さくらと一番の贈り物



12月に入り、街にはクリスマスの飾りつけが目立ちはじめた。
ドアの前にリース。窓から覗くツリー。
商店街の街路樹には、電飾とモールが掛けられた。
もうじき夜になると、綺麗な明かりが灯されるだろう。

『ぴよ』ではクリスマス・ケーキの予約を受け付けているし
『ツイン・ベル』もホワイトスプレーで雪やトナカイを描いたショーウィンドゥの向こうに
クリスマス向けの品を揃え、学校帰りの女の子たちを迎えてくれる。

いやが上にも高まるクリスマス気分。
それとともに少女の悩みも深まっていた。


   * * *


「…前はマフラー編んだから、今度は手袋か帽子…。
 はうぅ〜だめだあ、香港はあったかいんだったよ〜」

日曜の午後。さくらは今日何度目かのため息をついた。
小狼へのクリスマス・プレゼントを考えているのだが、なかなか思い浮かばない。
クリスマスに間に合うよう香港へ送るには、もうあまり日がない。
ましてや、手作りにするなら自分のことだ。すぐにでも、とりかからねば。

考え疲れてベッドに転がったさくらは、枕元のぬいぐるみを手に取ると、その黒い丸い
目と視線を合わせて尋ねた。

「ねえ、どうしたらいいと思う?≪しゃおらん≫くん」

それは今年の3月、香港へ戻る小狼から別れ際に贈られたくまのぬいぐるみだった。
さくらの部屋には、そのほかにも買ったものやプレゼントされたものなど色々なぬいぐ
るみが飾られているが、その小さなグレーのくまはトクベツなお気に入りだ。
それは本当に良く出来た手作りの品で、明らかに小狼の方がさくらよりも手先が器用で
あることを物語っていた。

「…小狼くんは何でも上手にできるから、わたしの作ったものなんて、ちょっと恥ずか
 しいよね…。
 でも、やっぱり手作りがいいかなあ…。何にしたら喜んでくれるかなあ…」
 
「そんなん決まっとる、くいもんや〜!何か作って送ったれ!!
 ついでにわいの分も作ってくれ〜!!!」
 
今まで、ポテトチップを頬ばりながらさくらの苦悩を眺めていたケロが、ここぞとばか
りに主張する。
見た目はさくらの部屋の中のぬいぐるみの一つにしか見えないが、これでも一応、さく
らの守護獣なのだ。

「もうっ、ケロちゃんじゃないでしょ?
 それに食べ物じゃ、食べたらそれでなくなっちゃうじゃない。そうじゃなくて…」


    いつも小狼くんと一緒にいられるものがいい
    ずっと小狼くんに使ってもらえるものがいい
    小狼くんがそれを見たら、わたしのことを思い出してくれるものがいい


言葉をとぎらせ、頬をピンクに染めたさくらに気づいているのかいないのか、ケロは
再びポテトチップに手を伸ばしながら言った。

「そやけど、さくら。なんでそんなに小僧にばっかりモノやるねん?
 前は徹夜でマフラー編んどったし、夏は夏で小僧が帰る前に、また、くまのぬいぐる
 み作っとったやろ?あんまり甘い顔すんのはよ〜ないで〜」
 
ケロの言葉に、ぼぼっとさくらの顔が赤くなった。 
ようやく小狼に想いを告げ、晴れて≪両想い≫となれた今年の夏休み。
予定を一週間延ばして日本に滞在してくれた小狼が、いよいよ香港へ帰るその日。
空港での見送りで、さくらは手作りのくまのぬいぐるみを渡したのだ。
春にもらったくまの、お返しだった。小狼は驚いた顔をしたが、はにかんだ笑顔で
それを受け取ってくれた…。

「…そんなら、またぬいぐるみ作ったらどうや?小僧えらい喜んどったやないか。
 なんやったら、わいがモデルになってもええで〜」
 
ポテトチップの袋をカラにしたケロは、ふわふわとさくらの目の前に浮かぶと、あれこ
れポーズをとってみせた。封印の獣には、乙女心は理解できないらしい。

「あのくまさんはトクベツだったの!普通、男の子はぬいぐるみなんて喜ばないよ〜」

小狼によってその場で≪さくら≫と名づけられたくまは、香港の彼の部屋に大切に飾ら
れているという。
しかし、目ざとい姉達に見つけられ、その由来まで言い当てられ…かなり、からかわれ
ていたそうだ。

