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 細く入りくんだ路地裏を並んで歩きながら、さくらは友枝商店街の福引で
 特賞の香港旅行が当ったこと。
 父親が出張のため、代わりに雪兎を誘ったことなどをかいつまんで説明した。
 自分の話が終ると、さくらは小狼に尋ねた。

 「李くんは、どうしてあそこに?」

 「冬休みに入ってから、香港にもどっていた。
  今日は買い物に付き合わされて、そしたら、妙な気配がしたから…」

 「あの、鳥さん…」

 小さく呟いたさくらに、小狼は頷いた。

 「ああ、普通の鳥じゃない。…何か、知っているのか?」

 「ううん。…でも、夢で…」

 「夢…。予知夢か?」

 さくらに予知夢を見るちからがあることを思い出して、小狼が言った。

 「わからない。でも、べつに怖い夢じゃなかったんだよ?不思議な感じはしたけれど」

 「以前に、おれが言ったことを覚えているか?」

 「ほえ?」

 キョトンとするさくらに、苛立たしげに小狼は続けた。

 「『怖いものが、いつもわかりやすく怖い顔をしているとは限らない』
 予知夢にあらわれるのは、たいていの場合、危険への警告だ。
 なのに、夢で見たのと同じものに無防備に近づくやつがあるか!」

 「………。」

 なにやら、じっと小狼を見つめるさくらに、とまどって問いかける。

 「なんだ…?」

 そのとたん、さくらは実に嬉しそうに微笑んだ。

 「ありがとう、心配してくれて」

 「な…な、なんでおれが、おまえの心配をしなきゃ、ならないんだ…!」

 うろたえ、かあああっと赤くなった小狼に、さくらは更に言った。

 「この前の≪矢(アロー)≫のカードさんのときも、危ないところを助けてもらったし。
  遊園地で、≪火(ファイアリー)≫のカードさんを捕まえたときもだね。
  いつも助けてくれて、ありがとう!」

 「だから、それは…」

 ……おまえが頼りないからだ!!

 そう言おうとした小狼だが、ニコニコしたさくらを前に、言葉は続かなかった。

 「もう…いい」

 いつも、思うことだ。

 ……なんだか、コイツと話していると、調子が狂う……。


    * * *


 「さくらちゃん!」

 連れ立ってバードストリートに戻ってきた二人に、さくらの親友・大道寺知世が
 駆け寄ってきた。

 「知世ちゃん」

 「どうなさったんですの?お怪我はありませんか」

 不安そうな顔に、さくらは笑顔で言った。

 「だいじょうぶだよ」

 それを横目で見る小狼に、苺鈴がさっそく飛びついてくる。

 「しゃおら〜ん!どこいってたのよぉ〜もお〜〜」

 『(せめて)人前ではくっつくな』と、何度口を酸っぱくして言っても、なおらない。

 「さくら!」

 その後ろから、さくらの兄・桃矢とあのひと…月城 雪兎もやってくる。

 「一人で、どこ行ってたんだ!?」

 厳しい声で言う兄に、さくらはしどろもどろに答える。

 「ごめんなさい、あの…えっと…水たまりに落ちちゃって、それで…」

 「ったく」

 ため息をつく桃矢の隣で、雪兎は苺鈴ともみ合っている小狼に気がついた。

 「あれぇ、こんにちは」

 「こ、こんにちは…」

  かあああぁ……。(/////)

 例によって、小狼はドギマギと顔を赤くしながら雪兎に挨拶を返した。

 「こんにちは♪」

 同じく挨拶を返す苺鈴の隙をつくようにして、ようやく腕をもぎ取ることには成功したのだが。

 「とりあえず、どこかで着替えないと…」

 服をぐっしょりと濡らしたさくらに、知世が心配そうに言う。

 「うん……くしゅっ!」

 震えはじめたさくらを見て、小狼は思わず尋ねた。

 「ホテルは?」

 帰って来た返事を聞いて、苺鈴が言った。

 「なら、私達の家の方がずっと近いわね!
  いいわ、来なさいよ。着替えくらい貸してあげるから」



                                        − つづく −


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 (初出01.5〜8 「友枝小学校へようこそ!」様は、既に閉鎖しておられます。)