ラフマニノフ交響曲第2番ホ短調 作品27
〜Symphonie Nr.2 e-moll op.27〜
第1楽章:Largo-Allegro moderato
第2楽章:Allegro molto−Meno mosso Tempo T
第3楽章:Adagio
第4楽章:Allegro vivace−Adagio−Tempo precedente
■セルゲイ・ラフマニノフ
セルゲイ・ラフマニノフは1873年にロシアで生まれます。その後、幼少の頃からたぐいまれない音楽性を発揮し、特にその才能はピアノで発揮するようになります。1897年交響曲としては最初の曲になる「交響曲第一番」を初演するも、大失敗に終わりそれ以来ラフマニノフはノイローゼにまでなり、全く作曲出来なくなってしまいます。その後いろいろな療養生活を経て、1901年にようやく「ピアノ協奏曲第二番」を作曲します。この「ピアノ協奏曲第二番」が大当たりし、各地で絶賛され見事ラフマニノフは大作曲家として復活するのです。そして復活を成し遂げたラフマニノフは1907年に不屈の名作「交響曲第2番」を作曲し絶賛の嵐となります。ニューヨークに移住したラフマニノフはその後もアメリカで音楽活動を続けますが、母国ソ連ではラフマニノフの活動は半ソ連的活動とされ、ラフマニノフは母国ソ連には戻ることが出来なくなってしまいます。その後母国ソ連を胸に抱きながらも、ニューヨークに永住することを決意し、ついに1943年、大戦の中、69歳の生涯を閉じました。晩年は祖国ソ連に対しての援助を目的とした演奏活動に徹します。過去、半ソ連的活動と見なされアメリカに移住までしましたが、大戦の中思いは祖国ソ連を忘れることなく、また胸を痛めた胸中は計り知れない物があるでしょう。
■泣きのラフ2。<キーワードは「ロマンティック」>
僕がクラシック音楽の中でロマンティックだなぁ、と思うのは、マーラー交響曲第5番4楽章「アダージェット」と、カリンニコフ交響曲第1番。そしてこのラフマニノフ交響曲第2番である(もっとたくさん聴いたら他にもいっぱいロマンティックな曲が見つけられるかもわからないが)。
なかでもこの交響曲はとりわけロマンティックで、すぐにこの交響曲に魅せられてしまった。この曲の他にも、ラフマニノフが作曲した中に、ピアノ協奏曲第2番があるにもかかわらず、僕はこの曲を「ラフ2」と呼んで親しんでいます。
実演に行っても感動してまず涙は流さないのですが、以前から「もし涙を流すのならこの曲で」という思いから、「この曲のCDを集める」という作業が始まりました。そうです「泣きのラフ2を求めて」プロジェクト(?)の始まりです。
この曲は全体がロマンティックですが特にこの曲の「芯」は3楽章にあります。これほどきれいでロマンティックな曲があるでしょうか?3楽章に向かってだんだんと盛り上がっていき、いくつかの喧騒を経た後、究極の楽章に入っていきます。その3楽章で思いっきりロマンティックなムードを味わい、携えたまま圧巻のフィナーレである4楽章へ突入し、歓びのまま華やかなフィナーレとともに曲は終わります。これで泣かなければ「嘘」です!しかし私はまだ涙を流したことがありません(爆)。泣きのラフ2を求める旅は果てしなく続くのです・・・・。
■完全全曲版とは・・・?
