幻想交響曲 作品14 <ある芸術家の生涯>/ エクトール・ベルリオーズ
〜 Symphonie fantastique,op.14 <Episode de la vie d’un artiste> /HECTOR BERLIOZ〜
第1楽章:夢・情熱
Reveries − Passions
第2楽章:舞踏会
Un bal
第3楽章:野の風景
Scene aux champs
第4楽章:断頭台への行進
Marche au supplice
第5楽章:サバドの夜の夢
Songe d’une unit du sabbat
■幻想交響曲にはまったわけ。
自身が所属する吹奏楽団で2楽章と4楽章をやったのが最初である。4楽章だけは高校生の頃から知っていて、「おいしい」曲という印象はあったのであるが(特に2楽章はトロンボーンの出番がなないのに楽譜つき足すんだぜ?なんかファゴットの音符吹いたような記憶が・・・)、「幻想交響曲」全体としての印象は特になかった。なにしろそのときにはじめて幻想交響曲のCD(カラヤン&BPO 1874盤)を買ったぐらいですから・・・。しかし演奏会が終わってから、なんとなく2楽章に興味が湧き、また演奏会の練習等を通して、この曲の作成秘話、そのストーリ性を知りだんだん幻想交響曲にはまって行くことになる。僕がこの曲に求めているものは「グロテクスさ」である。この場合の「グロテクス」というのは、単に気持ち悪いとかではなく、この曲のストーリーから来る標題性ゆえの表現豊かな演奏プラスその「幻想(あるいは妄想)」がゆえの「おどろおどろしさ」である。人間の複雑怪奇で多種多様な心(思い)を怪しく表している作品だからこそ、表情豊かな演奏を求めるのであって、それゆえ「これはちょっとやりすぎやろぉ?」という爆演でもなぜか許してしまうのである(笑)。また、それまでの交響曲では考えられなかった形式、楽器の使い方などもこの曲の魅力になっていることは間違いないだろう。
■ストーリー。 〜「ストーカー・ベルリオーズ(笑)」〜
1827年、ベルリオーズはパリで英国劇団によるシェークスピア「ハムレット」の上演を観る。その主役、オフィーリアを演ずる美しき人気女優ハリエット・スミッソンに人目ぼれしてしまうのであった。そして尋常ならざる思いは収縮することなく膨れ上がり(まるで宇宙のようだ)、1930年の幻想交響曲初演に先立ち、1年判前に「プログラム」と称されるをパリ中に広め一大センセーションを巻き起こした。ストーリーはこうである。
ある若き芸術家が阿片を飲んで幻覚の中で、自分の恋人を殺してしまい、また自分もギロチンで処刑される、というショッキングなものであった。
ベルリオーズは友人に送った手紙の中で、この「若き芸術家」というのはベルリオーズ自身であると暗に記載している。また、この物語は身の上話である、ともしている。「プログラム」が発表された当時、ベルリオーズはまだ無名の学生で、片やハリエットのほうはバリバリ大人気女優であった。全く会うことが許されなかったベルリオーズは何通もの手紙や面会の手段を試みるが、ハリエットからは「これほど不可能なことはありません」とつれないお返事。その後彼女の劇団は巡演のためにパリを離れ、孤独感にさいなまれたベルリオーズは彼女への思いを憎しみへと変化させ、幻想交響曲という作品によって彼女への復讐を企てたのであった(作品だけでよかった(笑))。
以下はベルリオーズによる初版スコアに記されたプログラムからの一部分である。
第1楽章:夢・情熱 Reveries − Passions
内面に病を患うひとりの作家が、胸に思い描いてきた理想の女性像のあらゆる魅力を一身に兼ね備えた女性を見初め彼女に夢中になる。奇妙なことに恋人の姿は決まってある楽想(イデー・フィクス:固定観念)を伴い芸術家の中に現れ、彼を絶え間なく彼かれを追いまわす。そして彼はそんなメランコリックな夢想状態から、わけもなく込み上げてくる歓喜の爆発、感情の錯乱へとのぼりつめたり、時には嫉妬したり、優しい気持ちになったり、涙を流したり、宗教的な慰めを覚えたりする。
第2楽章:舞踏会 Un bal
芸術化はさまざまな環境下に置かれ、あるときは饗宴の喧騒に包まれていたり、あるときは美しい自然のなかで瞑想にふける。しかし街中にいても愛しい彼女の姿が現れ、彼の心に波風を立てる。
第3楽章:野の風景 Scene aux champs
ある日、彼は野原で遠くから2人の牧人が牛追い歌を歌い交わすのを耳にする。この牧歌的な二重奏、周囲の風景、最近になって芽生えたわずかな希望。これらがひとつとなって彼の心に新鮮な気持ちが生まれ、気持ちがぱっと明るくなる。彼は孤独な自分の人生を振り返り、ひとりぼっちの生活はもう願い下げにしたいと思う。・・・だが、彼女に裏切られたら!こうして希望と恐怖が入り混じり幸福な思いは暗い予感に沈んで行く。最後にもう一度牧人の一人が牛追い歌を唄う。しかしもう一人は応えない。・・・遠くで雷鳴が鳴る。・・・孤独・・・そして静寂・・・。
