アーケードの入り口の方から、ゆっくりと足を引きずりながら歩いてくる少年、
姿はぼろぼろ、今にも倒れそうな状態で歩いている。

安らぎ

「 ぐぅ、やっぱ、この傷じゃ・・・しんどいな・・・」
前の戦闘で大きな傷を負い、今ではこの様・・
この少年、サルア・アイシアは思う。
ふと、そんなことを考えながら歩いていると・・
「・・・・何か音が聞こえる」
歩みをやめ、聞き入る。
「・・・あっちか・・・」
音の聞こえた方に歩いていく。ゆっくりと
「・・・あれは・・・光さん・・・」
近くまで歩いていき、楽しそうにしている光さんをしばし見つめる。
「♪〜♪♪‥ ♪ 」
しばし続く演奏。しかし、かなり満足したようで、繰り返すことなく音は止み。
オカリナを膝の上に置く...それを見て
「・・・うまいもんですね。」
不意に声をかけた。やっぱり思ったとおり引いてるし
「って、サルア君じゃない。もぅ、ビックリさせないでよ〜」
声が返ってくる。
「 いや〜、かなりうまいですね〜、聞き入ってしまいましたよ。」
正直今の俺の心に響くメロディーだった。そして、正直な感想・・
「ふふふッ、ありがとう。最近はじめたばっかりだけど‥そういってもらえると嬉しいわ♪」
ニッコリ笑って答えてくれる光さん。
しかし、闇に浮かぶ、白色。微かに眉をひそめ
「‥‥サルア君、それ‥どうしたの?」
包帯を指さしながら、怪訝そうに言う光さんに
「・・ん〜、ちょっと転んでしまってね」
明らかに嘘をわかる嘘をつく。この程度で騙せるとは思っていないが
思いつく嘘が出てこなかったから。しかし、それが返って裏目に出た。
「‥‥だったら。物凄いコケ方したのね? それ、尋常でないわ?」
相変わらずジト目で見てくる光さんに
「・・・ええ、つまずいた先にでかい石があって、頭をぶつけ、ふらふらしてたら鉄柱にぶつかって・・・
 (以下エンドレス)・・・っとまぁ、いろいろあったわけです。」
思いつく限りの出来事を上げてみた。
すると、うんうん、と頷いて。満面の笑みを浮かべて手招きされ、
ゆっくりと足を引きずらないように気をつけて傍まで寄っていき・・
「そう、随分サバイバリックなトコロを歩いてたのね‥? 
 で。ホントのトコロはどうなのかしら?」
「・・・そうですね〜、結構サバイバルでしたね、ってホントのことですよ〜」
ばれてると思うも、最後まで言ってみると
「‥‥貴方が騙したいと思ってるならなら。本当のこと、話す気がないって言うのなら。
 別に言わなくてもいいわよ‥。私、サルア君を困らせたいわけじゃないから」
困ったような雰囲気のある微笑みを浮かべるのを見て
「別に騙したんじゃなくてですね〜、・・・ちょっと言いにくかっただけです。・・・斬りあったなんて・・・・」
微笑みに負け、小さな声で語りだすと
「探してたヒトと、なの? それは。 怪我の治療とか‥ちゃんとしたの?」
心配そうに近づく。しかし下手に触れない‥。戸惑ったまま、見つめられ
「いいや、違う人です。もっとも無関係じゃなさそうでしたけど・・・。
 一応ね、もっとも、ほっとけば治るから応急処置程度ですがね・・・」
自分のやり合った相手、師匠のことを思い出し、苦笑する。
「‥‥‥だめ、ちゃんと治療しないと‥この時期は大変なのよ? 湿気の多い時期は‥ちゃんと消毒とかしておかないと傷口が化膿して。