これらの話は、知世を通しての苺鈴からのメールで知ったことであった。
背中に白い羽根の生えたピンクのくまは、殺風景な小狼の部屋の中で
『ものすご〜く浮いてる』
存在らしい。
それでも大事に飾ってくれているのが嬉しく、また申し訳なくもあるのだ。

………せめて、ピンクはやめておけばよかったよ〜。

だから今度は、もっともっと素敵なプレゼントをと思うのだが、さてそれでは何が一番
喜ばれるのかと考えると、またため息をつくばかりのさくらであった。


   * * *


一日悩んだ挙句、翌日の月曜日にさくらは知世に頼みごとをした。
メールで苺鈴に尋ねてもらったのだ。

『小狼くん、欲しがっているものある?
 今、必要なもので、プレゼントしたら喜んでもらえそうなもの、何か知らない?』
 
返事はすぐに返ってきた。さくら宛てのメッセージをプリントアウトしたものが、知世
から手渡されたのは水曜日。

『前にも言ったじゃない。相手に嫌われてるんでなければ、何を贈ったって大丈夫よ。
 手作りでも、お店で一生懸命選んだものでも、心がこもってればね。
 まして小狼なら、木之本さんからのプレゼントを喜ばないはずないじゃない!
 それにしても、あなたたちってホント、お似合いだわ』
 
読みながら、さくらは四年生のクリスマスの時にも雪兎へのプレゼントに悩み、苺鈴に
相談したことを思い出した。
あれからニ年。あの頃は小狼へのプレゼントに同じように悩む日がくるなんて考えもし
なかった。
…でも。

「わたしと小狼くんがお似合いって、どういうイミだろ?」

首をひねるさくらに、知世はただ優しい微笑を浮かべるだけだった。
実は、ほぼ時を同じくして、苺鈴を通して小狼も知世に尋ねてきたのだ。

『さくらは今、何を欲しがっているのか?何を贈れば喜ぶのか?』

その問いに対する知世の答えも、苺鈴とほとんど同じものだった。
知世と苺鈴の間のメールが暫しその話題で盛りあがっていたことを、当の二人は知る
由もなかった。


    わかってる
    何を贈っても、喜んで受け取ってくれる
    心から『ありがとう』って言ってもらえる
    でも、だから…
    いちばん嬉しいっていうプレゼントにしたいの


   * * *


土曜日。
さくらは知世と一緒に買い物に出かけた。
知世は園美の、さくらは藤隆と桃矢と雪兎と、そして小狼へのプレゼントを選ぶために
である。
結局、手作りは諦めた。あまり手芸は得意ではないし、日常的に使うものはかえって
ごまかしが利かない。
幸い今月は、おこづかいに余裕がある。

藤隆へのプレゼントは眼鏡立て。
木製だが内側に柔らかな布が張ってあり、撫子の花の模様が入っているのが気に入った。
桃矢と雪兎へは、同じデザインで色違いの手袋。
桃矢はココアブラウンで、雪兎は綺麗なグレーだ。
知世はちょっと風変わりな柄の洒落たスカーフを園美へのプレゼントに選んだ。
それから二人で相談し、明日の日曜日、午後からさくらの家でフルーツケーキを作り、
雨宮のひいおじいさんに二人からのプレゼントとして贈ることにした。
クリスマスまで一週間ちょっとあるが、洋酒をきかせたそのケーキは、少し寝かせた
ほうが美味しいそうだ。

「ちょうど今夜、20世紀の最後を飾るさくらちゃんのクリスマス・コスチュームが仕上
 がりますの。明日、持っていきますから、ぜひぜひ試着して下さいな」
 
瞳をキラキラさせて言う知世に、さくらは照れ笑いと苦笑いを足して二で割ったような
あいまいな笑顔でうなずくしかない。
ケーキ作りの材料や、出来上がったケーキを入れるための箱も買った。それから、カー
ドと包装紙とリボン。
これで残るは、小狼へのプレゼントだけとなってしまった。


