■交響曲第7番ホ長調
第7交響曲はブルックナーが交響曲で最初に勝利を勝ち得た曲です。8番・9番ほど難解でとっつきにくくない性か、4番とともにもっとも親しまれているのではないかと思います。僕ももっとも美しい旋律を持つ交響曲だと思っています。
他にも、この曲はブルックナーが敬愛していたワーグナーとも密接に関係しています。ワーグナーの死を予感しながら作曲されたと言われています。そしてワーグナーの死が現実のものとなった時、ブルックナーは悲しみに暮れながら、ワーグナーのため葬送行進曲としてワーグナー・テューバ4本中心からなる、2楽章のコーダを作曲しています。そしてそれまで使われることのなかったワーグナー・テューバはこの曲から使われるようにもなりました。
なお、昭和天皇が崩御時に、また朝比奈隆逝去時にもフジテレビが哀悼の意をこめてこの曲のアダージョを繰り返し流したという逸話もあります。
■作成過程
第6交響曲の完成後20日には早くもこの曲の第1楽章の作曲にとりかかりました。しかし、最初に完成したのはスケルツォでその後第1楽章、アダージョ、フィナーレの順に完成し、全曲が完成したのは翌年の1883年9月5日でした。ブルックナーはワーグナーを敬愛していたが、この曲はワーグナーの死の予感を感じながら作曲していました。そして83年2月にワーグナーの訃報が聞かされたとき、ブルックナーは号泣したと言います。アダージョのクライマックスは打楽器が入るか入らないかで論議される個所であり(練習番号W:詳しくは事項で触れる)、その後のワーグナー・テューバ4本を中心としたコーダは悲しみに暮れる中、ワーグナーのための葬送行進曲として作曲されました。
当時のウィーンでは交響曲作曲家ブルックナーとしてはまだ認知されていませんでした。その中、弟子のシャルクはこの曲をピアノ連弾用に編曲し、この曲を紹介していましたが、ウィーン以外での初演を考え、アルトゥール・ニキシュの指揮でライプツィヒで初演されたのでした。この演奏会は大成功を収め、ブルックナーは知人に宛てた手紙の中で「終了後15分拍手が鳴り止まなかった」と書いています。かくしてこの初演が行われた1884年12月30日はブルックナーにとって交響曲作曲家としてはじめて名声を勝ち得た日になりました。実に習作の「ヘ短調交響曲」が作曲されてから20年が経っていました。この後、後に第8交響曲に否定的見解を示すことになるヘルマン・レヴィによりミュンヘン初演等を経て、1886年3月21日にハンス・リヒター指揮wphによるウィーン初演が行われた。オーストリア以外での初演は、ブルックナーが国際的に交響曲作曲家として評価されるきっかけとなり、ウィーンでの評価を改めることにもなりました。
■おおよその版の違い
「ハース版」と「ノヴァーク版」の最大の違いは、アダージョ楽章のクライマックス(練習番号:W)で、ティンパニ、トライアングル、シンバルの打楽器群が入るか入らないかです。ブルックナーの自筆譜には当初なかったのですが、先に記述したライプツィヒ初演のあと刊行された初版稿にはすでに打楽器群が追加されています。この個所の違いは7番ではもっとも大きい個所とされています。シャルクやニキシュのアイデアで打楽器群が追加され、ブルックナーもそのアイデアに同意したのか、自筆譜に打楽器を追加しています。これだけではたいした問題にならないのですが、なんとその上に「Gult nicht(無効)」と後で書いてあるのだからシャレになりません。この「無効」と言うのは誰が書いたんだ?と言うことです。一旦はニキシュらのアイデアに同意して(あるいは渋々。ブルックナーにはよくあること)打楽器を追加したが、やはり後になって撤回したので打楽器追加を採用していないのが「ハース版」。この「無効」という字はブルックナーの筆跡だとロベルト・ハースは言っています。逆にこの「無効」という字はブルックナー以外の筆跡で、ブルックナーの意思ではないとして打楽器追加を採用しているのが「ノヴァーク版」です。筆跡鑑定をしてもここの部分は良くわからないそうです。朝比奈隆は「疑わしくは罰せず」でハース版で演奏しているが、同氏曰く「(筆跡鑑定とは)警察みたいですな。」
この個所以外では「ハース版」と「ノヴァーク版」には大きな違いはない。なお改訂版にはフライング・ホルンなるものがあり、なかなかおもしろい個所です。詳しくは次項で記述しますが、ここも一体だれが書いたか不明なんですよね。
<交響曲第7番所有ディスク一覧&愛聴盤 2002.2現在>
指揮者 |
オーケストラ |
録音年月 |
一言コメント |
クラウディオ・アバド | ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | 92.3.4 | ロマンティック(4番)につつく僕のブルックナー2枚目。きれいな演奏です。 |
朝比奈隆 | 大阪フィルハーモニー管弦楽団 | 97.7L | これは実演を聴きました。実演よりCDの方がいいです。90歳記念演奏。タワレコ限定CD。 |
大阪フィルハーモニー管弦楽団 | 95.10 | ご存じ聖フローリアン教会マルモア・ザールにおけるライヴ。3楽章と4楽章の間に詐○とも思えるよう小さな鐘の音が聴けます。 | |
カール・ベーム | ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | 76.9 | さすがベーム&wph。美しいです。 |
カール・シューリヒト | ハーグ・フィルハーモニー管弦楽団 | 64.9 | 改訂版での演奏。さすがシューリヒト、でもいかんせんオケがいまいち?なかなかいい響きしてます。 |
カルロ・マリア・ジュリーニ | ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | 86.6 | |
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー | ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 | 51.4L | シャルク改訂版。 |
