再演版・悲しい恋 |
− 13 − カーテンコール やがて、幕が再び上がった。 舞台衣装のままの出演者と裏方さん達。 衣装係(兼記録係)の知世も含め、6年2組の全員+小狼・苺鈴・エリオルが、ずらりと並んで 客席におじぎする。 場内総立ち。 最前列では、押し寄せるファンと、サングラスのお姉様方との壮絶なバトルが繰り広げられて いたりなんかする。 拍手喝采の中、幕は降りたものの、拍手は鳴り止まない。 カーテンコールである。 一旦引き上げた生徒達が、もう一度並んで幕を上げ、客席の喝采を浴びる。 さらにまた、もう一度…。 それでも、拍手は鳴り止まない。手拍子となって、生徒達を呼んでいる。 「ま、まだやるのか…?」 「弱ったな、次の演目もあるのに…」 疲れ果てた小狼と、弱り果てた寺田先生。 「次は主役のお二人だけでご挨拶なさったら、いかがでしょう? 大勢で出ると時間もかかりますし…」 エリオルが助け舟を出す。 「そうだな。じゃあ木之本、李、頼むな」 「…はあ…」 うんざりした表情の小狼。 その時、奈緒子ちゃんの顔が輝いた。 「お客さんたちが納得する、いい方法があるよ〜!」 「ほんと?奈緒子ちゃん」 小狼ほど露骨ではないが、やはりさくらも疲れているようだ。 期待を込めた瞳で、奈緒子ちゃんを見つめている。 「うん。ちょっと李君、耳かして。あのね……」 ごしょごしょと耳打ちされると、小狼は不信そうに言った。 「本当にそんなので、もう舞台に引っ張り出されなくなるのか?」 「うん、ぜったいバッチリだよ!じゃあね、よろしく〜〜♪」 ひらひらと手を振りながら、奈緒子ちゃんは二人を送り出した。 「ほえ?奈緒子ちゃん、なんて言ったの??」 「…いいから、早くすませよう…」 さくらを促し、舞台に向かう小狼。 それを見送りながら知世が尋ねた。 「奈緒子ちゃん、何をおっしゃったんですか?」 「うふふふ〜。知世ちゃん、いい絵、撮らせてあげるね」 にんまりと笑う奈緒子ちゃんに、苺鈴はつぶやいた。 「…柳沢さんってホント、私が今まで思っていたイメージと違うわ…」 四度目のカーテンコール。 主役二人のみの登場に、わく客席。 そして…。 いいわけを、しておこう。 小狼は、とにかく疲れていた。 人前に出るのは苦手だし、騒がれてもどうしていいか、わからない。 早く、終りにしたかった。 これは劇で、自分ではない誰かなのだという感覚も、残っていた。 また、根が素直な彼は、奈緒子ちゃんの言葉を深く考えもせず、真に受けた。 そういう色々なことが重なって、小狼は普段の彼ならば、けっしてとらない行動をとった。 どよめく観客席。そして、舞台裏。 「やったあ♪」 「うっそお、小狼が〜!?」 「超絶ですわあああぁ〜〜〜!♪!♪!♪!」 「彼も、なかなかやりますね」 「ちょっとぉ!?」 「おやおや(ニコニコ)」 「きゃっ、カッワイイ〜〜♪」 「#&%Ω#@$*#〜〜〜!!!!!!」 「あはは。さくらちゃん、真っ赤だね」 王子は、姫の前に跪き、その手にキスをしたのでありました。 …めでたしめでたし… |
− 14 − 後日談 園美さんの指示により≪大道寺家私設警備隊・記録チーム≫が撮影し、知世が舞台稽古や 舞台裏風景を入れて編集したビデオは、さくらの切実な≪お願い≫により6年2組の生徒と 寺田先生及び小狼・苺鈴・エリオルの三人のみへの無料配布となった。 もっとも、各家庭からダビングが出回り、結局は大道寺母娘の≪友枝町の一家に一本計画≫は、 ほぼ達成されるのであるが。 それらのビデオが、遠くイギリスで、そして香港で。 ティータイムに楽しく鑑賞されたことは、言うまでもない。 そうそう。 差し入れのバスケットをカラにして逃亡したケロとスピネルが、それぞれの主からきつ〜く お叱りを受けたことも、付け加えておこう。 その後、「悲しい恋」は「シンデレラ」や「眠れる森の美女」等の名作と並んで、友枝町の各学校 (友枝小学校・友枝中学校・星條高校)の学芸会や文化祭での定番の出し物の一つとなった。 もっとも、ラストシーンでの≪魔法の石≫出現の場面は、それぞれの演出担当者の頭の 悩ませどころとなったのであるが。 それでも人気は衰えず、劇中で姫と王子を演じたカップルは、 『例えどんな障害があろうとも、必ず結ばれる』 という伝説さえ生まれたのである。 「まあっ、それではさくらちゃんと李君は、友枝町の伝説となられたのですね!」 「ほっ、ほええぇ〜〜(/////)」 「…なんで、生きているうちから≪伝説≫になるんだ…?(/////)」 これは、あれから数年後。 日本に戻った小狼と、共に友枝中学に通うさくらと知世のある日の会話である。 尚、更に数年を経て、星條高校の生徒となった二人は文化祭で再び「悲しい恋」を演じる ことになる。 むろん、いくつかの演出上の変更が加えられた。 ≪星條の伝統≫にのっとって…。 もう、気づいた方もいらっしゃるだろう。 TVアニメ第14話「さくらと桃矢とシンデレラ」を思い出していただきたい。 「さくらちゃん、凛々しいですわ〜〜!!」 「そ、そうかな?でも、小狼くんも似合ってるよ! ものすごく綺麗なんだもん、びっくりしちゃった〜〜」 「似合ってない!!だいたい、なんでおれが≪姫≫なんだ!?(/////)」 「それは仕方がないよ、李君。≪伝統≫なんだから。 そうそう、≪伝統≫っていうのはね〜」 と、いつもの調子でしゃべり出したのは、ハートの侍女役の山崎君。 「はいはい、ウソはいいからね〜〜」 と、いつものように待ったをかけるのは、家臣役の千春ちゃん。 そう、文化祭における≪星條の伝統≫とは≪男女の配役が逆になった劇≫なのである。 ……だが、それはまた、別のお話である…… − おわり − − もどる − ≪TextTop≫ ≪Top≫ |
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