友枝町のあちこちのお店を見て回り、結局さくらと知世は『ツイン・ベル』を訪れた。
ここは女の子向けのファンシーショップで、男の子のプレゼントに相応しいものがある
とも思えないのだが。

「いらっしゃい、さくらちゃん。知世ちゃん」

店長の松本 真樹は、にっこりと微笑んで二人を迎えた。
いつものエプロンドレスの胸元には、クリスマス風に柊のブローチを付けている。
ちょうど他にお客がいないこともあり、彼女はさくらと知世のために小さなテーブルの
上に温かい紅茶を出してくれた。

「今日は、お友達へのクリスマス・プレゼントのお買い物かしら?」

椅子の横に置かれた紙袋の中のいくつもの包みを見て、真樹は尋ねた。

「はい…ええっと、その…」

なぜかうろたえるさくらを見て、真樹は悪戯っぽく笑いながら言った。

「もしかして、ボーイフレンドへのプレゼントかな?」

「ほええっ!?…いえ、あの…」

リンゴのように真っ赤になったさくらは、全身で真樹の言葉を肯定してしまう。

「あら、ホントにそうだったの?やっぱりお相手は『なでしこ祭』の劇の王子様役の子?」

「ええ、そうなんですの。ね、さくらちゃん」

さくらが口をひらく前に、知世があっさりと答えてしまった。
ね、と同意を求められても、さくらはますます完熟状態になるばかりである。
友枝町を上げてのお祭りで演じた劇なのだから当然といえば当然なのだが、
あれ以来、さくらはちょっとしたご町内の有名人なのだ。

「そうね…うちは女の子向けの品物が多いけど、かえってそういう可愛らしいものの方が
 さくらちゃんらしくて、その子も嬉しいかもしれないわね。
 あ、でも今は、こんなものも置いているのよ」
 
営業意欲に目覚めたのか、はたまた可愛いカップルを応援しようという善意なのか。
真樹は店内を見まわすといくつかの品を手に取り、テーブルにもどってきた。

「もうじきクリスマスだから、友枝小学校の子達もお父さんやお兄さんのプレゼントを
 選ぶでしょう?だから、ほら…」
 
真樹が持ってきたのは、普段の『ツイン・ベル』では見かけないような皮製品の数々であ
った。シンプルでしっかりとした作りだが、値段はさほど高くはない。
色もとりどりで、黒や茶のほかにも落ちついた色合いの赤、青、緑、黄…とそろっている。

「そうね、たとえばこれは…お財布なんだけど、ここがこうなっていて、写真とかが入
 るのよ。これは手帳で、こっちはパスケース。
 本が好きな子なら、ブックカバーもあるわ。文庫版と新書版ね。
 カラーも色々あるけれど、その子は何色が好きなのかしら?」
 
「…えっ…?」

にこにこと微笑みながら尋ねる真樹に、さくらは答えを返すことが出来なかった。

………わたし…?

かあっと、顔が熱くなった。
今までの、すごく照れてしまうけど、でもちょっと嬉しい恥ずかしさではなく、居たた
まれないような、身の置き所がないような恥ずかしさだった。

「…あの、わたし……今日は帰ります。ごめんなさい…ごちそうさまでした!」

「「さくらちゃん!?」」

 真樹と知世の呼ぶ声を振り切るように、さくらは店の外へ飛び出した。
 店の名前でもある二つのベルが、ちりんちりんと大きな音を立てていた。


     小狼くんは、何が好きなんだろう?
     色は何色が好き?
     前に編んだマフラーを緑にしたのは、きっと小狼くんに似合うと思ったから

     …わたしが勝手にそう思っただけで、小狼くんが好きな色かどうかなんて
     考えもしなかった

     いつも、何をしているんだろう?
     本を読んだり?…でも、どんな本を?
     ゲームをしたりする?TVを見たりする?