オズワルド・カヴァスタ | ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 | 45 | SP復刻版。 |
ヘルベルト・フォン・カラヤン | ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | 89.4 | カラヤン・ラストレコーディング。 |
ヘルベルト・ケーゲル | ライプツィヒ放送交響楽団 | 71.5L | |
クルト・ザンデルリング | シュトゥットガルト放送交響楽団 | 99.12L | さすがザンデルリング、しぶい! |
リノス・アンサンブル | 99.4 | ピアノさえ入っていなければいい演奏なのに。はっきり言ってピアノは邪魔。室内楽編曲盤 | |
シュテンダー | 01 | オルガン編曲盤 | |
ロヴロ・フォン・マタチッチ | ウィーン交響楽団 | ? | 録音データ不詳 |
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 | 67.3 | 金管楽器の響き目当てならウィーン響盤。木管楽器の響き目当てならチェコ・フィル。 | |
サイモン・ラトル | バーミンガム市立交響楽団 | 96 | 他の指揮者とはちょっと違うラトル独特のアプローチが新鮮。とっても美しい演奏です。 |
ハインツ・レーグナー | ベルリン放送交響楽団 | ||
ロリン・マゼール | ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 | ||
オイゲン・ヨッフム | ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 | 76 | 美しいドレスデン・シュタツカーペレの響き。 |
フランス国立管弦楽団 | 80.8 | ブルックナーにフランスのオケは似合わないと思っていたが・・・。 | |
ギュンター・ヴァント | ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 | 99.1lL | どうも最近のヴァント&bpoのブルックナーはあまり好きになれません。特にこの曲には濃すぎるような・・・。 |
ケルン交響楽団 | 80.1.18 | ヴァント&ケルン放響による全集の1枚。 |
先頃までは、サイモン・ラトル&バーミンガム市響の演奏を一番気に入っていたのだが、最近入手しマタチッチ&チェコ・フィルの演奏を聴いて改訂版での演奏ではあるが、ベストが変わってしまいました。では、どこがよいのか?と言うと、まず弦が美しい。ゆっくり目のテンポでオケを十分に歌わせているところなどは特筆すべき点で、「ブルックナー開始」と言われる冒頭の弦のトレモロ等、是非音量を少しあげて聴いてほしいところです。またトランペットがそれほど浮いてなく、いい感じでオケにとけ込んでいる点も好感が持てます。いやにトランペットが突出していて、耳に触るとうな演奏が多い中、この点はうれしいです。ただ、1楽章はじまって39小節目の2つ目(2分20秒あたり)のトランペットの異様な音だけはいただけませんが・・・^^ゞ。なんでこの音だけ異様にクレッシェンドを効かせているんでしょうか?おそらく演奏効果を高めるために、改訂版に由来するところではないか?と思ったのですが、他の改訂版を聴いてもこの箇所だけが異様に突出しているわけではない。おそらくマタチッチ独自の判断によるものだと思います(ウィーン響盤でも同様)。改訂版での演奏ゆえに、デフォルメや当時の聴衆に聴きやすい改訂が施されたり、全体的に劇的な演奏に仕上がってる感じで、それがブルックナー愛好家には受け入れられないかも知れないが、弦の美しさなど、それを補ってあまりある箇所があると思う。
それにつづく演奏としては、カール・シューリヒト&ハーグ・フィル盤。このディスクは改訂版なのでフルヴェン&bpo盤でも聴くことが出来るフライング・ホルンが聴けます。シューリヒトの淡々とした指揮と、ハーグ・フィルとのなんとも言えない響きがあいまっていい演奏になっています。ただ、響きはいいんだけど、やっぱオケはいまいち?
■ブルックナーの交響曲、重箱の隅つつきます。[第7交響曲編]
<1.第4楽章85小節目(練習番号F)>[ラトル&バーミンガム市響盤のテンポの処理の仕方。] スコアを見る。
練習番号Fでは、4楽章冒頭に見られる第1主題が形を変えて再現されます。従来のブルックナーの演奏では、練習番号Fの一拍目の休符で一旦ブルックナー休止を置いて、テンポをグッと押さえて演奏しています。これは一世代前の巨匠などのいわゆるブルックナー指揮者ほど顕著です。朝比奈隆もそう。しかしラトル&バーミンガム市響の演奏では一味違います。練習番号Fのブルックナー休止はなく、4楽章冒頭からゆっくり目のテンポを設定しているので、練習番号Fのところで極端にテンポを押さえてるという印象はなく、そのまま音楽を途切れることなく続けています。ここでのこの処理は従来の演奏には余り見られず、サロネンの4番ほど新しいスタイルの演奏ではありませんが、一味違ったアプローチとしてなかなか新鮮で好感が持てる演奏であります。その後の練習番号P(191小節目)で同じフレーズが出てくるのですが、ここでは他の演奏同様に、思いっきりブルックナー休止を効かせてテンポもグっと押さえてあります(^^;;;。
<2.第1楽章24小節目(練習番号A)>[フライング・ホルンの怪。改訂版ならではのホルンのワンポイント。] スコアを見る。
チェロによる1楽章の第1楽章が一段落した後、再び同じ主題をVn.と木管楽器がユニゾンで歌いはじめるのですが、なんとホルンが一拍早く入っています。それも2拍分だけ。一体なんなんでしょうかね?もう少し長く吹き伸ばしているとそれなりに効果もあるのかもしれませんが、2拍だけそれもp(ピアノ)ですから、なんか中途半端です実は以前は割と気に入ってたんですが)。
この演奏は、僕が持ってるCDのなかでは、フルヴェン&bpo、マタチッチ&チェコ・フィルのCDなどの改訂版で聴くことが出来ます。