Never more
そこにあなたは居た。いや、居なかった。
真夜中。
見知らぬ城の廃墟の中、佇むあなたは私を見、私に向かって手を差し出した。銀色の髪がさやさやと風に揺れ、
厚い雲の間から差し込む月光が、あなたの顔を青白く照らしていたのをよく覚えている。
なぜこんな所に居るの?私は問い掛けた筈だ。答えは得られなかったのだろう。あなたの唇は動かなかったのだから。
それどころか、差し出した指に私が触れるまで、身動きひとつしなかった・・・。
私はあなたに引き寄せられる。あなたに縋ろうと足を踏み出す。
なのに一歩一歩がまるで重苦しい。まるで鎖を引き摺っている様だ。
それが警告だったのだろうか。そうであったとしても、私はあなたに抗えない。
瓦礫に足を取られても、風が髪を乱して視界を塞いでも、ただ拙い歩みを繰り返して手を一杯に伸ばした。
薄青い無表情なふたつの瞳がまるで骸骨の様だと、そんな事をぼんやり考えながら・・・。
いずれにせよ、目の前に居るその人は私を呼び、求めた。私も彼を呼び、求めた。
今は廃虚となったこの城も、かつては多くのロマンスの舞台だったに違いない。
夢と現実をないまぜにしてしまったあの人。彼の右手指で貫かれるならと。
何という冷たい手。何という冷たい瞳。
あなたの分身、もう一人のあなた。
温めてあげることが出来れば良いのだが。
そうして恋の成就に、悦びの涙を流すことが出来れば良いのだが。
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