大阪の地下鉄に、「谷町四丁目」「谷町六丁目」「谷町九丁目」という駅があります。谷町線という路線に、3つ並んでいます。もちろん、駅のホームなどには、ローマ字で“Tanimachi 4-chome”というふうに、駅名を表示してあります。また、地下鉄に乗っていると、日本語での放送に続いて、英語で“Next station is Tanimachi-yonchome.”などと放送があり、外国の人たちに、次の停車駅を知らせています。
さて、ここで問題です。ある外国人が、谷町六丁目から東梅田という駅まで、地下鉄に乗って一人で往復することになりました。この人は英語は分かるけれど、日本語は全く分かりません。帰りのことも考えて、まず駅のローマ字表示を見て駅名を覚え、これで大丈夫とばかり電車に乗り込みました。東梅田で用事を済ませたあとの、帰りの電車でのことです。電車は満員で、車内から駅名表示を見ることはできませんでしたが、英語の車内放送があることを知っていたので、耳を澄ませて、行きしなに覚えた駅の名が放送されるのを待ちました。ところが結局、自分が降りる谷町六丁目の駅名が放送されたことが分からず、乗り過ごすはめになってしまったのです。さて、一体どういうわけでしょう。
お分かりでしょうか。この人が駅で覚えたのは“Tanimachi 6-chome”という文字で、車内放送で聞いたのは“Tanimachi-rokuchome”という言葉です。6=rokuだからそれで分かるじゃないかと日本人は思ってしまいそうですが、6という数字をrokuと発音するということは、日本語が分からないこの人は知りません。つまり、“Tanimachi-rokuchome”と聞いても、日本語の知識がないと、それが“Tanimachi 6-chome”のことだは分からないわけです。しかも、この路線には「谷町○丁目」という駅が3つ続くため、この人には区別がつかず、降りるに降りられなかったということです。これでは何のために英語放送やローマ字表記をしているのかわかりませんね。
駅の表示も“Tanimachi-rokuchome”として、放送と表示を一致させれば、誰にも分かるでしょう。でも、外国人が持っているガイドブックなどの表記も合わせないと、また混乱の元になるかもしれません。逆に放送の方を“Tanimachi-sixth-chome”としても良いかもしれません(sixthとは、「6番目の」という意味です)が、“sixth-chome”というのは、日本語と英語が入り混じっていて変な感じがします。
実は、このことは昔から、ツッコミ好きの大阪人にとって格好の話のネタだったのですが、今になっても改善されていません。そのかわり、というわけでもないでしょうが、地下鉄を運行する大阪市交通局は、地下鉄の各駅に記号をつけ、表示でも放送でもこの記号を乗客に知らせることにしました(2004年7月から)。谷町六丁目の場合は、「T24」という記号です。もちろん、放送では、駅名に続けて“station number is T-twenty four”と英語でアナウンスされます。さっきの外国人は、“Tanimachi-rokuchome”を覚えなくても、「T24」を覚えれば、無事に乗り降りできることになりました。まぎらわしい駅名や長い駅名はほかにもあるので、これはこれで便利なやり方でしょう。
でも、遠くからせっかく訪れてくれた人たちには、記号ではなく大阪の地名を覚えてほしいとも思うのですが。