漢字教育士ひろりんの書斎漢字の書架
2015.1.  掲載

 漢検漢字教育サポーター養成講座 漢字学総論Ⅰ レポート

   

課題2 漢字の歴史①を受講して

2012.5.12提出

 漢字は、人と人ではなく、人と神とのコミュニケーションのために生まれた、と考えていた。白川静博士の著作にそのように教えられたし、現に最古の文字とされる甲骨文は、おどろおどろしい呪術の文字に満ちている。
 しかし、今回のO先生の講義により「陶文」のことを知り、また残存しにくい木簡・竹簡のことに言及されたことにより、甲骨文と同時代に甲骨以外のものに記されたであろう文字の存在に思いが至り、まさに目からうろこが落ちた思いがした。
 甲骨文が神とのコミュニケーションを目的としていたことは正しいとしても、それは甲骨自体が神の意志を問う卜占のために使われたからで、甲骨にそのための文字が記されていることは当然である。そのほかの目的で、他の物に記された文字がなかったという証拠にはならない。つまり、発生期の漢字について考えるには、甲骨文が対象のすべてだと考えるのではなく、他の媒体に記された文字もあったことを想定する必要があるということである。ただ、三千数百年の時間の中で、甲骨文以外のものはほとんど失われてしまったのであるが。
 白川博士は、「漢字は、かなりの文字数がワンセットで一時期に出現した」と言っているが、その中には、神との交信には使われない(=甲骨には記されない)ような文字も多数あっただろう。これらの文字がどのような形であったかを知るためには、今後、奇跡的に発掘される文物を待つことしかできないのだろうか。
 たとえば、金文として蒐集されている文字のうち甲骨文に由来を持たないものも、金文の時代に成立したわけではなく、甲骨文の時代からその原型があったものかもしれない。同様に、説文解字などに記載されている文字のうち、甲骨文や金文で確認されていないもののなかにも、古くから字形が変わっていないものもあるだろう。これらを研究することにより、発生期の漢字の全体像がおぼろげながら把めるようになるのではないか。また、文明が文字を生み出すメカニズムの解明にもつながるのではないか。
 私が知らないだけで、既にそのような研究が進んでいるのだとは思うが、漢字に関してはまだまだ未知の世界が広がっていると感じる。