− 3 − 細く入りくんだ路地裏を並んで歩きながら、さくらは友枝商店街の福引で 特賞の香港旅行が当ったこと。 父親が出張のため、代わりに雪兎を誘ったことなどをかいつまんで説明した。 自分の話が終ると、さくらは小狼に尋ねた。 「李くんは、どうしてあそこに?」 「冬休みに入ってから、香港にもどっていた。 今日は買い物に付き合わされて、そしたら、妙な気配がしたから…」 「あの、鳥さん…」 小さく呟いたさくらに、小狼は頷いた。 「ああ、普通の鳥じゃない。…何か、知っているのか?」 「ううん。…でも、夢で…」 「夢…。予知夢か?」 さくらに予知夢を見るちからがあることを思い出して、小狼が言った。 「わからない。でも、べつに怖い夢じゃなかったんだよ?不思議な感じはしたけれど」 「以前に、おれが言ったことを覚えているか?」 「ほえ?」 キョトンとするさくらに、苛立たしげに小狼は続けた。 「『怖いものが、いつもわかりやすく怖い顔をしているとは限らない』 予知夢にあらわれるのは、たいていの場合、危険への警告だ。 なのに、夢で見たのと同じものに無防備に近づくやつがあるか!」 「………。」 なにやら、じっと小狼を見つめるさくらに、とまどって問いかける。 「なんだ…?」 そのとたん、さくらは実に嬉しそうに微笑んだ。 「ありがとう、心配してくれて」 「な…な、なんでおれが、おまえの心配をしなきゃ、ならないんだ…!」 うろたえ、かあああっと赤くなった小狼に、さくらは更に言った。 「この前の≪矢(アロー)≫のカードさんのときも、危ないところを助けてもらったし。 遊園地で、≪火(ファイアリー)≫のカードさんを捕まえたときもだね。 いつも助けてくれて、ありがとう!」 「だから、それは…」 ……おまえが頼りないからだ!! そう言おうとした小狼だが、ニコニコしたさくらを前に、言葉は続かなかった。 「もう…いい」 いつも、思うことだ。 ……なんだか、コイツと話していると、調子が狂う……。 * * * 「さくらちゃん!」 連れ立ってバードストリートに戻ってきた二人に、さくらの親友・大道寺知世が 駆け寄ってきた。 「知世ちゃん」 「どうなさったんですの?お怪我はありませんか」 不安そうな顔に、さくらは笑顔で言った。 「だいじょうぶだよ」 それを横目で見る小狼に、苺鈴がさっそく飛びついてくる。 「しゃおら〜ん!どこいってたのよぉ〜もお〜〜」 『(せめて)人前ではくっつくな』と、何度口を酸っぱくして言っても、なおらない。 「さくら!」 その後ろから、さくらの兄・桃矢とあのひと…月城 雪兎もやってくる。 「一人で、どこ行ってたんだ!?」 厳しい声で言う兄に、さくらはしどろもどろに答える。 「ごめんなさい、あの…えっと…水たまりに落ちちゃって、それで…」 「ったく」 ため息をつく桃矢の隣で、雪兎は苺鈴ともみ合っている小狼に気がついた。 「あれぇ、こんにちは」 「こ、こんにちは…」 かあああぁ……。(/////) 例によって、小狼はドギマギと顔を赤くしながら雪兎に挨拶を返した。 「こんにちは♪」 同じく挨拶を返す苺鈴の隙をつくようにして、ようやく腕をもぎ取ることには成功したのだが。 「とりあえず、どこかで着替えないと…」 服をぐっしょりと濡らしたさくらに、知世が心配そうに言う。 「うん……くしゅっ!」 震えはじめたさくらを見て、小狼は思わず尋ねた。 「ホテルは?」 帰って来た返事を聞いて、苺鈴が言った。 「なら、私達の家の方がずっと近いわね! いいわ、来なさいよ。着替えくらい貸してあげるから」 − つづく − ≪TextTop≫ ≪Top≫ *************************************** (初出01.5〜8 「友枝小学校へようこそ!」様は、既に閉鎖しておられます。) |