第4楽章:断頭台への行進 Marche au supplice
自分の愛が無視されたと確信した芸術家は阿片を飲む。阿片は彼を死に至らすには弱すぎ、彼は眠りに落ち世にも恐ろしい夢を見る。夢の中で彼は自分の愛した恋人を殺し、判決を受け断頭台へと引きたてられ自分自身の処刑に立ち会う。重く鈍い足音が聞こえ、あるときは陰影で残忍な、またあるときは華麗で厳粛な行進曲に合わせて行列が進む。行進曲が終わるところで愛の名残を惜しむかのようにイデー・フィクスが現れるが、必殺の一撃によって断ち切られる。
第5楽章:サバドの夜の夢 Songe d’une unit du sabbat
彼はサバドの場におり、彼を弔うために集まってきた亡霊や魔女等、ありとあやゆる怪物たちに囲まれいる。奇怪な物音、うめき声、遠くで上がる叫び声に別の声が応えているようでもある。彼の愛したイデー・フィクスがもう一度現れるが、すでにそれは陳腐で品がなく、グロテスクな踊りの旋律に過ぎない。彼女がサバドにやってきたのだ。彼女は悪魔の饗宴に加わる。弔いの鐘、怒りの日、サバトのロンドが一緒に鳴り響く。
固定観念(イデー・フィクス)としてとても美しい旋律で恋人を描き出し、終楽章で気品を失わせ陳腐化させてしまう。これが彼の曲の上での復讐だったのである。
■様々な幻想交響曲。〜僕の所有ディスクから〜
1.バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団1947
T13’51” | U6’27” | V15’51” | W4’30” | X9'31” |
2.ビシュコフ指揮 パリ管弦楽団1993
T13’50” | U6’27” | V16’05” | W4’37” | X10’08” |
3.クリュイタンス指揮 フィルハーモニア管弦楽団1958
T13’47” | U6’21” | V16’19” | W4’41” | X9’16” |
4.クリュイタンス指揮 フランス国立交響楽団 東京文化会館来日ライヴ盤
T13'22'' | U6'30'' | V15'30'' | W4'23'' | X8'54'' |
なんとこの演奏、5楽章の鐘の音程がズレているではないか!3発のうちの1発目と2発目は音色のせいか(薄っぺらい音)、若干音程がズレている気もしないわけではないが、3発目は完全にハズレている!これは噂には聞いていたが、笑わずにはいられない!さてこの鐘はクリュイタンスが意識的にグロテスクさを強調したものか、あるいは偶然か?が意見が分かれるところでもあると思うが、もちろんゲネプロなどをとおして鐘の音を確認出来るし、その場その場でチューニングできる楽器でもないことから、おそらくクリュイタンスが意図的に仕組んだものではないか、と思われます。その他の演奏の方はもうばっちり!僕が持っている幻想の中でもベスト2に数えられるでしょう。また演奏後の聴衆の熱狂的な拍手、ブラボーの嵐がこの演奏に華を添えます。実演の熱狂さが本当に伝わってくるようです。
5.ハンス・スワロフスキー指揮 南西ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団
T15’15” | U6’09” | V16’55” | W4’42” | X11’22” |
これもなかなか気持ち悪いものがあります。1楽章の弦のビブラートはもちろん、特に2、4楽章の低弦の響きは特筆。ずーんと来ますよ(^^)。それと3楽章のティンパニ。気持ち悪いです。4楽章のキレのいい金管、シンバル、テンポの遅い5楽章は鐘の響きに注目です。同じタイミングで低い鍵盤あるいは鉄板を叩いてるの?とても一つの鐘だけ叩いてるとは思えない音色。聴きどころ一杯(^^)。
6.クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団1981ライヴ
T15’11” | U6’29” | V17’00” | W4’54” | X10’34” |
7.ガーディナー指揮 オーケストラ・エヴォリューショナルロマンティック1991
T13’57” | U6’03” | V16’35” | W6’38” | X9’51” |
ピリオド楽器による珍しい演奏。最初は、あれ?こんなところにペットなんかあったかなぁ?なんて思いました。モダン楽器の演奏とはだいぶ印象が違い(当たり前(^^ゞ)結構楽しめます(^^)。
8.ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団1954
