■交響曲第9番ニ短調
習作も含め11曲を数える交響曲の中でも私は第9交響曲を特に好みます。この曲は、前作のブルックナーの交響曲の中でも最大規模である第8番の評価が芳しくなかったためブルックナーお得意(?)の改訂作業のため思うように作曲できず、ついにブルックナー自身の病から結局四楽章を完成することなく、未完の大曲となってしまった。 この曲を聴いていると、ブルックナー自身「神に捧げる」と言ったように、この世のものとも思えない響き、その壮大さ荘厳さから、深宇宙の神秘をイメージせずにはいられない。前作の第8交響曲が最も規模が大きいのではあるが、ブルックナー自らの手でこの第9交響曲が完成されていたなら最大規模を誇ることになっていたのは間違いなく、その後いく人かの手によって四楽章が補筆・完成されてはいるものの、非常に残念きわまりない。
やはりここにも「第9のジンクス」 が生きているのだろうか?
■作成過程
8番のペ−ジでも触れたが、レヴィに第8交響曲を否定されたため、すでに作曲が開始されていたこの第9交響曲の作曲は中断され、8番を含む過去の作品の改訂作業にあてられ、再び9番の作曲にとりかかっても、ブルックナー自身の病気のためついに4楽章全部は完成させることがなかったのでありました。ブルックナーはあくまで全楽章を完成させるつもりだったのですが、その死期を悟り全楽章を完成できないことを悟り、4楽章を完成できなかったときはテ・デウムを4楽章の変わりに使うことを考えていたようです。しかし今日では、それが不自然であると言うことから3楽章のみで演奏されることが普通となっています。初演はブルックナーの生前には行われず、1903年2月11日、ウィーンでフェルディナント・レーヴェによる、やはり改竄版による演奏でありました。
■おおよその版の違い
この9番も例にたがわず改竄版が存在します。上記の1903年の初演に際しては弟子のレーヴェが改定をほどこした改訂版が使用されました。改訂内容の度合いが大きいため「改竄版」とも呼ばれます。おもな改訂内容は、アコーギグやデュミナークのデフォルメが目立ちます。のちにハース版が出版された後の1939年にはジーク・ムント・ハウゼッカーがそれまで従来聴かれていた「改竄版」と新しい「ハース版」を続けて演奏し、その違いを示す画期的なことをやってのけた。また今日では、当初ほとんど残っていないと思われた第4楽章のスケッチもかなり見つかり、ギャラガンらによる4楽章補筆完成版も校訂され、アイヒホルン、タルミ、インバル等のCDで聴くことが出来ます。
<交響曲第9番所有ディスク一覧&愛聴盤 2002.3現在>
指揮者 |
オーケストラ |
録音年月 |
一言コメント |
朝比奈 隆 | 大阪フィルハーモニー管弦楽団 | 1995.4.23 | ご存知日本でのブルックナー第一人者。 |
朝比奈 隆 | 東京交響楽団 | 1991.3.16 | 「テ・デウム」カップリング。 |
レナード・バーンスタイン | ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1990.2・3 | 超ド級巨人歩むが如し。 |
サー・ジョン・バルビローリ | ハレ管弦楽団 | 1966.6 | バルビローリは好きな指揮者だけど、ブルックナーに関してはいまいち・・・。 |
クルト・ヴェス | ウィルテンブルグ州立管弦楽団 | 1984.9 | |
ヘルベルト・ブロムシュテット | ライプツィヒゲヴァンドハウス管弦楽団 | 1995 | ライプツィヒ就任直前の演奏。 |
ウラジミール・デルマン | アルトゥーロ・トスカニーニ記念オーケストラ | 1994 | やたらとチェロが聞こえたり、重箱の隅のつつき甲斐のある変な演奏。 |
クルト・アイヒホルン | リンツ・ブルックナー管弦楽団 | 1992.4.13〜15、1993.2.16・17 | おなじみ4楽章版。4楽章版の中ではこれ! |
ジークムント・フォン・ハウゼッカー | ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1938 | SP復刻盤。ハウゼッカーは9番原典盤の初演指揮者。 |
ヤッシャ・ホーレンシュタイン | BBC交響楽団 | 1970 | やっぱりホーレンシュタインはウィーン交響楽団で? |
BBCレジェンド盤。おそらく上記演奏と同一?しかし音はこちらの方がはるかにいい。 | |||
カルト・マリア・ジュリーニ | シカゴ交響楽団 | 1976 | 名演です。ジュリーニの引退はほんと惜しまれます。 |
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1988L | バーンスタイン盤をはるかに上回るすごい演奏。 | |
ヘルベルト・フォン・カラヤン | ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1966.3 | 精巧なアンサンブル、さすがカラヤン! |
ヘルベルト・ケーゲル | ライプツィヒ放送交響楽団 | 1975.12L | ケーゲルのライヴです! |