     わたし、なんにも知らないよ。小狼くんのこと
     好きなもののことも。嫌いなもののことも
     小狼くんはわたしのこと、とってもよく知ってくれているのに
     それはわたしのこと、ずっと見ていてくれて
     気に留めていてくれたからなんだ
     でも、わたしは…

     何にも気づかずにただ、あたりまえみたいに
     一緒にいただけなんだ…


   * * *


どこをどう走ったのか。
気がついた時、さくらは小狼が住んでいたマンションの前に来ていた。
小狼が住んでいた頃、ここを訪れたのだって数えるほどだ。
そのドアは今では固く閉ざされたまま、表札もない。


     どうして小狼くんが日本にいたときに
     もっと小狼くんのことを知ろうとしなかったの?
     このドアの向こうで、どんなふうに過ごしていたの?

     わたしがもっと早く気づいてれば、小狼くんのことを知る時間は
     いっぱいあったはずなのに…


こんなこと、泣くようなことじゃないと、さくらは考えようとする。
知らなければ、尋ねればいい。
手紙でも、電話でも、すぐに返事は返ってくる。
けれど。
…今、会って尋ねることは出来ない…。

「…会いたいよぅ…」

声が、もれた。
この冬は、会えない。香港の学校の冬休みは、日本ほど長くはないから。
小狼が苺鈴と一緒に通っているのは、香港でも有名な私立の進学校。
成績は良かったとはいえ、二年近く日本にいた小狼がその授業についていくのは大変
なのだと、そっと苺鈴が教えてくれた。
それも、武術や魔術の修行も今まで以上にこなしながら、である。

小狼は何も言わないが、さくらには彼がものすごく頑張っているのがわかる。
それが、何のための頑張りなのかも。

かといって普通の家の子であるさくらには、香港は気軽に訪れることのできる
場所ではない。
だからせめて、クリスマス・プレゼントを送ろうと思った。
会いには行けないお互いの元へ。
でもそれは、何を贈ろうと何を贈られようと、≪代わり≫にはならない。

少しの間、さくらは冷たいドアに額を押しあてたまま、声を殺して泣いていた。


   * * *


夕暮れの中、さくらはとぼとぼと家路についた。
泣いたことで、つらい気持ちは少し楽になったが、今度は激しい落ち込みに
肩を落としている。

………帰ったら、知世ちゃんに電話して謝らなきゃ。
     それに明日は、真樹さんにも謝りに行って…。
     はうぅ〜。お店にお父さんたちへのプレゼントとケーキの材料、忘れて
     きちゃったよ〜。

自分のまぬけさにため息をつきながら家まで戻ると、そこには黒い自動車の傍らに
立つ小さな人影があった。

「知世ちゃん…?」

「さくらちゃん!」

ほっとした知世の顔を見て、さくらは慌てて謝った。

「ごめんね、知世ちゃん。勝手にどっかへ行っちゃって…!
 あ、あのね、わたし…」

知世はさくらの言葉をそっと遮るように、いつもの微笑を浮かべて言った。

「…さくらちゃん、李君へのプレゼントですけれど…。
 さくらちゃんが今、一番に願っていることは何でしょうか?それを考えてみて下さい。
 きっと李君も同じお気持ちだと思いますわ…」
 
………だってお二人は、とってもよく似ておいでですもの…。

そして、さくらの忘れていった紙袋を差し出した。

「それでは、また明日」


その夜、さくらは考えた。小狼のこと。知世の言葉。
自分の、いちばんの願い…。

………そうだ…!

時計の針が真上で二つ重なる頃、さくらは唇に笑みを浮かべ安らかな眠りについていた。


   * * *


翌日、さくらは午後に知世が来る前にと、開店時間になったばかりの『ツイン・ベル』
を訪れた。
昨日、急に帰ってしまったことを謝ると、真樹はいつもの穏やかな顔で
『気にしていないから、いいのよ』と応え、さくらを安心させてくれた。
彼女はさくらの≪王子様≫が遠く離れた香港にいることをあの後知世から聞いていたの
だが、それについては何も触れなかった。

一番好きな人に会えないつらさは、婚約者を亡くした彼女にはよく判る。
まだこんなに小さい女の子が、そのつらさに耐えようとしているのが無性にいとおしく
感じられた。
そして、今は。昔の自分の想いすらもいとおしく感じられることが、嬉しかった。