そもそもラフマニノフが書いたもとの楽譜です。しかし、冗長すぎる、と言う理由からいくらかカットされてしまいました。一時期はこのカットされた版で演奏されていましたが、時が経つに連れてカットなしの原曲の良さが認められたのか、いまでは完全全曲版による演奏が多くなってきています。カットした箇所は4楽章ともに多岐に渡りますが、主に1楽章でのカットが一番多く、全部合わせると10分にもなります。このカットはラフマニノフ自身によって行われましたが、ラフマニノフ自身はやはり心の中では快く思ってなかったそうです。このことはブルックナーにも似てるところがありますね^^。
■それまでの情緒もくそも台無しにするティンパニの怒りの一撃。
この間チャイコフスキーの「悲愴」を聴きに行ったんだすが、それは素晴らしい演奏でした。お客さんは完全にその演奏に吸い込まれてしまったようで、曲が消え入るように終わった後も数秒間拍手もブラボーもなく余韻に浸っているようでした。指揮者もタクトを降ろしてからも祈るようにタクトを握りしめずっとうつむいたままでした。ようやく拍手がパラパラと鳴り出したのは、指揮者が祈りを終えて顔を上げたときでした。それからはすごくて、熱狂的な拍手と飛び交うブラボーでホールは興奮のるつぼに変わりました。オーケストラの面々の顔も満足感にあふれているようでした。指揮者は何度も何度も呼び出されホールはなかなか興奮が冷めやりませんでした。
そんな演奏会に遭遇することはめずらしくて、別の日にまた「悲愴」を聴く機会がありました。ただ、この日の演奏会は少し違いました。演奏の方は上記に匹敵するくらい感動出来たのですが、曲が終わってから指揮者がタクトを降ろす前に「ブラボー」があったのです。いわゆる「即ブラ」って言うやつです。「悲愴」は曲が終わってもそのまま余韻に浸っていたいのに、そのブラボーのおかげで僕はもちろんホールもしらけてしまい、演奏に感動したこともどこへやら吹っ飛んでしまいました^^;;
さてさて、この間ラフ2を聴きました。この曲は大好きなのですが、実演となるとまだまだ回数が少ないのでCDばかりですが。で、その演奏は1楽章からとても素晴らしく、とてもロマンティックで実演で聴いたらどれだけ感動するかなぁ、と思ってました。曲にはまりこんでいたら、突然1楽章のラストでいきなり後頭部にでなぐられたような衝撃が・・・。なんだこれ?1楽章のラストにドカンと一発ティンパニが炸裂入っているのです。なになになに?こんなところにティンパニが入ってるのなんか聴いたことないぞ。それまでのきれいな演奏もそのティンパニの一撃でどこかに吹っ飛んでしまいました^^ゞ。
調べてみると、どうやら1楽章のラストにティンパニの一撃が入っている演奏もあるようで、それがラフマニノフ自身が改訂時に書いたのか、演奏していくうちにいつのまにか入ったのかはよくわからないけれども、そういう演奏もあると言うこと。それからはラフ2のCDを集めていくうちにティンパニが入っている演奏も何枚かコレクションに加わり、1楽章ラストにティンパニが入っているのを知りながら聴くこともありますが、それまでの演奏がどんなによくても、その一撃だけでなにもかも吹っ飛んでしまうようであまり好きにはなれません。いまではその一撃のすごさに笑ってしまうときすらありますが・・・^^ゞ
■泣きのラフ2を求めて・・・。〜僕の所有ディスクから〜
注)は、ティンパニによる<怒りの一撃>が入っていることを表します。
1.アンドレ・プレヴィン指揮 ロンドン交響楽団
T 19'01'' | U 10'02'' | V 15'39'' | W 14'02'' |
ラフ2をやらせればおそらくプレヴィンの右に出る者はいない、と思っていますが、この演奏も素晴らしいとは思うのですが、いかんせん下の演奏がよすぎて霞んでしまった感もあります。しかし、霞ませたのは同じプレヴィンの演奏。やはりこの曲に関してはプレヴィンを上回るのはプレヴィンでしかなかったということか?今では下のディスクを聴いてしまいがちですが、こちらも一聴の価値ありです。
2.アンドレ・プレヴィン指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
T 20'15'' | U 10'10'' | V 17'07'' | W 14'46 |
基本的には上記のロンドン響盤と解釈の点では同じなのですが、さらに泣かせてくれます。ロンドン響にはなかったホルンの咆哮が聴けます。ロンドン響盤よりもさらに目一杯ロマンティックでこれこそラフマニノフって感じの演奏です。テンポ感も僕には1番しっくり来ます。
3.アンドレ・プレヴィン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
T 18'29'' | U 10'24'' | V 14'54'' | W 13'53'' |
