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「ありがとうございました〜」 秋の夕暮れ。10月も半ばにして、暖かいオレンジ色の空。 5時のサイレンは既に鳴り響き、徐々に暗す時間帯になってくる。 「さって、今日はそろそろ閉めるとしますか〜」 入り口付近で花を手入れしていた女性が空を見ながら 「陽が落ちるのが早くなってきましたね。 また冬が近づいてきますね。あれから8年目の冬が・・・」 栗色の髪が夕日で更に明るさを増す。 女性は首に掛けたオカリナに手を添え 「元気かな、サルア君・・・」 落ち行く夕日に目を向けながら、キュっとそれを握り小さく呟く 「さっ、明るい内に閉めてしまいましょうか!」 店内から箒を取り出し、店を掃き出す女性。 オカリナはその胸で静かに揺れていた。 オカリナ
「ふぁ〜、今日も一日お疲れ様でした〜」 店を閉めると、奥の自室に向かい、ベットにコロンと横たわる。 この花屋のオーナーである景浦 光である。 「ふぅ、今日は一杯売れたねぇ。よかったわ」 彼女の横にある観葉植物に手を添えながら笑みを浮かべる。 「でも、そろそろ一人じゃ辛くなってきたわね。どう思う?みんな?」 誰も居ない部屋に響く声。 「やっばりねぇ。そろそろゆとりも出てきたし、アルバイトさんでも雇いましょうか。」 部屋の中にある様々な植物に目をむけ、笑みを浮かべる。 植物たちは風も無いのに、少し葉を揺らす。 この女性 景浦 光は極めて特異な生活からか、植物と話せる能力を得る事になった。 「よっし、そうと決まれば、即実行よ!」 光はベットから身体を起こし、立ち上がると、机に向かい、何かを書き始める。 その作業は朝まで行われた。 翌朝 「さぁ!今日も一日頑張りましょう〜」 店のシャッターを開け、外に出て伸びをする。 テキパキと植物たちを店の前に置き、水をやる。 一通りの作業を終えると 「あっ、折角作ったんだから、張らないと」 そういって、持っていた花をレジに置くと、いそいそと奥の部屋に行き 机に置いてあった紙を取ると、レジに戻ってき、貼り付ける。 「アルバイト大募集 仕事内容:レジ及び花の世話 兎に角、働く人希望です!変な人以外なら誰でも雇わせて頂きます! 時給は成果主義の方法をとらせて頂きます。 ご希望の方はレジの私に話かけてくださいね♪ フラワーショップ 光」 「うん、完璧♪」 張り紙を見て、満足げに笑う光 「さぁ、後は待つだけよ〜」 それと同時に店の外から声がしたので、光は仕事に戻った。 10日後 12時のサイレンがなる。 「ありがとうございました〜」 レジで会計を済ませたお客さんを見送り、人が居なくなる。 「はぁ・・・」 レジの横に張られている紙を見ながら 「あれから、10日。だ〜れも言ってこないし・・・ インパクトが足りなかったかしら?」 腕を組みながら、うんうんと呟く。 その呟きは呟きにしては声が大きく・・・ 店の外では何事かと、人が集まっていた。 同じ頃 「や〜っと着いたー。何年ぶりだ、この街は」 銀色の髪を後ろで結いながら、サングラン越しに街を見やる一人の青年。 腕には包帯が巻かれ、背中には刀が背負られている。 「およそ、片手で足りないくらいの年数だな。懐かしい」 変わらない町並みの懐かしさから笑みがこぼれ。 「さって、久しぶりに街を歩くか。 昔なじみにでも会えれば嬉しいトコだな〜」 暫く懐かしい街を歩き、角を一つ曲がると見つかる人の群れ 「ぬっ、なにやら怪しい集まりが」 好奇心旺盛な彼は嬉しそうに群れに近づいていき 「何かあったのかい?」 近くに居たおばちゃんに声をかけると 「おや、兄さんはこの町は初めてかい? この街では有名な光ちゃんの独り言だよ。 