後日談 今朝、届けられたカモメ新聞の一面が、アラバスタの驚異的な復興を報じていた。 字の読めない船長と剣士のために航海士が張り上げる声を 皆、朝食を待ちながら耳を傾けている。 読み終えた新聞をテ−ブルに拡げると、復興中の街を視察する王女が こちらに向ってニッコリと微笑みかけている。 「お、ビビだ!」 「…ビビだな」 「ビビ……ね」 「ビビ…か?」 「ビビじゃないのか?」 「クェ?」 「ビビちゃんなワケねェだろ?コレがビビちゃんだってんなら…」 出来あがった朝食を並べる料理人の言葉に、一同が振り向く。 「ココに居る“愛しのハニ−”はダレだっつ−んだよ?」 「……サ、サンジさん…。(/////)」 朝っぱらから懐いてくるエプロン姿の金髪男に、固まる空色の髪の少女。 その平和な“新婚さん”な光景を、五人と一羽は冷ややかに黙殺した。 * * * アラバスタを離れ、既に五日が経過した。 もう盗聴の心配も無いだろうと、ビビは持ち込んだ電伝虫でアルバ−ナ宮殿へ連絡を 取ってみることにした。 ちなみに、この電伝虫、ナミ独特のセンスによって“りんりん”と名づけられている。 〔ビビちゃあ〜〜ん!!元気かい!? パパ、とっても淋しいよおぉ〜〜!!!〕 通じるなり、相変らずな親馬鹿振りを爆発させる父に、ビビは苦笑する。 〔ええい、王ともあろう者がみっともない!! 喋るなら鼻をかんでからになさい!!! マ〜ママ〜♪ビビ様、お元気そうで安心いたしました〕 こちらも相変らず、父の“相方”で忙しそうなイガラム。 〔ビビ様!!お食事はしっかりなさってますか!? 睡眠は?とにかくお身体には気をつけて下さいよ!!〕 テラコッタさんも、相変らずだ。 懐かしい声。 懐かしい人々。 そして…。 〔ビビ様…。御心配をおかけいたしました〕 「ペル!?貴方、無事だったの!!?」 〔はい、何とか……。こうして生きてお声を聞くことが出来、これ以上の喜びは ございません〕 「…良かった…!!良か………っ〜〜」 後は涙で声にならない。 そんなビビをサンジは後ろからそっと支え、電伝虫の受話器はルフィの手に渡った。 「おう!トリのおっさんも生きてたのか!! 良かったな〜〜っ!!!」 〔ルフィ君、その節はありがとう…。 今更だが、アラバスタの民の一人として心から礼を言わせてもらう〕 几帳面なペルの言葉に、ルフィは にしししっ と笑って答えた。 「あ〜〜、いいって! それにおれ達、ビビをもらっていっちまったからな!! 悪ぃけど、当分借りてくぞ!!!」 〔ビビ様が笑顔でいて下さることが、我々の望み。 国のことはどうか御心配なさらず…。良い代役も見つかったことですし〕 「ああ!それなんだけど!!」 ナミが横から受話器を攫った。 「ビビから聞いた話じゃ、背格好の似た侍女の女の子に替え玉頼んだってコト だけど、それにしちゃ似すぎてない?今朝の新聞にも写真が出てたし…」 「おう、そうだ!!おれ様のア−ティストの目から見ても、あれはビビだ!!」 「なぁ、ビビって本当は双子だったのか?」 「ビビ、二人いんのか?すっげ――!!!」 「クエックエエ〜〜」 次々に奪い合われる電伝虫とその受話器。 離れてソレを見ているゾロは 「アホか……」 と呟き、ビビにピッタリ寄り添ったままのサンジはと言えば 「ビビちゃん、ホントに心当たり無い?生き別れのお姉様とか妹さんとか…」 と耳元で囁いて、カオを赤らめながら首を横に振るその反応を楽しんでいた。 〔おお!そうでしたな。 実はビビ様とルフィ君達に紹介しておかねばならない者が…〕 突然イガラムの声を遮って、けたたましい笑い声が響き渡った。 〔が−っはっはっは!!あちしよォ〜〜う!!あ・ち・し〜〜!!!〕 「……。」 「………。」 「…………。」 「……………。」 「………………。」 ガチャン!!! 無言で電伝虫を切ったのは、サンジだった。 そのカオには 『世にもオソロシイモノを聞いちまったぜ!!コレは悪夢か!?白昼夢か!!?』 と言うココロの叫びが滴る冷汗と縦線で表現されている。 ジリリリリリリリリン!!!! 早速、鳴り出した電伝虫。 「何だよっつ!!!」 速攻キレたサンジの踵落としから、哀れな電伝虫を救うために差し伸べられた手は、 ゴムだった。 「おう!!」 〔ああ〜〜ら、その声は“麦ちゃん”ねえぇ〜〜い! お・げ・ん・きいィ〜〜!?〕 やっぱり、ビビの声だった。 「…………」 「ビビちゃんッ!?しっかり!!」 それまで呆然と立ち尽くしていたビビが、ふらりと仰向けに倒れる。 「クエェ〜〜!?」 「大変だ!!い、医者ァ〜〜!!!」 「医者はお前だろッツ!!!