ゆめのかよひじ 夢を、みた 泥のような闇が途切れて、視界が開ける 空は薄く雲がかかって、霧のような雨が降っていた おれは、死んだように冷たいさくらの身体を抱きしめている 目に映る世界が、狭かった 片目が見えないのだと、すぐに気づく 見える方の左目で、おれは腕の中のさくらだけを見つめる 李家のことも 一族のことも 過去も 未来もなく ただ、さくらのことだけを考えていられた 『あなたが、次元の魔女ですか!?』 目の前には、長い黒髪を高く結い上げた女(ひと) 強い魔力 月の気配 …どこか、香港の母上に似ていた 『世の中に偶然はない あるのは必然だけ』 おれの遠い先祖の血を引く魔術師と同じ言葉 『あなたの対価は、関係性』 相応の対価を払えば、どんな願いでもかなえてくれるという “次元の魔女”の伝説を聞いたことがある この世であって、この世でない どこでもなく、どこでもある 次元の狭間に住むという魔術師 『あなたにとって、一番大切なものは、その子との関係性。 だから、それをもらうわ』 『その子の中の、あなたに関する記憶だけは、決してもどらない』 ……ああ、同じだ おれの中で、“おれ”は思っている ≪最後の審判≫でも、≪無≫のカ−ドの封印の時も 要求されるのは、さくらの心 想い 記憶 たぐいまれな魂の一部 『あんな悲しいのは、絶対いやだよ…』 友枝小学校の校庭 うつむいていた、さくらの小さな声 雨の中を走り去る後姿 ……止めろ!!それは、さくらの大切なものだ。 差し出すのなら、おれの記憶を…!!! おれの中で、“おれ”は叫ぶ けれど、その声は届かず夢の中のおれはうなづいた 『何があっても、何をしても。絶対に死なせない。 例え、さくらがおれを忘れても……』 やがて、閉じていた瞼が開いて、翠色の眸がおれを映す 『………あなた、だあれ?』 * * * 妙な夢をみたと思った ……嫌な夢を、みたと思った けれど、その朝にさくらは言った 「夢を、みたの」 楽しそうに、嬉しそうに話すさくらの夢は おそらく、おれの見た夢の少し前の時間 「わたしと小狼くん、幼なじみだったの!!」 前を歩いていたさくらが、くるりと振り返る 肩まで伸びた髪が、ふわりと踊った 昔のままの長さの髪のさくらが、その向こうに見える 『絶対、言うから。待っててね』 『その子は、あなたにとってなに?』 『幼なじみで、今いる国のお姫様で。 おれの…、おれの大切な人です』 予知夢ではなく 過去夢でもない ただの夢 それでも 魔力を持つ者が、同じ夢をみる≪偶然≫はない ……だと、したら 振り向いたさくらが、おれの目を覗き込む 知るはずのない小さなさくらの笑顔が、左の目にだけ見える 「こっちの世界の小狼くんみたいに『おれもだ』って、言ってくれるかな?」 油断した隙に、不意打ちを食らった 顔が赤くなる癖は、まだ完全には直っていない 特に、さくらの前では 「お顔が、真っ赤だよ?」 してやった、と笑うさくらに言ってやろうか そっちこそ ……あの時、なんて言ったか覚えてるか? 「もちろん!!」 さくらが、笑う 華が 咲くように 花びらが こぼれるように いつかの、どこかの世界に居る“おれ” 同じ誓いを守ってくれ そして、届くなら あのときの声を 『この気持ちが無くなっても…。おれ、またさくらのことを』 『わたしのこと、何とも思ってなくてもいい。 わたしは、小狼くんが好き!!わたしの一番は、小狼くんだよ!!!』 − 終 − ≪TextTop≫ ≪Top≫ *************************************** 「ツバサ」と「CCさくら」の接点・その2。 「劇場版2・封印されたカ−ド」を久々にじっくりと観賞。 「ツバサ」の二人って、「劇場版2」ラスト近くの二人と立場が逆で面白いです。 発案がここから来ているのかどうかは存じませんが…。 ちなみに小狼くん、夢の中で左右に居たハズの白と黒の兄ちゃん達のことは、どーでも いいらしいです。(汗) |