T13’18” | U6’06” | V13’50” | W4’29” | X8’41” |
9.ミュンシュ指揮 フランス国立管弦楽団1963ライヴ
T13’28” | U5’51” | V13’07” | W3’55” | X9’08” |
10.カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団1974・75
T14’22” | U6’14” | V16'40” | W4’33” | X10’47” |
11.カラヤン指揮 フィルハーモニア管弦楽団1955
T14'35" | U6'19" | V16'38 | W4'46" | X10'40" |
4楽章のギロチン直前のクラリネットがいい味出してます。ギロチン直後の首がころころ転がっていくところなんかは、ゴロン・・・ゴロン・・・と重々しく転がる様が目に浮かぶようです。特に5楽章のテンポが遅め。上記のクリュイタンス盤じゃないけどこの鐘の音もどこか収まり悪いぞ・・・。ベルリン・フィル盤に比べるとやはり明るい音色。
12.モントゥー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団1958
T13’57” | U6’03” | V16’21” | W4’51” | X9’47” |
うーん、気持ち悪い(笑)。ビブラート効かしてますねぇ。それに4楽章の冒頭を金管楽器にミュートをつけて吹かしているのはモントゥーならではの解釈?僕が持ってる幻想の中ではベスト3です。
13.モントゥー指揮 サンフランシスコ交響楽団1950
T12’57” | U5’40” | V15’38” | W4’42” | X9’13” |
14.ロジェストヴェンスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団1971ライヴ
T14’05” | U6’25” | V16’20” | W4’32” | X10’00” |
やかましいわいっ(笑)!だいたいからしてティンパニがドンジャカやってて別の意味で「グロテスク」。
15.マイケル・ティルソン・トーマス指揮 サンフランシスコ交響楽団1997
T15’49” | U6’50” | V17’05” | W6’37” | X9’22” |
きれいな「幻想」です。「グロテスクさ」いうのはさほど感じられませんが(それでも表情豊か)、ある「意味お手本的な幻想」と言う感じもします。タイム的には長い方ですが、退屈さは感じられません。
16.マルケヴィッチ指揮 ラムルー管弦楽団1961
T14’22” | U6’14” | V15’58” | W4’48” | X11’03” |
4楽章のラストがフェルマータなしで演奏されている。「ジャン!!」と終わっているのである。この解釈に共感を持てたのですが、少しインパクトに欠ける箇所がありやや不満が残った。
17.マルケヴィッチ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団1953
T13’19” | U5’50” | V14’39” | W4’27” | X10’07” |
上記のマルケヴィッチ&ラムルー盤を聴いて、マルケヴィッチの解釈がおもしろかったのでゲットした1枚。ラムルー管ではややインパクトに欠けるかな?といったところもほぼ満足のいく演奏に仕上がっていて(^^)。
18.パレー指揮 デトロイト交響楽団1959
T11’33” | U5’33” | V14’36” | W4’20” | X9’03” |
間違いなく僕の持っている幻想のなかではベスト1!ううっ・・・、快速幻想。なんでこんなに速いんだ?4楽章の首ころころのところなんか、あまりの速さゆえ、あっという間に下まで首が転げ落ちているではないか!病みつきになる幻想(笑)。
19.デビッド・ジンマン指揮 ボルチモア交響楽団
T14’56” | U6’12” | V15’57” | W4’37” | X9’45” |
20.アドリアン・リーパー指揮 グラン・カナリアン・フルハーモニー管弦楽団1996
T15'28” | U6'35” | V17'06” | W6'42” | X10'38” |
はっきり言って駄演です。まぁ普通なら駄演とまでは行かないんでしょうが、上記に挙げた精鋭たちの「幻想」に比べれば、到底足下にも及ばないでしょう。タイム的にはティルソン・トーマス盤に近いのですが、どこかのんべんだらりとした退屈とも思わせる演奏です。
特筆するならば、4楽章のトロンボーンが執拗なまでにバリバリ音を割っている、というところぐらいかな?
