前略
そちらを離れて数ヶ月が経ちました。
皆様はお変わりなくお過ごしでしょうか。
私は新しい生活にもなれてただいま猛勉強中です。
そちらで過ごした日々、実に思い出に残っております。
例えば…

〜手紙〜

「お〜い、これは何処だ?」
「んとね、あそこの箱に入れて〜」
了解と言いながら歩いて行く俺の名は谷川 正志
ちまたではちょっとは名の知れた人間よ。
どれくらい有名かって?
そりゃ商店街に行くと必ず1割引のおまけが付くくらいさ。
「ちなみにスリーサイズは…「何独り言言ってんだよ、てめぇは!このクソ忙しい時に!」…ぐえっ!!」
俺は鳩尾を思いきり殴られて箱の方に吹き飛んで行く
顔から思いっきり床に突っ込み、ピクピクと震えながら後ろからかけられる声
「おらっ!何時までも寝てんじゃねぇぞ、正!さっさと働きやがれ!」
響く怒声に俺はガバっと身体を起こして振りかえり
「まてこら!てめぇ!明美!いきなり人様の人体急所狙い打ちして何命令してんだぁ!」
その言葉を発した瞬間に向けられる表情に俺は凍り付く。
「あぁ?ナンだって?」
言うなれば鬼の形相。般若の面のリアル版という感じだ。
「いえ、何でもないであります!閣下!」
俺は自分の直感に身を任せ、敬礼のポーズをしつつそう言う。
命あってのモノダネよ。
「そう?ならさっさとやって頂戴ね。今日中に全部終えたいんだから。」
そう言ってからまた作業を再開する明美。
テキパキと箱に詰める様子が何とも手早くていい感じだ。
俺的に87点をやろう…っと思った矢先に飛んでくる木製バット
ガン、といい音を立てて俺の頭に突き刺さる。
「さっさと働きやがれ!」
「い、イエス、マム」
俺はふらふらとなりながらも作業を再開した。



数時間後
辺りの日はすっかり落ち、カラスが鳴き始めた頃
こちらの作業も終わりに近付いていた。
明美が最後の箱に物を詰み込むとふぅと息を吐き
「よし、終わったー。正〜、そっちはどう?」
床にどっかりと腰を下ろして顔だけこちらに向けて言ってくる。
「あ〜、この箱詰めたら終わり…っとこれで終了」
ふぅ、と腰をポンポン叩きながら床に腰を下ろし
それを見た明美は袋からごそごそと何かを取り出して此方に投げてくる。
俺はそれを慌てて取り
「危ねぇな、ちゃんと言ってから投げやがれ」
俺はブツブツと文句を言いつつも、受け取った缶をカシャっと開けて
「プハァ〜、やっぱ仕事の後の一杯は格別だなぁ。」
「お疲れ様。私よりは働いてないけど、そこそこ役に立ったよ。」
横を見ると明美も缶を開けて飲んでいる。
こうして普通にしてると感じのいい姉貴って感じなのだが
「何見てんだよ、正。そんなジロジロ見んな。」
一度口を開くとコレである。
「別にそんな気にするような事でも無いだろ。何年その顔見てると思ってんだ。」
「この私の美しい顔が何年もタダで見れたんだから嬉しいでしょ?」
「はいはい、勝手に言ってろ。」
俺は呆れたようにまたビールの缶に口をつける。
明美は少し笑み浮かべると同じようにビールに口をつけ
「そいやさ、ここ何年目だっけ?」
よいしょ、と言わんばかりに立ち上がり窓際へと近づいて行きこちらを向いて尋ねてくる。
「俺で2年くらいか?」
壁際に凭れながら俺はそう答え、空になった缶をゴミ袋へと放り投げ。
カシャ、と部屋に落ちれば「下手くそ」と即座に言われ
「うっせーな。つかビールもっと無いのかよ。まだまだ労働賃金分貰ってねぇぞ。」
「ちゃんと用意してあるって。そこの袋の中に色々入ってるから飲み食いしていいよ。」
ダンボールの間に転がっているコンビニ袋見つけると四つん這いのまま近づいて行きゴソゴソと袋を荒し
「ロクなモンがねぇな」とブツブツ大声で言いながら
「明美も何か食うか?コンビニ弁当なんかじゃ足らねぇだろうし、何か作ってきてやんよ。」
袋を持って立ち上がると窓際の明美に声かけ
「あぁ、最近ご無沙汰だもんね。最後の晩餐なんだから美味しいの頼むよ。」
少し寂しげな表情でその窓からこちらに顔を向けて微笑む。
夕暮れのオレンジに染められた表情ははっきりとは見えず、了解と告げると俺はその部屋を出て行った。



 

□後書き□
少し余裕が出来たのでアップ。
しかし、まとめきれずに前後編になってしまった(汗
またすぐに上げますので許してください。
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