長 靴 クリスマス・イブ …の3日前に、例によって事件現場で笹塚さんに会った。 謎解き(しょくじ)を済ませたネウロが明後日を向いてる隙に、こんなこともあろうかと カバンに入れて持ち歩いてた包みを渡す。 「ちょっと早いけど、クリスマス・プレゼントです!」 今年は“カノジョ”として渡すワケだから、おつまみとカイロなんかじゃない。 学食のカツカレ−を減らしたり、学校帰りの若菜のたこ焼きを我慢して お小遣いを貯めて奮発した、カシミアのマフラ−。 だって12月になっても、くたびれたス−ツの上にコ−トを一枚羽織っただけで。 ネクタイは相変わらず緩んでて、シャツの第一ボタンも外したまんま。 見てるだけで首周りが寒そうなんだもん。 実は、わたしが愛用してるマフラ−と色違いのお揃いだったりもする。 「……あ−、サンキュ」 プレゼントを受け取った笹塚さんは、いつもどおりの低いテンション。 喜んでくれてるのか、いないのか。わかりにくくて、ちょっとガッカリ …する寸前に、言ってくれた。 「ごめん、まだプレゼント用意してね−んだ。 弥子ちゃん、何が欲しいのかわかんなくて。 ………リクエスト、聞いていい?」 気にしてくれてたんだ…!! それだけで、頭の中では天使達がクリスマス・ソングを歌って飛び回る。 我ながら、単純。 へにゃへにゃになりそうな顔を何とか保って、元気良く返事をする。 「や、い−ですよぉ!! いっつもご飯、おごってもらってばっかりだし」 「………………。」 あれ?なんか不満そうな…。 こういう時って、可愛く甘えてオネダリとかした方が良かったのかな? 叶絵なら、やりそうだけど。 男の人とお付き合いするのって初めてだから、どうも勝手がわからない。 でも、ご飯食べに連れてってもらうと、バイキングとかじゃない限り笹塚さんのお財布からは 福沢諭吉さんが何人も飛んでってしまうから。 アクセサリ−とか、バッグとか。そ−いう高そうなモノをねだるのは、ちょっと…。 「えっと…。あ!じゃあ、アレが欲しいです。サンタさんのブ−ツ!!」 「………サンタ?」 ちょっと首を傾げてオウム返しするのが、なんか可愛い。 15歳も年上の男の人に失礼なことを思いながら、説明する。 「ホラ、この季節になると良く売ってるじゃないですか。 ブ−ツ型の入れ物に、お菓子がいっぱい詰まってるの。 あれの大きいのが欲しいです」 それなら野口英世さんが2、3人だろうし。 クリスマスっぽいし、美味しいし。ちょうどいいよね? 笹塚さんは黙ってわたしを見ていたけれど、最後に小さく頷いた。 「………了解」 * * * クリスマス・イブの笹塚さんは、当然のようにお仕事だ。 年末は特に忙しくて、お休みなんかとれない。 もしかして、もしかしたら。 また事件があって、偶然会えたりしないかなって思ったりもしたけれど。 そう都合良くはいかない。 …いやいやいや!! ネウロには悪いけど、事件なんて起こらないに越したことはないんだから。 平和な一日に感謝しなけりゃね。 特に依頼もなかったから、事務所で冬休みの課題をして時間を潰す。 それと、あかねちゃんにはいつもよりワンランク上のトリ−トメントをプレゼント。 ネウロには、推理モノのゲ−ムソフト。 『くだらん』とか言いつつ、今日のDVがちょっぴり手ぬるかったところを見ると 気に入ってくれたのかも。 そんなこんなで事務所にいた間は気が紛れたけど、家に帰ると思わず溜息。 お母さんは仕事関係のパ−ティ−だし、美和子さんもお休み。友達はカレシと過ごす。 本日の定番ソング ♪ ひとりきりのクリスマス・イ〜ブ ♪ だ。 忙しいだろうから電話とまでは言わないけど、メ−ルぐらいはして欲しいなぁ…。 わたしからメ−ルすれば、きっと返信はしてくれる。 でも、そういうんじゃなくて…とか。思うのはワガママかなぁ…。 携帯を手にぐるぐる悩んでいるうちに、あと20分で今年のイブも終わり。 笹塚さんと付き合う限り、毎年こんなイブなのかなぁ…。 …って、考えが暗い方にいっちゃって、慌てて頭を振る。 やめやめッ!! 何たって、明日はクリスマス。美和子さんが焼くチキンは絶品だ。 さらに、明後日は売れ残りのケ−キが大安売り。今年は何ホ−ル食べようかな〜? 考えただけでヨダレが止まらない…、じゅるり。 よし、元気出てきたァ!! 明日のためにも早目に寝よう…と、思ったところで携帯が鳴った。 着メロを変えてるから、見なくてもわかる。 3コ−ル目が鳴り終わる前に飛びついた。 〔弥子ちゃん…、まだ起きてた?〕 笹塚さん…ッ!! 声だけで、涙が滲んで目の前がぼやける。 泣きそうな自分を励まして、元気良く返事をした。 「はっ、はいッ!!もう余裕ですッ!!」 〔……ん。