ハンス・クナッパーツブッシュ | ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1950.1 | もちろんクナの9番は改竄盤。是非原典盤と聴き比べを! |
エーリッヒ・ラインスドルフ | フランクフルト放送交響楽団 | 1972 | これはいまいち。 |
スタニスラフ・スクロヴァチェフスキー | ミネソタ管弦楽団 | 1997 | これはなかなかいいですよ。さすがスクロヴァおじさん! |
カール・シューリヒト | ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1961.11 | 深宇宙を感じたいならこれ! |
バイエルン放送交響楽団 | 1963 | VPO盤とはずいぶん違ったさらに淡々とした印象の演奏です。 | |
ヨアフ・タルミ | オスロ・フィルハーモニー管弦楽団 | 1985.8.28〜30 | こちらも4楽章版、補筆前のスケッチ状態の4楽章も収録。, |
オイゲン・ヨッフム | ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 | 1978 | |
バイエルン放送交響楽団 | 1955 | ||
ギュンター・ヴァント | ハンブルグ北ドイツ放送交響楽団 | 2000.11.12〜14L | ヴァントが日本にやって来る。しかもブルックナーを引っさげて。まじか?ガセか?日本クラシック界を狂喜乱舞させたヴァントの来日ライヴ盤。 |
ケルン交響楽団 | 1979.6.5〜10 | オケがケルン放響ですが、まぁこの人のブルックナーはあまりはずれはないですから。 | |
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1998L | BPOとのコンビ第3弾! | |
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 | 1998L | saradanaライヴ盤。 | |
ハンブルグ北ドイツ放送交響楽団 | 1988.6.24〜26L | ブルックナーの三種の神器、リューベリック大聖堂での録音。 |
私の(まだ数少ない)CDコレクションの中でも、この第9交響曲ではシューリヒト/VPOの演奏がベストである。一聴するとあっさりした演奏ではあるがその実、深宇宙の神秘が伝わってきそうな響きがいいです。
これに続く演奏として、朝比奈/大フィル、ジュリーニ/VPOが愛聴盤である。大フィルは最近特に金管セクションがいまいちという感も拭えないが(現に一昨年の7番、昨年の5番、8番(8番は私は実演を聴けなかったのですが)、などの感想などを聴く限り)、このシンフォニー・ホールでのライヴはなかなかいいと思います。朝比奈では、91年の東京交響楽団盤と好みが分かれるところではありますが・・・。
ジュリーニ/VPO盤は最近入手したのですが、言わずとしれた名演です。バーンスタイン盤よりテンポが遅いのにもかかわらず、だるさを感じさせない壮大かつ荘厳な演奏。
ブルックナーの交響曲、重箱の隅つつきます。[第9交響曲編]
<1.第1楽章548小節目聴き比べ> スコアを見る
第9交響曲のなかでもとりわけ第一楽章が好きなのですが、その中でも548章節目で2拍3連が2回繰り返される個所があります。この最初の2拍3連音がブリッジ的役割をしているのですが、1つ目の音は前の小節からの吹き伸ばしの音がかかっているのでトゥッティに聴こえるのですが、2つ目、3つ目の音はファゴットと3番4番、7番8番ホルンパートだけになってしまうのです。さらに2回目の2拍3連の強弱記号がfff(フォルテシシモ(フォルテ3シモ))ですからより一層、この音の不安定さが押し出され、神秘さをかもし出す重要な個所のひとつと考え、またとりわけ好きな個所でもあります。
・スコアをお持ちでない方のために・・・。第一楽章最後のクライマックス、「ちゃちゃちゃちゃーん、ちゃーん、ちゃちゃん、ちゃちゃん、ちゃちゃん、ちゃちゃん、ちゃちゃーん、ちゃちゃーん、・・・・ラスト」の直前で1・2ファゴットと3・4,7・8ホルンが 「ちゃちゃちゃ(3連符)」と吹いているのですが、最初の「ちゃ」はほかのパートがかぶっているので聴こえますが、2・3つ目の音は2本のファゴットと4本のホルンだけになってしまうのです。この個所ののことです(あーしんど(笑))。スコア参照。
この2つの音の絶妙な音量、響き具合、音の不安定さが「神秘さ」につながるのです。
なかなか神秘的な表情をかもし出しているではないですか。<神秘度★★★★★>
・ヴァント/北ドイツ放響
リューベリック大聖堂でのライブということも手伝って?
・アイヒホルン/リンツ・ブルックナー管
おしい!<神秘度★★★★>
・朝比奈/大フィル
響き具合はいいのだが、もう少し三連符のテンポが遅ければ・・・
・ホーレンシュタイン/BBC響
・バーンスタイン/VPO
もう少しテンポが速ければ・・・。
ちょっと聴こえすぎ?もっと神秘的にやってよ。<神秘度★★>
・ラインスドルフ/フランクフルト放響
・タルミ/オスロ・フィル
ちょっとテンポも速い。あっさり通りすぎないで!