ライブです。テンポこそ少し早いですが、ウィーン・フィルによる透き通るような弦、炸裂するウィンナホルン。特に甘美な3楽章はそのきれいさが圧巻です。おもしろいのは1楽章のラスト。心持ちrit.をかけています。もちろん「ティンパニの一撃」はありません。楽章中のチューニング等いろいろありますが、ライブ感が伝わってくるようでこれもまたよし?ロマンティックを味わうのにはぴったりのコンビですね^^残念なことは、青裏盤であると言うこと。正規盤での発売を期待します。音質もスヴェトラ盤のほうがいいような気がします。
4.サイモン・ラトル指揮 ロサンジェルス・フィルハーモニー管弦楽団
T 19'42'' | U 10'24'' | V 16'01'' | W 15'04'' |
ラトルのバーミンガム市響とのブルックナー7番が結構きれいで期待して入手したんですが、期待はずれでした^^;;って言っても演奏が悪いってわけじゃなくて、期待していただけに確かにきれいけどまぁ、こんなもんかなぁ?って感じの演奏です。可も不可もない演奏。
5.エフゲニー・スヴェトラーノフ指揮 ロシア国立管弦楽団
T 20'04'' | U 11'11'' | V 17'40'' | W 14'57'' |
長らくプレヴィン&ロイヤル・フィル盤と人気を分けてきた演奏。しかし確かに名演だけども、この曲に求める物が違うような気がする。スヴェトラーノフのラフ2は、おおげさかも知れないが人生の悲哀やなんかを表現したスケールの大きい演奏であると思う(だからと言ってプレヴィンがスケールが小さいということではない)。だからこの曲にロマンティックさを求めている僕にしてみたら、「ラフ2をここまでしていいのか?」っていう疑問が絶えずつきまとう。もっとロマンティックに演奏することこそこの曲に合うのではないか?と思ってしまう。これはヴァント/BPOのブルックナー交響曲第4番にも通じる思いですが。というわけで、スヴェトラーノフのこの演奏は僕自身はそんなに評価はしていません。
6.エフゲニー・スヴェトラーノフ指揮 ボリショイ歌劇場管弦楽団
T 18'07'' | U 9'09'' | V 15'04'' | W 10'53'' |
同じスヴェトラーノフの演奏でも、こちらはちょっと雑に仕上がってる、という感じかな?と言った感じ。あんまりお薦め出来ません^^ゞ
7.エフゲニー・スヴェトラーノフ指揮 NHK交響楽団
T 21'43'' | U 10'46'' | V 17'31 | W 14'50'' |
くどいくどいくどい!ラフ2と言えばプレヴィンかスヴェトラに好みが分かれるけど、このN響盤だけがそういうことではなくてスヴェトラのラフ2ははっきり言ってくどいんだよ。この機会に言わせてもらうと、ここまでしないと感動させられないのか?違うだろ、曲がいいからもっと素直に演奏しても十分のはず。そういう意味でもラフ2に関しては僕は断然プレヴィン派なのだ。それに、あきらかには邪魔だろう?カップリングされている、歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲はテンポがめっちゃ速くて面白いのだけれど。
8.ミハイル・プレトニョフ指揮 ロシア・ナショナル管弦楽団
T 16'32'' | U 10'03'' | V 12'17'' | W 12'39'' |
ピアニストでもあるプレトニョフによる、彼の手兵でもあるロシア・ナショナル管との演奏。ラトル同様、可も不可もない演奏と言ってしまってはそれまでですが、それだけにとどまらない、あえて言うなら、上品で端正な演奏。ラフ2入門ディスクとして是非是非お薦めの演奏だと思います。
9.ワレリー・ゲルギエフ指揮 キーロフ国立歌劇場管弦楽団
T 22'33'' | U 9'30'' | V 13'02'' | W 13'45'' |
まず驚いたのにはジャケット。毛むくじゃらの(笑)遠くを見つめるゲルギエフが映っている。まだゲルギエフをよく氏乱知らないときにこのCDを入手したときに、こんな見たからに野蛮な人物がこんあロマンティックなラフ2を演奏出来るわけがないって、思ってしまいましたが、聴いてみるとどうしてどうして(^^ゞ人間外見だけで判断してはいけません^^ゞ。
10.マリス・ヤンソンス指揮 サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー管弦楽団
T 17'48'' | U 9'31'' | V 13'51'' | W 13'35 |
この感想を書くために改めて聴いたんですが、どうもいけませんな。うるさいというか何というか、全てが大きすぎます。金管なんかもよく鳴ってるんですが、うるさくてうるさくて。ティンパニもそない叩かんでええやろ?みたいな感じです。<怒りの一撃>自体ぶっきらぼうで全体的に節操がないというか、とにかくロマンティックとはかけ離れた演奏です。ろくにヤンソンスの演奏を聴いてないくせにヤンソンスがあまり好きでなくなった、という珍しい1枚です(笑)。
11.ポール・パレー指揮 デトロイト交響楽団
