負けるが勝ち



男と女のカンケイで、主導権争いなんて
てんでスマ−トじゃない。


「だいたい、あんたはいつも…!!
 あたしを何だと思ってんのよッ!?」

「ああ?魔女だろ、魔女!!」

「なあぁんですってぇ!!?」

「いっつもてめぇが言ってンだろうが!!!」


ああいうのは、な。
だから、いつも思う。

“負けるが勝ち”

へり下って、おだてて
相手の顔色を読んで、喜ぶ言葉や行動を先回りして
イイ気分にさせてやる。

大袈裟すぎるポ−ズや、歯の浮くようなセリフに
眉を顰めたり肩を竦めるレディ−は多いけれど
本気で嫌がる女は、まず居ない。

丁重に扱われたり、褒めちぎられたりするのが嫌いな人間は、少ねェんだ。

たま〜に『馬鹿にしてるの!?』って怒るレディ−も居るけれど
実はそういう女ほど、カンタンにオチる。

照れとか、警戒とか、意地とかいう化粧を落とすと
自分の価値を認めて欲しくて堪らない不安なオンナゴコロがそこに在る。

俺に言わせりゃ“価値”なんて、“女性である”という事実に勝るモノなんざ
ありゃしないけれどな。

レディ−ってのは、フクザツでデリケ−トで、案外に単純な生き物だ。
ま、男だって、似たようなモンだけどさ。


「サンジさん、何かお手伝いしましょうか?」


けれど困ったコトに、このお姫様は社交辞令慣れしすぎている。
跪いて手を取ろうが、美辞麗句を並べようが、ニッコリ笑って

『まあ、ありがとう』

手強い。

そして驚くべきコトに、対等に扱わないとか、トクベツ扱いするとかで、ご機嫌を損ねる。
今日も今日とて、台所仕事は白魚のような手を荒らしてしまうからと固辞すれば
華のような笑顔を引っ込めてしまう。

大事にされるのを不満に思う女のコってのも、珍しい。

「この船に乗っている限りは、“王女”だなんて思わないで欲しいんです」

…別にそういうコトじゃねェよ。
俺にとっちゃあ、この世のレディ−は皆、プリンセス。
だから誰にも水仕事なんて、させたかない。

「でも、私はそういうのってイヤなんです。
 なんだか、甘やかされているみたいで」

…ビビちゃんは、自分に厳しすぎるからさ。
俺みたいなのにう〜〜んと甘やかされて、ちょうどイイんじゃない?

ニッと笑って言ったら、頬を紅く染めて俯いた。
狙ったワケじゃないけれど、なんだか良い流れでは?

「…けど、それじゃあ私が甘やかされるばっかりで。
 サンジさんにしてあげられるコトが、何にも無いじゃないですか…」

……無茶苦茶カワイイvv
しかも、このリアクションって…

普通、思うよな?
脈アリだって。OKだって。
……フツ〜は、そうなんだけどなぁ〜〜。


「サンジさんの馬鹿〜ッ!!!」


カオを真っ赤にした王女様は、捨て台詞を残してキッチンを飛び出して行く。

後に残ったのは、掠めるように触れた唇の感触と
ブ−ツのカカトで思いっきり踏んづけられた甲の痛み

……はぁ〜〜。


   * * *


「まぁ〜た、ビビを怒らせたって?」

とは、クソマリモと仲直りしたらしいナミさんの弁。
鼻歌でも歌いそうな上機嫌で、みかん風味のマドレ−ヌを頬張りながらニヤニヤと。
…自分の色恋は笑い事じゃないが、他人の色恋は茶菓子にする。
そんなナミさんも素敵だvv

「要するに、サンジ君は女の趣味が偏りすぎてたってことね〜」

…いやいや、ソンナコトはありませんって。
ブロンドからブルネット
グラマラスにスレンダ−
悪女風、知性派、お嬢様タイプに至るまで
食わず嫌いな方じゃないんで、それこそ千差万別ヨリドリミドリ。