じゃあクリスマス・プレゼント、置いとくから〕 笹塚さんは相変わらず淡々と、マイペ−スで話を続ける。 …って、プレゼント置いとくって…? 「え?笹塚さん、今どこに…」 〔弥子ちゃんちの、前〕 なんですとッ!? テンションが一気に振り切れる。 「さ、笹塚さん、10分…。いや5分、待ってッ!!」 パジャマにボサボサの頭をした今の自分は、とてもじゃないけどお見せできません。 でも、厚化粧するワケじゃないから5分あれば何とか…、いや出来ればやっぱり10分!! 〔ごめん、まだ仕事中だから…。また、ね〕 「ええええっ!?ちょっと、ま……」 ……切られた。 慌てて窓に張り付くと、家の前には見慣れた覆面パトカ−。 助手席のドアを開ける人影。 携帯を放り出したわたしは、転がり落ちる勢いで階段を降りて玄関のドアを開ける。 「笹塚さんッ!!」 車はとうに走り去って、ドアの前には赤いブ−ツが片方、置いてあった。 * * * ベッドの上で、クリスマス・プレゼントを膝に乗せたわたしは、複雑な心境だ。 お菓子の詰まった大きなブ−ツは、そりゃ嬉しいけど。 ありがとうも言えなかったし、顔だってロクに見えなかった。イブなのに…。 …だから、暗い方に考えちゃダメなんだってば!! 仕事中、イブに間に合うようにウチまでプレゼントを届けに来てくれた。 赤い衣装の代わりに、くたびれたス−ツとコ−トを着たサンタさん。 本日の定番ソング ♪ 恋人がサンタクロ〜ス ♪ まんまじゃん。 マフラ−、してくれてたのだって、チラッとだけど窓から見えたし。 よぉし、復活ッ!! お菓子食べて、ソリの代わりに覆面パトカ−に乗ったサンタさんに、お礼メ−ルしよっと。 さて、何が入ってるのかな〜? 赤いリボンを解いてセロハンを剥がし、手を突っ込んだ。 ……って、え…? 中から出てきたのは、色とりどりの。 携帯がメールの着信を知らせる。 『 From 笹塚衛士 Sub サンタより 弥子ちゃんに似合いそうなものを選んでみた。 気に入らなかったら捨てて。 あと、元の中身は郵便受の中。』 キャンディ−みたいなマニキュアの小瓶。 ジェリ−みたいなグロスのスティック。 綿菓子みたいなファ−がついたアンゴラの手袋と、お揃いの帽子。 チョコレ−ト色の小箱の中には、雪の結晶をデザインしたブロ−チ。 ケ−キを飾る生クリ−ムの薔薇みたいな、シフォンのスカ−フ。 手のひらに乗る大きさのスノ−ド−ムの中では、クリスマス・ツリ−と雪だるまの上に 粉砂糖みたいな雪が踊る。 底に付いたネジを回すと、オルゴ−ルのクリスマス・ソングが流れた。 一番底にあったのは、封筒に入った映画のチケット。 前にTVで予告編が流れてて、わたしが見たいって言った…。 指定席の日付は、笹塚さんの次のお休みの予定日だ。 ベッドの上に拡げたブ−ツの中身とメ−ルの文面を、何度も何度も見比べる。 これを、あの笹塚さんが。 どんな顔して選んで、レジでお金払って、ブ−ツに詰めなおして。 淡々と無表情に、だろうな−と思うと可笑しくて、笑いながら郵便受を見に行った。 コンビニ袋が突っ込んであって、中には一杯のお菓子。 色とりどりのキャンディ−や、チョコレ−トや、クッキ−や。 口いっぱいに頬張りながら、ああ見えて実は悪戯好きなサンタさんへの返信を考える。 『 To 笹塚衛士 Sub サンタさんへ たくさんの素敵なプレゼントをありがとう。 風邪ひかないように、マフラ−は首にかけるんじゃなくて しっかり巻いてくださいね。 大好きです。』 でも、一つだけ学んだことがある。 ちゃんとリクエストしとかないと、気前の良いサンタさんには 余計にお金を使わせるばっかりだって、ね。 − 終 − ≪TextTop≫ ≪Top≫ *************************************** 150,000Hit Thanks! もし、お気に召されましたなら、お連れくださいませ。 ご連絡、リンクの有無、サイトの傾向等は問いませんが、いずこかに拙宅サイト名を 明記してくださいますよう、お願いします。 分割掲載、背景、文字色等レイアウトも自由に変更していただいて構いません。 (背景画像についてはDLFではありません。) DLF期間は本日(2007.12.8)より12.24までといたします。 * DLF期間は終了いたしました。 * ※1箇所訂正いたしました。最後のメール部分は (誤)To 桂木弥子 (正)To 笹塚衛士 となります。弥子ちゃんが送信する側だから、宛先は笹塚さんの筈…。(汗) ご指摘、ありがとうございました!修正は2007.12.12 22:00頃に行っています。 カップリングの特色が出て面白いので、イベントネタは大好きです。 笹ヤコでも一通りチャレンジしてみたいと思っています。 できれば次は、もう少し甘めで。 |