T 16'26'' | U 6'59'' | V 10'44'' | W 11'16'' |
パレー=怪演(快演?)、というイメージがありまして、例えばパレーの幻想交響曲なんてのはすごくグロテスクだったりして好きなんですが、はたしてパレーのラフ2なんてどういう演奏なのか、恐い物見たさ(聴いたさ?)で入手したんですが、上記のゲルギエフと同様どうしてどうして。テンポが早いなんてことはなく、決してグロテスクでなく、結構弦楽器の細かいところとか、しっかりと低弦部を聴かせてくれるなかなかの演奏なのです。僕のようにパレーは怪演(快演)だ、なんて思っている人、一度聴いてみては?怒りの一撃もないし^^
12.ロリン・マゼール指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
T 17'51'' | U 9'17'' | V 15'24'' | W 13'05'' |
この演奏も、ラフ2のお薦めは?というとたいてい上がってくる演奏です。なるほどこのコンビでは上位に上がってきて当然の演奏である。さうがマゼールそしてBPOってな感じです。マゼールというと、デフォルメをすることでも知られているが、意外にもこのラフ2はいわゆるノーマルな演奏。是非一聴あれ、の1枚。
13.ユージン・オーマンディー指揮 フィラデルフィア管弦楽団
T 18'47'' | U 9'36'' | V 12'58'' | W 14'43'' |
オーマンディーにとってラフ2は何度も演奏してきた十八番のレパートリだそうだ。世界初演もしたそうである。またラフマニノフとの交友もあったとか。オーマンディーはカットありの演奏をしていたようだが、4回目の録音となるこのディスクはカットなしの全曲盤。でも怒りの一撃は入ってます^^;
14.ユーリ・テミルカーノフ指揮 サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー管弦楽団
T 22'41'' | U 9'58'' | V 13'18'' | W 14'46'' |
これはなかなかいい演奏だと思います。弦もきれいだし、抑揚の付け方も僕好みだし。ただ、<怒りの一撃>がなければそこそこの演奏なのになぁ、という典型的な例かも?思いっきり叩いてます(笑)。
15.ウラジミール・フェドセーエフ指揮 モスクワ放送交響楽団
T 17'04'' | U 9'39' | V 13'35'' | W 11'10'' |
弦はきれいんだけど、もう少し「ロマンティク的なため」(?)が欲しかった。3楽章など割と淡々としています。4楽章も前半はかなり忙しい(笑)。途中でぐっ、とテンポを落とすところがありますが、その直前のトランペットの「パラパパー」なんてなにやってるか早すぎていまいちはっきり聞こえません。まぁ、淡々とした演奏がお好きな方には薦めです。
16.クルト・ザンデルリング指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
T 17'50'' | U 9'49'' | V 14'27'' | W 12'00'' |
おもしろい演奏です。テンポなど結構揺らしていますが、その揺らし方が「力」でどんどん揺らしているといった感じ。でもゴツゴツしてないし、結構きれいなんですね。これ、録音古くてモノラルなんですが、そんなに音も悪くないし、僕のコレクションの中では結構上位に食い込む演奏です。
17.クルト・ザンデルリング指揮 フィルハーモニア管弦楽団
T 26'07'' | U 10'56'' | V 15'28'' | W 14'24'' |
おそらくラフ2の録音の中ではもっとも演奏時間が長いだろう。上記のレニ・フィルとの演奏から33年も経ってるとはいえ、同じ指揮者でこうもアプローチの仕方が変わる物なのか!もう少しテンポを引き締めたほうが好きだが、それでも間延びしている印象はない。
18.ウリ・マイヤー指揮 関西フィルハーモニー管弦楽団
T 18'29'' | U 7'17' | V 13'18'' | W 11'45'' |
タイムから見てもおそらく改訂版による、いくらかの小節が省略された版での演奏。一昔前ならいざ知らず、完全全曲版での録音がなされ始めているこの時代になぜいまさら改訂版で?さらに少しテンポが早め。4楽章も早めのテンポで始まるが、すぐにテンポダウン。このテンポ設定には???。せっかくこの曲を選んだのだからもう少しロマンティックに演奏して欲しかった。
19.尾高忠明指揮 BBCウェールズ交響楽団
T 18'48'' | U 10'03'' | V 15'39 | W 15'01'' |
どこかでお薦めディスクとしてあがっていたので、以前から聴いてみたいと探していましたが、ようやくyahooオークションで入手出来ました。わずかに<怒りの一撃>も入っていますが、お薦めどおりなかなかい演奏です。あまり聞かないオーケストラですが、隠れた名演としてお薦めです。