・シューリヒト/VPO
僕が好きな1枚だが、この部分に関してはいまいち。テンポも少し速め。この三連符の直後にritが・・・。もう少し早くritを掛けてほしかった。
・ヴァント/ケルン放響
・チェリビダッケ/シュトゥッツガルト放響<61>(本人所有せず)
ちょっと小さすぎるで。神秘的にを通り越している・・・。<神秘度★>
・カラヤン/BPO
・朝比奈/東響
大フィル盤はなかなか良いが、こっちはもう少しボリュームが欲しかった。
おいおい・・・<神秘度×:論外>
・ハウゼッカー/MPO
全然聴こえまへん。SP複刻盤だからか?と思ってヘッドフォンで聴きましたが、ここ落ちてるの?と思わせるぐらいなんにも聴こえない(笑)。
<2.第1楽章74小節目聴き比べ> スコアを見る
不安定といえば、74章節目でしょう。この小節は大きく2つのパターンに分けられます。1.2拍3連が繰り返されるパート(音符は6つ)。2.2拍3連と4部音符2つ(音符は5つ)のパート。このため1のパートでは2回目の2拍3連の音符(4つ目5つ目の音符)と、2のパートでは2拍3連の次の4部音符(4つ目の音)の長さが違ってくるわけです。この微妙ですごく不安定に聴こえるタイミングも「神秘さ」をかもし出す重要な役割を担ってる、と私は確信しています。
・スコアをお持ちでない方のために・・・しんどいので省略します。すいません(^^;;; 気が向いたら書きます(笑)。スコア参照。
だいたいどの演奏も忠実に音符を再現していますね(この個所に関しては企画倒れか(笑)?)。
まぁ、4部音符と3連符の違いですから普通に演奏すると不安定に聴こえるのは当然ですね。
ジュリーニ盤やアイヒホルン盤などはより鮮明に違いがでています。
この74小節めの4拍目と次の小節の伸ばしの音の処理の仕方に相違がありますね。「ジャン、ジャーン」か「ジャーン、ジャーーン」ですね。
・前者はバーンスタイン盤に代表されるようにじっくり響かせています。
・後者はシューリヒト盤に代表されるようにあっさり型の演奏です。ただ、ラインスドルフ盤はちょっとあっさりし過ぎかな?という気もしますが。ちなみにヴァント/北ドイツ放響盤は75小節目の吹き伸ばしのところで、トランペットがひっくりかえってます(笑)。
<3.第3楽章冒頭聴き比べ> スコアを見る
2楽章が終わって、それまでの静寂をかき消すかのように始まるヴァイオリンの音。3楽章冒頭はこうでないといけません。しかしなかなか私の理想の演奏はないようです。ここは最初からf(フォルテ)で入らなければいけません。mf(メゾフォルテ)で入ってクレッシェンドをかけるような音形ではだめなのです。次の小節までをふ含めて、悲愴感が漂うくらいの音が欲しい。マーラーの9番4楽章冒頭がそっくりですね。もちろん、ブルックナーの方が先ですが・・・。
・スコアをお持ちでない方のために・・・この個所は説明の必要ないですよね。でも、スコア参照。
3楽章のはじまりは、こうでなくっちゃ!<悲愴感★★★★★>
・シューリヒト/VPO
冒頭の音形がこれほど私の理想に近い演奏もそうそうないはず。欲を言うと、次の上がった音がもっと悲愴感漂っていれば言うことなし。
・バーンスタイン/VPO
冒頭の音はシューリヒト盤には少しだけ軍配を譲るが、次の上がった音はこのバーンスタイン盤のほうが上。1音目はシューリヒト、2音目はバーンスタイン盤なら完璧な3楽章の始まりと言えよう(笑)。
・ラインスドルフ/フランクフルト放響
音量は良しだが、もっと唐突に始まって欲しい。
一番ありがちな<(クレッシェンド)処理。はじめっからf(フォルテ)で出てよ!<悲愴感★★★、ジュリーニ盤は悲愴感★★★★>
・ジュリーニ/シカゴ響
2つ目の音は言うことなしなんだが・・・。
・ヴァント/北ドイツ放響
・ヴァント/ケルン放響
・アイヒホルン/リンツ・ブルックナー管
もっと力強さが欲しい・・・。
・チェリビダッケ/シュトゥッツガルト放響
・タルミ/オスロ・フィル
アインザッツがいまいち?ここでは音の不安定さは「神秘さ」にはつながらないのです。<悲愴感★★>
・朝比奈/東響
特に2つ目の音の入りがバラバラ。
・カラヤン/BPO
カラヤンにしてはめずらしく、そろってないなぁ・・・。
<(クレッシェンド)処理はしてないけど、もっと力強さが欲しい。<悲愴感★>
・ホーレンシュタイン/BBC響
・ハウゼッカー/MPO
特別に悲愴感★★★ぐらいあげちゃいましょう(笑)。
・朝比奈/大フィル
オケには悲愴感が欠けるが、朝比奈のうなり声が悲愴感を感じさせます(笑)。
(写真はVPO/シューリヒト(61年)のCDジャケット)
ブルックナー3種の神器とは?
オットー・ボレイン教会での第5番、ヨッフム/コンセルトヘボウ管
聖フローリアン教会での第7番、朝比奈/大フィル
リューベリック大聖堂での第8・9番、ヴァント/北ドイツ放響(2枚組)
の3大教会ライブ盤を指す。教会での演奏のため相当な残響音があり、評価には賛否両論も・・・。
特にヴァント自身はこの第8・9番の録音は好きでないらしい。