21.アンドレ・ヴァンデルノート指揮 RTBF(ベルギー・フランス語放送協会)交響楽団
T13'17' | U6'08 | V14'45' | W4'35' | X10'12 |
22.ジャン・フルネ指揮 東京都交響楽団
T13'06'' | U6'15'' | V15'05'' | W4'47'' | X10'21'' |
タイム的には遅いと言うわけでもないのですが、特に4楽章と5楽章が遅いなって、思ってしまうのはなぜ?
この曲は各楽章ともにpあるいはppで始まるんですが、それを忠実に守ってp、ppを強調しているよぬな感じ。特に4楽章なんてあれ?始まってるの?なんて感じです。
23.オスカー・フレッド指揮 ソビエトd’Etat交響楽団
T14'27'' | U6'59'' | V13'22'' | W5'07'' | X10'20'' |
いくらグロテスクな幻想がいいって言ったってこれはちょっとすごすぎて・・・。とにかくテンポや抑揚はつけ放題で、特に4楽章、そのテンポ設定はどっからそんなん持ってきてん?、てな感じです。録音年はわかんないんですけどモノラルの古い録音のようで、その音色も手伝ってか、と〜ってもあやしい演奏になってます。とにかく各楽器がごちゃごちゃに混じり合ってとんでもない響きです。特に4楽章の鐘なんかは、クリュイタンスとかスワロフスキーの怪しさを通り越しちゃって、工事現場で鉄筋叩いてるんじゃないんだから(笑)ってな感じです。このCDを頂いた人に「絶対ヘッドフォンでは聴かないように」って言われたんですが、そのとおりヘッドフォンなんかで聴いたら頭痛く鳴っちゃいます(笑)。でも、このすごさをみんなに聴いてもらいたいってのはあるんだけど、絶対お薦め出来ないとんでもない演奏です。
23.ヘルベルト・ケーゲル ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
T 17'02" | U 6'33" | V 18'17" | W 6'50" | X 10'38" |
24.サー・コリン・デイヴイス ロンドン交響楽団
T 15'51" | U 6'32" | V 17'13" | W 7'01" | X 10'27" |
25.チョン・ミュンフン パリ・バスチーユ管弦楽団
T 14'57" | U 6'33" | V 15'00" | W 4'32" | X 9'31" |
26.クラウディオ・アバド シカゴ交響楽団
T 15'18" | U 5'57" | V 16'33" | W 6'22" | X 9'33" |
この演奏もコルネットを採用しています。
27.ワレリー・ゲルギエフ ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
T 14'57" | U 6'33" | V 15'00" | W 4'32" | X 9'31" |
ギルギエフの幻想はグロテスクではないか、と思って買った1枚。でもさすがゲルギエフ&ウィーン・フィル、いわゆる王道といったしっかりしていて全然不安のない演奏。
28.ルネ・レイボヴィッツ ウィーン国立歌劇場管弦楽団(ウィーン・フィル)
T 15'25" | U 6'45" | V 16'57" | W 4'39" | X 10'01" |
29.クリストフ・エッシェンバッハ パリ管弦楽団
T 15'20" | U 6'38" | V 17'44" | W 6'15" | X 9'43" |
30.ルドルフ・ケンペ ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
T 14'59" | U 6'43" | V 15'46" | W 4'55" | X 9'25" |
31.ロリン・マゼール クリーヴランド管弦楽団
T 12'56" | U 5'58" | V 16'52" | W 4'05" | X 13'11" |
32.佐渡 裕 パリ・バスティーユ管弦楽団
T 14'10" | U 7'02" | V 17'17" | W 4'59" | X 10'16" |
33.レオポルド・ストコフスキー ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
T 14'04" | U 6'18" | V 17'20" | W 4'13" | X 10'24" |
うろこから目が落ちるような演奏。グロテスクでめちゃくちゃ妖艶な演奏というわけではないが、思わぬところでこんな効果をだしているのか!というような演奏。併録のドヴォルザークのスラブ舞曲第10番がこれがまたいい!一聴の価値ありです。
34.コンスタンティン・シルヴェストリ パリ管弦楽団
T 14'03" | U 6'22" | V 17'26" | W 4'35" | X 10'11" |