(びしっつ)」 慌てて抱き止めるサンジの回りをカル−が駆け回り、パニックに陥ったチョッパ−は ウソップのツッコミに我に返ると、薬箱を取りに男部屋へすっ飛んで行った。 「“麦ちゃん”って、もしかして…」 「もしかすると、コイツ…」 ナミとゾロがカオを見合わせる。 ルフィがポン!と手を打った。 「おまえ、“ボンちゃん”か!?」 〔ピン・ポ−ン!あったり〜〜ィ!! さっすが“麦ちゃん”。あちし達の友情には、やっぱり時間は関係ナッスィングねぃ!!〕 コロリと、聞き覚えのある…というか、一度聞いたら忘れられないダミ声が 嬉々として言った。 * * * さて、元・バロックワ−クスのオフィサ−・エ−ジェント“Mr.2”こと “ボン・クレ−(以下、盆暮れ)”とイガラム達の話をかいつまんでお伝えしよう。 立志式のすぐ後、タマリスクの外れで盆暮れと十数名の生き残りの海賊達が行き倒れて いるのが発見された。 “黒檻のヒナ”率いる精鋭部隊との戦いでスワン号を失いながらも、辛うじて無事だった らしい。 彼等を見つけたのが“麦藁海賊団”の追跡のため出払った海軍では無く、アラバスタの 兵士であったこと。 まだ意識のあった盆暮れが王宮へ電伝虫を掛け、自分達がルフィの“ダチ”であると 主張したこと。 そのおかげで、彼等は海軍に引き渡されることもなく、王宮で“働く”ことになった のである。 『あちし達も、この国には悪いコトしちゃったと反省してるのよォう! 償いがしたいのよォ〜〜う!! だから、働かせてぇ〜、ナンでもするわ〜〜』 そして、現在盆暮れは“ビビ王女”の替え玉としての公務に追われ、彼と共に生き残った 部下等はカルガモ部隊の世話を任されているのだという。 …以上、説明終り。 * * * 「…ちょっと待って! 私、Mr.2に顔を触られた覚えなんてないわ!! なのに、どうして……」 チョッパ−の手当てとサンジの“愛情タップリいまだかつてない特製気付けドリンク”で シャッキリしたビビが、もっともな疑問を述べる。 〔ソレはねぇ〜〜い、あちしの“モンタ−ジュ機能”を駆使して、丸一晩かかって やあぁ〜〜っと完成したのよぉう!! まぁあったくコイツ等、ウルサイのよぉ!! 『ビビちゃんのオメメはもっとパッチリしてる』だの『ビビ様のお口元はもっと小さ くて品がある』だの『お声はもっと澄んでいて可愛らしい』だの、しゃべり方から なにからなにまで……おかげで〕 カシャリと音がして、また声が変った。 〔あちし、今じゃす〜っかり、“プリンセス”よォ?〕 このオカマは、今、いったいどういう格好で電伝虫の前にいるのだろう? あの妙ちくりんなプリマ(?)の衣装なのか、それとも王女の正装なのか…。 …どちらにしても、あまり想像したくない。 また、眩暈を起こしてヘタリ込みそうになるビビを支えながらサンジが怒鳴る。 「だから、“ソノ声”でしゃべんじゃねェ!!!」 〔あァ〜〜ら、“プリンス”ちゃんじゃなぁ〜〜いvv〕 オカマの声でオカマ言葉で答えた盆暮れだったが、サンジはやっぱりキレた。 「オカマの分際で、語尾にハ−トとばすんじゃねェ〜〜ッツ!!!!」 〔…酷い、サンジさん…。 あの夜、私に“永遠の愛”を誓ってくれた言葉は、やっぱり一時の気まぐれだった のね…!!〕 「そんなコトはねェよビビちゃん!! 俺は何時だって君には、本気の本気………って!?」 はた、と気づいた時は、既に盛大な後の祭。 〔やあァ〜っぱりィ?そォ〜〜じゃないかと思ってたのよおォ〜う。あ・ち・し〜!!〕 〔なんだってェ〜〜ッ!!?〕 〔ビビ様ッツ、まさかッ!!?〕 〔ビビちゃあぁあ〜〜ん!?!?〕 〔おのれ海賊!!成敗してくれるわ!!!〕 〔ぎゃ−っ、きゃ−っ、ちがあァ〜う!!あちしチガあァ〜〜う!!!〕 受話器の向こうでは、どうやら凄いコトになっているらしい。 「アホだな」 「馬鹿だな」 「マヌケだわ」 「エロ眉毛」 「…あ、おれ、もう言うことねぇじゃん」 「クェ〜」 ……そして。 オカマと自分との区別がつかなかったことで、右に 父親達に何の前置きも無くイキナリ二人のカンケイをバラしたことで、左に 王女様から往復ビンタを頂いた料理人は、暫らく許してもらえなかったそうな。 「ビビちゃあ〜〜ん(涙)」 「知りませんッ!!(怒・怒)」 − 終 − ≪TextTop≫ ≪Top≫ *************************************** 一度、セリフの色替えをしてみたかったのですが…。 本当にカラフルですね〜。テキストが画面の華やかさに負けています。 「海賊王女」の流れの中では、盆暮れさんのその後はこんな感じです。 …笑って許してやってくださいませ。(汗) |