漢字教育士ひろりんの書斎>日本語の本棚>
2017.4. 掲載
2018.4. 追記
東京藝術大学
東京芸術大学は自らの名を「東京藝術大学」と名乗っている。常用漢字ではなく、旧字体の「藝」を使っているのだ。略称も「藝大」であり、「ほかにも芸大はたくさんあるが、『藝大』と略せるのはうちだけだ」とでも言わんばかりである。
「芸」という字はもともと「ウン」という発音で香草を意味する、「藝」とは別の字である。これを「藝」の新字体として使うことについて違和感を持つ人も多いようだ。
常用漢字表は「固有名詞を対象とするものではない」としているので、この6文字で固有名詞なのだと主張するならそれもありうるかもしれない。しかし、この大学の設置根拠となる「国立大学法人法」別表では、当然ではあるが「東京芸術大学」と表記されている。いわば法に反してまで「藝」の字を使うほど、こだわりを持っているようだ。
常用漢字表も国立大学も文部科学省の所管であり、大学が常用漢字に反旗を翻しているとすれば、やじ馬としては面白い。
ちなみに、同大学も、内部の工芸科、芸術学科等のレベルでは、新字体を使っている。
また、「文藝春秋」という雑誌も「藝」の字を使っているが、この出版社は、「オール讀物」「文學界」といった戦前からの雑誌は全て旧字体で統一しているようだ。
【2018.4.1.追記】迂闊にも見過ごしていた。大学HPの「東京藝術大学」の「学」の字が、旧字体の「學」ではなく新字体なのだ。大学当局は、旧字体にこだわっているのではなく、「芸」の字を使いたくないだけ、ということのようだ。しかしその結果、わずか6文字のうちに新旧字体が入り混じるという非常識な表記となってしまった。
HPのタイトルは隷書風の大学名だが、これを見て違和感をもつ関係者はいなかったのだろうか。この大学では書道を教えておらず、したがって書道教授もいないため、指摘する人がいなかったということだろうか。