モドル | ススム | 009

  Never more   



そこにあなたは居た。いや、居なかった。





真夜中。



見知らぬ城の廃墟の中、佇むあなたは私を見、私に向かって手を差し出した。銀色の髪がさやさやと風に揺れ、
厚い雲の間から差し込む月光が、あなたの顔を青白く照らしていたのをよく覚えている。

 
なぜこんな所に居るの?私は問い掛けた筈だ。答えは得られなかったのだろう。あなたの唇は動かなかったのだから。
それどころか、差し出した指に私が触れるまで、身動きひとつしなかった・・・。



 

私はあなたに引き寄せられる。あなたに縋ろうと足を踏み出す。

なのに一歩一歩がまるで重苦しい。まるで鎖を引き摺っている様だ。

 

それが警告だったのだろうか。そうであったとしても、私はあなたに抗えない。
瓦礫に足を取られても、風が髪を乱して視界を塞いでも、ただ拙い歩みを繰り返して手を一杯に伸ばした。

薄青い無表情なふたつの瞳がまるで骸骨の様だと、そんな事をぼんやり考えながら・・・。


 いずれにせよ、目の前に居るその人は私を呼び、求めた。私も彼を呼び、求めた。
今は廃虚となったこの城も、かつては多くのロマンスの舞台だったに違いない。
夢と現実をないまぜにしてしまったあの人。彼の右手指で貫かれるならと。





 何という冷たい手。何という冷たい瞳。

 あなたの分身、もう一人のあなた。



 

 温めてあげることが出来れば良いのだが。



 
 そうして恋の成就に、悦びの涙を流すことが出来れば良いのだが。




モドル | ススム | 009

-Powered by HTML DWARF-