いい子なんだけどね、ときどき、ああやって、独り言が大きく・・・」 さすがはおばちゃん。 世間話好きなのか、聞いても居ない事を次から次へと話してくれる。 「ははは、その光って子は中々ユニークだな。 俺の知り合いにも似たような子が居たから、懐かしいな」 俺はおばちゃんと話が盛り上がり、ついつい世間話に花を咲かせてしまうことになる。 あの瞬間が来るまでは・・・ 花屋レジ 「あ〜もぅ、わっかんないよ〜。」 考えること10数分。カンシャクを起こし 「ふぅ、落ち着かないと」 無造作に首に掛けてあるオカリナに手をかけ、吹き始める。 何時までも懐かしく、優しいあの曲を。 花屋外 「だろ?それはもぅ大変な旅でなぁ〜。ってどうしたおばちゃん?」 何分話しただろうか、今まで話していたおばちゃんが急に静かになり 「しっ!静かにおしっ!いい物がみれるから」 何だ?と皆が視線を向ける店の中に視線をやると聞える音 「こ、この曲は・・・」 男はその場に立ち尽くした。 「いい曲だろ、兄ちゃん。光ちゃんは落ち着く時はこうやってオカリナを吹くんだよ。 一度聞いた事があるんだけど、光ちゃんの大事な人が好きだった曲みたいでねぇ〜。 事ある事に吹いてるから、すっかりウチの街の名物さ・・って兄ちゃん?」 男は俯き、クスッと笑うと、店の中に歩いていく。 何も知らずに吹き続ける女性。 「ふふ、相変わらず熱中すると周りが見えなくなるみたいだな、光。」 オカリナを吹き続ける姿を微笑んで見、ふと目に付くアルバイト募集の手作りのチラシ 「アルバイトなぁ〜。ここで落ち着くのも悪くないかな。」 チラシを壁から剥ぎ取り、壁にもたれながら、ゆっくりとその内容を読む その間にもオカリナは吹かれ続け、街にはその音色が響く。 やがて、吹き終えると 「ふぅ、落ち着きなぁ〜。」 「落ち着いてるトコ悪いが、もぅ1曲リクエストいいか?」 「え”っ!!」 突然の声に光は驚き、声の主の方に顔を向ける。 「リクエストは景浦 光作 「祈り」で」 サングラスを外し、ニコリと微笑んだ顔を向け 「お願いできますか?光さん」 涙ぐんだ瞳でこちらに向かって 「そのリクエスト、受けてあげません!」 近くにあったサボテンの鉢を思いっきり投げつける。 「どわっ!?」 コツーンといい音が鳴ったと思うと、男は壁に頭をぶつけ、その場に倒れる。 「「「いったーー!」」」 店の前に居たギャラリーが盛大に盛り上がる。 男は頭を抱えたまま、起き上がり 「あたた・・・いきなりひでぇ扱いですね、ここは〜」 顔を上げると、すぐそこまで光が歩いて来ており。 倒れこむように、男の胸にうずくまる。 「バカ!!バカバカバカバカバカ!!」 「ちょ、ちょっと・・光・・・痛い・・・」 何度も何度もみぞおちに突きが入り、遂には吐血する青年。 周りの声もあり、なんとか突きがおさまり・・・ 「あ、相変わらず、つ、強ぇな・・・」 ニコリと血を吐きながら頭を撫でる。 「くすん・・・待たせすぎだよ・・・サルア君」 「あ〜、悪かったって。ホントに・・・」 まだ涙ぐんでいる光の瞳に唇をあて、涙を吹きながら 「あぁ、これ、決まったの?」 ふと、思い出したかのように手に持っているチラシを見せ 「えっ、いや、それが全然で・・・」 「んじゃ、決まりだな。」 言葉続けさせずに、言い 「時給はいくらでもいいから、雇ってもらうよ、光オーナー」 ポムっと相手の頭に手を置き、ニコリと微笑む その笑顔につられたように光も微笑み 「うん!それじゃ、最初のお給料はこれね」 そういって、オカリナを吹き出す。 先ほどの曲とは違い・・・ 暖かさを与えてくれる・・・ 元気を与えてくれる・・・ 希望を与えてくれるその曲を・・・ |