漢字教育士ひろりんの書斎漢字の書架
2015.1.    掲載
2021.1.  注1追記
SPIN OFF

 「ノツ」というかたち

 「ツ」を含むものではあるが、「notu.png(527 byte)(以下「ノツ」)」を含む漢字についてはこちらで考える。
 常用漢字の字形でノツを含むものには、旧字にさかのぼると2パターン以上ある。(カッコ内に常用漢字表外の漢字を参考記載)

① 「爪」がノツとなったもの
ukerukoukotu.png(1271 byte)
「受」甲骨文

 爪は、手の指が上から下へ伸びている象形。旧字では「tume.png(311 byte)」のかたちで使われ、新字体ではノツとなったものが多い。1)
   妥乳浮受授爵采菜採彩渓鶏隠穏稲暖援媛
 爪が起源でも、爲→為、爭→争、稱→称 のように、新字体でノツとなっていないものもある。またについては、2010年に常用漢字に加わったが、旧字体のままである。

② 「月」がノツとなったもの
yurerusyouten.png(932 byte)
「揺」小篆

 「肉」が変化した月(にくづき)の斜めになったものが、さらに変化してノツとなった。
謠→謡、搖→揺、將→将2)、奬→奨
 しかし、同じ構成要素を持ちながら変化しなかったものもある。 祭察擦

③ その他
mujinakoukottu.png(747 byte) aisyouten.png(1313 byte) syunsyouten.png(2147 byte)
「豸」甲骨文 「愛」小篆 「舜」小篆

☆懇・墾(豹・貌)…むじな偏「豸」は聖獣の側面の象形と言われ(字統)、新旧同型である。

☆愛・曖…ノツの部分は、元は「既」の旁の上部。後ろに心を残しながら、立ち去ろうとする人の顔で、新旧同型である。

☆瞬(舜)…「舜」の小篆は現在の字形とは異なっており、「字形の伝承が失われているようである(「字統」)」とされている。新旧同型。



注1) 旧字体では、爪に由来する全ての「ノツ」がtume.png(311 byte)の形になっていたと思っていたが、旧字体=康煕字典に掲載された字体 と考えると、そうとは限らないことがわかった。①に掲げた漢字の康煕字典(内府本)での字体を下に掲げる。
notukouki.png(80642 byte)
 上図のとおり、妥・受・彩・媛などは康煕字典でもノツの形で書かれている。理由としては、字ごとに「この字はノツの形」などと決まっていたわけではなく、当時はどちらの形も違和感なく通用していたということだと思われる。     戻る

注2)

syousyouten.png(1860 byte) syoukoukotu.png(1224 byte)
「将」小篆 「将」甲骨文
 「將」の字源について補足する。字統には甲骨文の記載はなく、小篆の字形を掲げ、「爿と肉と寸に従う。机の上に肉を手でおいて奨め、神に供える」といい、その祭をする者を「将」というと述べている。
 しかし台湾・中央研究院のウェブサイト「漢字古今字資料庫」で検索すると、將の甲骨文として右側の字形が現れる。甲骨文は全部で8例掲載されているが、いずれも、爿と二つの手(又)からなる字形であり、肉とは関係しない。
 また、「甲骨文字小字典」によると、将の甲骨文字には手の替わりに供物の肉を載せた異体字もあるとのことで、小篆では肉と手とを合わせた形となったという。しかし、肉を含まない甲骨文字があることから、帥将の意となったのは「おそらく仮借の用法であろう」という。      戻る


参考・引用資料

新訂字統  普及版第5刷 白川静著、平凡社 2011年

甲骨文字小字典 落合淳思著、筑摩選書 2011年

画像引用元

甲骨文、小篆  漢字古今字資料庫(台湾・中央研究院ウェブサイト)

康煕字典(内府本)  清、1716年[東京大学東洋文化研究所所蔵]:PDF版 初版 パーソナルメディア 2011年