 じゅくじゅくになって。それから (‥と、しばしグロテスクな説明が続き)って事になっちゃうのよ? だから、ちゃんとしましょ?」
あまりにグロテスクな説明のため、真っ青になり
「・・・だ、大丈夫でしょうけど・・・其処まで言うならちゃんとしましょうか・・・」
怖さに負けて言うことを聞く。治療をするため、服をめくり、包帯を解いていくと、いかにも致命傷とも思える刀傷が見える。
「そうよ、ちゃんとしない‥と‥‥‥」
普通の人ならその凄惨とも言える傷口に、思わず意識が遠のきそうになるのだが
‥そうになるのを我慢してッ! 頑張って、意識を保たせながら持っていた薬草をその場で調合、消毒等の手当をてきぱきとこなしていく。
それはとても手慣れた様子で・・・
「うまいもんですね。」
傷口を触られ、時折傷にしみたのか、うめくのをじっと耐えている
「あはは、姉さんや兄さんのよくやってたもの。当然と言えば当然の事よ。
 あ・しみる? ごめんね、でも‥コレ、とってもよく効くクスリだから。ちょっとだけ、我慢して‥」
清潔なガーゼをあて、何故か持っている新しい包帯を患部に巻き治療完了
「・光さんの姉や兄・・・サバイバルな兄弟だな・・・」
そんなことを考えていると治療が終わり
「・・・すいませんね、治療させてしまって・・・血・・・見て大丈夫だったですか?もしや気分が悪かったのでは・・・」
ふとしたことで思い出す。光さんは血を見るのが弱かった事を・・
しかし、何も言わず治療してくれた光さんは
「 血‥‥あはは、うん、平気‥だったみたいよ? 大事な友達の一大事だもの、パニクったり気絶なんかしてられないわ。
 うん、気にしなくていいわよ、あはは‥‥ っと、ちょっと失礼‥」
平気なはずが無いのに、平気と言ってくれる。
が、やはり平気なはずはなく、走っていく。
「何処行くんですか〜?」
追いかけようと思うも、足もろくに動かず、ただその場にいるだけだった。
彼女の去った方角から、コンクリートに硝子のぶつかったような音が聞こえる‥。 
それが、二度三度。 しばらくすると、何事もなかったかのように戻ってきて‥
「ごめんなさいね、ちょっとコンビニに行って‥お水買って飲んできたの。サルア君も‥のむ?」
飲みかけのペットボトルを差し出され
「 ・・・やっぱり無理してたんですね・・・。・・・ん、ありがと・・・」
少し暗い表情になりながらも、水を受け取り、少し飲む
「ふふッ、ホントならね‥血を分けてあげたいところだけど。万年貧血が‥最近酷くて。‥って、暗くならないでッ?
大丈夫だって言ってるじゃない‥」
肩に優しく手をのせ‥優しく微笑んでくれる光さん
「・・・血は足りてますから・・・ ホントに大丈夫なんですね?無理しないでくださいよ?」
手をのせられて、少しほっとしたら、足がぐらつき、地面に座り込む
「あぁ、もう‥他人の心配する前に。自分の心配しなくっちゃダメじゃないの。私、腕力とかあっても足強くないから。立たせてあげられないわよ〜」
クスクス笑いながら、俺と同じように地面にぺたりと座り込む
「・・まったくだ・・・こんな様では人には言えないな・・・。立ち上がる時くらい自分で立ち上がりますよ〜」
少し水を飲みながら
「ん〜、でもまぁ‥偉そうに物言えるときくらい、偉そうに物申した方がいいときもあるわよ?