「…じゃなくて。
 今まで、自分より年上のいかにも“オトナのオンナ”みたいなのばっかり
 相手にしてたでしょ?」

呆れたように肩を竦めるナミさんに煙が行かないよう、換気扇の下でタバコに火を点ける。
…まあ、それは。
俺の年齢とバラティエの客層から言って、そういう傾向はあったかもしれねェ。

「実は、前から思ってたのよね〜。
 サンジ君には、年下の女の子の方が合ってるんじゃないかって」

…ナミさん、貴女だって俺より年下なんですケド?

「で、ビビはああだから。
 世慣れてて気配りの出来る男の方がイイのよね〜。
 要は、バランスの問題ね」

…バランスねぇ…。
てか、俺のセリフはキレイに無視するワケ?

「健全な恋愛もお似合いってコトvv」

やっぱり無視されたまま、さっさと女部屋に去っていく。
拗ねて膨れてしまったプリンセスの分の、焼き菓子と紅茶を手に。

「あんたは、デリバリ−禁止ね」


キッチンに残された俺は、食器を洗いながら溜息を吐いた。

……健全〜ッ!?
勘弁してくれよ、今更…。

物思いにふける暇もなく、食い意地の張ったクソガキ+トリ共が突撃をかけて来る。

「「「「腹減った−!!サンジ、おやつくれ―!!!(クエックエ〜)」」」」

…だ−も−っ!!
俺はてめェ等のお袋じゃね−っての!!!
まあ、料理人が腹減らしたガキに勝てるワケねェけどよ。


   * * *


夕メシの準備も、そろそろ佳境に入ろうとする頃。
小さく二つ、ノックの音。

火の点いていないタバコを咥えたまま振り向くと、藍色の眸と目が合った。
とたん、ムッとした表情で視線を逸らす。
なのに律儀にも尋ねてくる。

「何か、お手伝いすることはありませんか?」

ココで素っ気無くしたら、怒るかな?泣くかな?
そんなコトを考えている自分に、驚いた。

とりあえず、ムズムズする気分をグッと抑えて。

「え〜と、じゃあ人数分の深皿と、中皿と、サラダボウルを出してくれる?」

「はい!…あ、でも先にこれ、洗っちゃいますね」

さっきナミさんが運んで行った菓子皿とティ−カップをシンクに置いて、シャツの袖をまくる。
そして、俺の目を見てニッコリと

「とっても美味しかったですv」

ああ、君ってば。
気を惹こうとか、OKのサイン代わりとか、計算も何も無しに
そんな笑顔を見せてくれちゃうの?

恋にホンネなんて野暮だという俺のポリシ−は、君には全く通用しない。
じゃあ、こちらも趣向を変えてみましょうか?

「…キスしてもいい?」

 ガッチャン!!

コンマ1秒で壁に張り付いた王女様は、哀れ砕けた菓子皿と俺とを交互に見比べる。
怒るべきか謝るべきか、決めかねているようだ。

予想を遥かに上回るリアクションに、唖然とする俺に気づくと
困りきった表情を浮かべて呟いた。

「断わればイイってものじゃ…。(////)」


レディ−は笑顔が一番で、俺は何時だって負けっぱなし。
けれど、100%本気で怒ったりとか、困ったりとか、そんなカオも無茶苦茶可愛くて
つい、からかってしまいたくなる俺って

……やっぱり、まだまだガキだったりするのかもしれねェ。


“健全な恋愛”とやらが、似合わなくもない程度には。


                                   − 終 −


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暗め切なめ重めの題材が多い当サイトのテキストですが、出来うる限り軽め〜に甘め〜に
してみました。
ええ、出来うる限りです。(汗)

このテキストは“お持ち帰りフリ−”です。
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2003.4.20 管理人・上緒 愛