人を搾取し、共産主義では人が人に搾取される」。会場に爆笑がこだました。この歴史的ジョークでいっぺんに雰囲気が和らぎ、交渉が無事再開されたというのだ。
 本当の話かどうかわからないが、歴史を変えた絶妙なユーモアの話である。歴史を動かすのは、歴史的必然でも、運命の偶然でもなく、最後は人の心なのである。」

「知識について」という章では、最初にこのようなコメントがある。

「 あるアメリカ人が、こんなことを言っている。「われわれは、情報に溺れ、知識を渇望している」と。エール大学の図書館職員の言だが、いかにも大量の書物に囲まれている人の言いそうな言葉である。では、知識と情報の違いはどこのあるのだろう。思うに、おびただしい量の情報の価値判断をし、取捨選択するベースとなるのが知識なのではないだろうか。言い方を変えれば、知識は情報の交通整理を可能にする「メタ情報」ということになる。情報をいくら集めても、悲しいかな、知識にはなりえない。いくら食材を集めても料理にならないのと同じ道理である。」

以前読んだ本に、情報はやみくもに集めるのではなく、考えてから集め、そして考えるのだ、と書いてあったが、その「考える」ために必要なものが知識、ということだろう。

「教育について」というところでは、現代の教育論議についてコメントされている。

「 かつて、「詰め込み」や「丸暗記」が批判されて、「ゆとり教育」がもてはやされた。ところが、その「ゆとり教育」が新たな教育荒廃をもたらしたと、今度は、「学力重視」が叫ばれている。私は、教育に関しては、制度をいくら論議しても解決にはならない、と思っている。日本語の「教育」は「教え育てる」という意味だが、英語のeducataionは「能力を外に引き出す」というのが原義である。「教え込む」と「引き出す」では、力の方向が逆だと思うが、いかがなものだろう。」

なるほど。さすが、英語圏は個人主義の国である。そういう考えもあるのか。

いくつか、おもしろかった言葉を紹介する。

「人生は、大写しにすれば悲劇だが、遠写しにすれば喜劇である」(Charles Chaplin)

「人間とは、一週間の仕事が終わり、神様が疲れたときに作られた生き物」(Mark Twain)

「時計が止まる時、時間は生き返る」(William Faulkner)

「政治とは、流血を伴わぬ戦争である。一方、戦争とは、流血を伴う政治である」(毛沢東)

「不良な役人は、投票に行かぬ善良な市民によって選ばれる」(George Jean Nathan)

「楽観主義者はドーナツを見、悲観主義者はドーナツの穴を見る」(不明)

「四十八歳より前に悲観主義者になる者は物事を知りすぎ、四十八歳を越えてもなお楽観主義者であるものは物事を知らなすぎる。」(Mark Twain)

これは自分が四十八歳のなので、身にしみた。

「何も読まない者は、新聞しか読まない者よりも教養が上だ」(Thomas Jefferson)

アメリカの大統領が言っているところが面白い。よほど嫌っていたのだろう。

「興味がなければ、何も面白くはない」(Helen Maclnnes)

問題意識の問題。問題意識を持つことが大事だ、ということを言っているのだと思う。

「知識が増すほど、われわれの無知が明らかになる」(John Fitzgerald Kennedy)

これもアメリカ大統領の言葉。いいことを言う。

「教育とは、学んだことがすべて忘れられた後に残る”何か”である」(B.F.Skinner)

「天才の役割は、新しい答えを出すことではなく、凡人が時間をかけて解くことのできる新しい問いを提起することである」(Hugh Treavor-Roper)

「想像力は知識よりも大事だ。知識は有限だが、想像力は無限に世界を駆けめぐる」(Albert Einstein)

さすが、アインシュタイン。

「委員会が何かしようとしたら、委員は三人以内にし、そのうち二人が欠席するのが得策だ」(Robert Copeland)

これにちなんで、ケネディ大統領も、「委員会とは十二人で一人分の仕事をする所である」と言っていると書かれている。
その通りだ。

最後に、ジョークの紹介。

「君のオフィスではどれくらいの人が働いているんだい?」
「半分くらいかな」

これは面白い。

720円はちょっと高いが、なかなか楽しめる。