そんないざこざの後、すぐに教室の扉が開いた。
俺は、机に置かれた金の横目に、椅子に座る。
「いやいや、入学おめでとう、諸君。
 我々は君達が過ごしやすい学校生活を送れるように努力するつもりだ。
 何かあれば何でも言ってくれたまえ。」
教壇から笑顔を向けて話し掛けてくる担任。
そんな話は耳からさっさと抜けて俺は考えていた。
「今日の昼飯どうしようかなぁ〜」
聖耶がそんな事を考えてるのを横目で睨む数人の学生。
先生の目を盗みヒソヒソと話す。
それを更に横目で見るのは俊哉と呼ばれる人物だった。
Case By Case 〜二人の事情〜

「以上で今日のホームルームは終わる。
 えっと、委員長が決まるまでは、一番前のキミが号令してくれ」
「はい。起立・・・・礼」
終わるや否やガヤガヤと皆が騒ぎ始める。
「さって、初日くらいとっとと帰るか〜」
鞄を取り、席を立とうとした時
「おぃ、ちょっと面かせや」
さきほどちょっかいを出してきた男が机の前に立ちはだかる。
「初日から問題を起こす気か?」
「心配するな。少し話しをするだけだ」
クイッと首を出口の方にむけ、歩き始めるリーダー格の男。
その後をぞろぞろと10人ほどの男が続いていく。
聖耶は「はぁ」と溜息をつきながら立ち上がり着いていく。
その時、不意に視線を感じ、その方向に目を向けると
「おい、あいつを甘く見るなよ。あれでも中学の頃は名の知れた奴だ」
「そいつはご忠告どうも」
聖耶は声の主、俊哉に声をかけると、ゆっくりとドアをくぐり、パタンと閉める。
その場に残された俊哉は
「へぇ、震えもしないか。面白いヤツだな。」
スクっと椅子から立ち上がると、ゆっくりと連中が向かった方に足を進めた。

屋上

「へぇ〜、いい景色だなぁ〜」
聖耶は初めて訪れた屋上からの景色に素直に感嘆の声を上げた。
「ゆっくり見ておけよ。しばらくは見れなくなるんだからな」
屋上の扉を閉め、鍵をかける。
「んで、何の話かな?俺もそれなりに忙しいんだが?」
聖耶はフェンスにもたれかかりながら、問い掛ける。
「話は簡単だ。お前のせいで俊哉さんにお叱りを受けちまったじゃねぇか。
 入学早々悪いが、てめぇはしばらく入院してもらおうと思ってな」
ボキボキと指を鳴らし、顔にはシワを寄せている。
後ろの人間も懐からナックルやナイフを取り出している。
「はぁ、やっぱりか。時間がないからとっとと来い」
聖耶はやる気無さそうにフェンスにもたれかかりながら言う。
その態度が気にいらなかったのか
「てめぇのその態度が気にくわねぇんだよっ!!」
一番前にいたナイフを持った男が聖耶に襲い掛かる。
持っていたナイフを顔目掛けて突き出してくる。
聖耶はそれを体をスッと落し、がら空きの腹部にエルボーを入れる。
「ゲホッ!」
ナイフを落し、その場に崩れ去る学生。
「な、何!?てめぇ!」
それに怒れ狂った連中は全員でかかってくる。
「はぁ」
溜息をつきながら、聖耶は拳を構える。
「死ねぇ!」
ナックルを付けた男のパンチをかわし、アゴにアッパーをかます。
立て続けに横にいたやつに蹴りを入れながら、背後を取られないように立ち回る。

数分後

「よいしょっと。これで終わりかな」
パンパンと手を叩きながら周りを見渡す。
そこには数十人の学生が倒れながらうめいていた。
「うぐぐ・・・てめえは一体・・・」
「俺か?俺はただの新入生さ。お前らと一緒のな」
ふぅ、と一息つくと扉の方に向かおうと歩き始めた時不意に扉が開く。
そこから現れたのは聖耶の想像通りの人だった。
「やっぱりあんたが裏で糸引いてたのか」
そこにいる生徒、俊哉はニッと笑みを浮かべ
「いや?これはそこに転がってるヤツらの勝手な判断だ。」
一瞬で冷ややかな目を転がってるやつ等に目を向け
「少し待っていてくれ。」
俊哉はそう言うと聖耶の横をスルリと抜け
「言わなかったか、”初日”から面倒を起こすなと?」
リーダー格の男が震えながら身体を起こす。
「失せろ。そしてもぅ俺の前にその面を見せるな。」
「と、俊哉さん・・・」
「一度しか言わない。失せろ」
その冷たい目を更にギラつかせ、男に言う。
男は完全に意気消沈し、屋上を去っていく。
続けざまに皆去っていき、屋上には聖耶と俊哉だけになった。
「タダの金持ちバカじゃねぇみてぇだな。」
聖耶は素直な感想を述べた。
「誉め言葉として受け取っておこうじゃないか。獅子雄 聖耶君」
「えらくいい解釈したんだな。まぁいいや。なぁ、帰っていいか?バイトに間に合わないんだが」
聖耶はかったるそうに頭をかきながら言うと。
「そんなに急ぐなよ。まぁ、少し話しでもしようじゃないか。」
「嫌だ。」
あっさりと聖耶は言うと、唖然とした俊哉。
そして急に腹を抱えて笑い出し
「はっはっは!良いぜ!お前すげぇいい!俺の目に狂いは無かったぜ!」
「はぁ・・・お前一人で笑って、変だぞ。病院いけよ?」
一人で大笑いしてる俊哉を放っておいて屋上を出て行く聖耶。
その声は階段を下りている間もずっと聞えていた。
「あいつ、どっか壊れたか?」
そんな事を考えつつ、学校を後にした。
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