 えぇ、了解ッ♪ でも‥傷が痛むようだったら言ってね? 手伝いくらいなら出来るから。ねッ」
幼い笑みを浮かべられ、俺も思わず微笑み
「ええ、まぁ無いと思いますが、痛んだら是非また治療の方よろしく」
軽く頭を下げる
「頭下げなくてもいいわよ、私が好きでやってることだし‥ね」
微笑んで言ってくれる。すると
「あ・私ももうちょっと飲みたい‥ ちょっと、失礼?」
俺から水を奪って飲んで、またにこやかに返されるが
「僕はもういいですから、後飲んでもらっていいですよ。僕のじゃないし・・・」
返された水をまた返す
「って、なによ〜? 別に遠慮なんかしなくったって‥私、もういいから」
また水を渡されるが
「遠慮じゃなくて、もう十分ですから、どうぞ」
さらにまた水を返すと
「うぅッ、わかったわ‥そこまでサルア君が言うなら。コレ‥なげてくる」
「・・・なげるって何処に?」
俺は本当に何処かに投げるものだと思い込んでいたら
「 ‥‥ゴミ箱に決まってるでしょッ、えいッ!」
恨みがましい目でペットボトルを投げつけられ
「・・・ゴミ箱ね〜って僕ですか〜」
ゴツンとした音とともに、後ろに倒れる
「今の‥当たり所、悪くなかった…わよ、ねぇ?」
心配そうに見ている光さんをよそに、ゆっくり起き上がり
「・・・痛てて・・・今のは痛かったぞ〜・・・おっ?」
気がつくと頭から一筋の赤いものが・・・きっと傷口が少しばかり開いたのだろうと思う。
しかし、それで十分だった。
「‥‥‥‥‥ はぅッ 」
声を上げ、卒倒する光さん
「っと、いかんいかん・・・傷が開いたか・・さて、これで大丈夫・・・って大丈夫ですか、光さん」
手でごしごしと頭の血をぬぐい、安心したのも束の間、光さんが倒れているので、振ってみた
「はわわわわわわわわ〜〜〜〜ッ 。だ・ダイジョブ‥だから、 ふらなひで〜〜〜」
そんな叫びも俺には聞こえていなく、さらに振り続けていると
「ふぱ〜〜〜ッ?!! らかふぁ〜、あのへ〜〜〜〜 ‥‥‥  振るなって言ってるのぉ〜〜〜〜〜ッ!!!!!」
頭に大量の何かが落ちてきて、そのまま潰れる。
「‥‥‥‥うげぇ〜〜ッ キモチ‥悪い‥‥‥。 まさか、丘の上で船酔いなんて‥はぁ、サルア君、冗談にもホドがあるわ?」
その言葉に同調するように
「・・・す、すびまぜんでじだ・・・」
大量の栗の下からなきそうな声で謝る
「‥‥ご・ごめんなさい‥ちょっと、加減しなさ過ぎた‥わね‥‥ 」
栗の中から救出され、治療されながら
「・・・いや、まぁ・・・自業自得ですから・・・・こっちこそすいません」
「あ・イガグリが謝ってる‥ っと、そうじゃなくって‥とげ抜きとげ抜き‥‥ 」
「い、イガグリ・・・・・」
きっと頭に刺が刺さったまま謝っていたせいだろう。
だが、おれは呆気に取られていた。
「いきなり治療してもらってしまいましたね・・・」
俺は気を取り直して、話に戻る。既に治療は終わっており
「ふふッ、いいのよ。このくらいなら‥いつだって何回だってやってあげるわよ♪ 
って、そんなに怪我はしてもらいたくないけどね。‥‥‥サルア君の専属治療隊員」
・・・・冗談で言ったつもりなのだろう。
だが、その言葉は十分に俺を赤くさせた
「・・・確かに何回も治療ってのはぞっとするね・・・其処まで怪我はしない・・・・と思う。 せ、専属」
「まぁ、怪我したらいつでも私の所に来て? 優しいナースが診てあげるから」
眉間を優しくつつかれ
「やだ、何赤くなってるのよ? 変なこと、考えてないでしょうねー?」
・・・冗談でもそれはキツイっすよ。
心の中でそう思いながら
「出来る限り行かないようにしますけどね」
これが精一杯言える言葉だった。さらに追い討ちをかけられる
「‥‥サルア君が来なかったら、あんまり会えないわ? 怪我してる必要はないから‥そうじゃないときも遊びに来てよ?」
「・・・そうですか?まぁ呼んでくれれば行きますけど・・・って何処にいるか分らないじゃないですか・・・」
家に誘われた事で、さらに赤くなる。
きっと阿呆みたいに真っ赤になっているだろう。
「えっとね、此処からこうきて‥こういう目印があって。それから‥ 」
場所を教えてもらうと
「‥‥‥‥ホントに大丈夫? なんだか心配だわ‥」
顔を覗き込まれ、おもわず、キス
「・・・さ、さて、帰りましょうかね・・・」
照れのため、さっさと帰りたいが、傷のため、思うように歩けない。すると
「帰るなら‥一緒に帰りましょうよ、途中まで一緒じゃない、ねッ?」
俯いたままで表情までは分らなかったが、腕を組まれ
「・・・は、はひ、そうですね・・・では行きましょうか・・」
そのまま家路に着いたのであった。

少年に訪れた、わずかな平穏

この後、少年は・・・・
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