     時は、優しい
     苦しみや悲しみや痛みだけを、そうっと包んでくれるから
     そして、きらきらした思い出だけを、無数に残してくれるから

     この少女にも、いつかそんな日が来るだろう
     今、この一瞬をさえ、眩しく思い出せる日が

     …その日に、あの少年が少女の隣にいることを、彼女は願った


真樹はにっこり微笑んで、恋する少女にあらためて尋ねる。

「それで、プレゼントは決まったのかしら?」

さくらは元気に答えた。

「はい!」

やがて少女は軽やかにベルを鳴らして、ケーキ作りの材料の追加分を買うために、冬の
街へと駆け出していった。


   * * *


クリスマス。
日本から香港に届いた箱の中には、リボンをかけられた二つの包み。そのうちの小さい
方を開けてみると、入っていたのはビデオテープ。
小狼はそれを再生してみた。

『小狼くん、こんにちは。
 あのね、小狼くんへのプレゼント、何にすればいいかわからなくてずっと考えてたの。
 そしたらね、知世ちゃんが、わたしが今、いちばんに願っていることがきっと小狼くん
 と同じだって言ってくれたの。
 わたしが今、いちばん願っていることは、小狼くんに会いたいっていうこと。
 だから、小狼くんも同じ気持ちでいてくれたらいいなあって思って、それで、知世
 ちゃんからビデオを借りて、写しています。
 あ、でもでも、これだけじゃやっぱりプレゼントには淋しいから、いっしょにケーキも
 送りました。知世ちゃんに教えてもらって、一人で作ったの。
 ドライフルーツがいっぱい入っていて、おいしいの!
 でもね、練習に作ったときは、中に入れたお酒のアルコールがうまくとんでなくて、
 ケロちゃん酔っ払っちゃって大変だったんだよ。
 小狼くんに送ったのは、ちゃんと上手にできてるから、安心して食べて下さい。
 知世ちゃんに教わりながら一緒に作ったケーキは、わたしと知世ちゃんのひいおじい
 さんに送ったの。
 あっ、ひいおじいさんっていうのは、お母さんのおじいさんで……』

画面のさくらは、ふちにぐるりと綿雪のような白いボアのついた赤いワンピースを着て
いた。
明らかにサンタクロースをイメージした、知世の新作であろう。
長袖のシャツ一枚で過ごす小狼は、まだまだ続くさくらのお喋りに少し顔を赤らめ、
時折思わず吹き出しながらもじっと画面に見入っていた。

必要最小限のものしかない、簡素というよりむしろ殺風景な小狼の部屋。
だが教科書や参考書が並んだ机の上には、白い羽根を持ったピンクのくまのぬいぐるみ
と、赤いリボンのかかった小さな包みがのっている。

小狼は、さくらへのクリスマス・プレゼントを日本へ送らなかった。
その日、さくらの元へ届いたのは、封筒の中の一枚のカード。


『さくらへ
 クリスマス休暇には日本へ行けなかったけれど、来年は新世紀だから式典とかで学校
 が数日分長く休みになることになった。
 そっちの大晦日から2日まで、日本へ行ける。(姉上がこっそり教えてくれたけど、
 日本までの往復のチケットが家族からおれへのクリスマス・プレゼントだそうだ。)
 だからさくらへのクリスマス・プレゼントは、遅れるけれど会えた時に渡したい。
 (大した物じゃないから、あまり期待するな。)
 会えるのを楽しみにしている…』


さくらは微笑みながら、声を出してカードを読み上げていた。
海を隔てて同じ声が、同じ言葉を告げる。
聖なる日の、祝福の言葉。


   ……Merry Christmas……!


                                   − 終 −


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投稿としては四本目だったのですが、やっとさくらちゃんメインのお話になりました。
そして、「ツイン・ベル」の真樹さん。
TV版第5話「さくらとパンダとかわいいお店」の後も時々ちょい役で登場する店長さんの
おっとりした雰囲気が、とても好きです。
ところで私はこのお話を書いていて、やっと気づきました。
自分が“遠恋フェチ”だということに…。(汗)

(初出00.12 「友枝小学校へようこそ!」様は、既に閉鎖しておられます。)