ひとやすみ



キッチンのドアを開けたら、とても珍しいモノを見つけてしまった。

丸窓から差し込む午後の日差しにキラキラ光る金髪。
規則正しく上下する黒いス−ツの肩。
この小さな海賊船で一番忙しいコックさんの、休憩時間。

椅子に深く腰掛け、テ−ブルに置いた両腕でカオを囲むようにして
スヤスヤと、その寝息まで聞こえてくる。

躊躇った後、キッチンに身体を滑り込ませ、出来るだけ静かにドアを閉めた。

足音を立てないように近づいて、隣に座る。

ベタッと左の頬をテ−ブルにくっつけて、熟睡しているコックさん。
こんな間近で、じっくりとカオを見るのは初めて。
男の人にしては、首も顎の線も細い。
薄く髭なんか生やしてるけど、コレが無かったらルフィさんやウソップさんと
そう変わらないくらいに見えるかも。

…あ、そうか。
歳より下に見られるのがイヤだから、生やしてるのね。
なんだか、カワイイ。

つい、笑ってしまいそうになって、慌てて口元を両手で押さえる。
…大丈夫、目を覚まさない。

いつもはタバコを咥えている唇の間から、白い煙の代りに漏れる寝息で
前髪が微かに動く。

綺麗だな−、金髪。サラサラで。
触ってみたいな。

…いいかな?いいよね?

そ−っと そ−っと 手を伸ばす。

指先が触れる1cm手前で、突然サンジさんが身じろいだ。


「ん…、ビビちゃ……」


 ドキッ


「ハ、ハイッ!」

思わず、返事をしてしまう。

…けど。


「ナミすわぁあ〜ん、ノジコおね−サマ、麗しのレディ〜・アルビダ、
 ロクサ−ヌ〜〜……(以下略)」


 
でへへへへ〜〜vv


…と、眉毛も口元もダラシナク緩めきったカオ。
ど−いう夢を見てるんだか、推して計るべし。

もうっ。

コテッと、私もテ−ブルに頭をくっつけた。
椅子もテ−ブルも床に固定されているせいか、ふわっと浮き上がって、沈む。
女部屋のハンモックで寝るのとはまた違う、波の響き。

…海に、抱かれているカンジ。

そういえば昨日も一昨日も、あんまり眠れなかったんだっけ。
思い出すと同時にアクビが出た。

気持ち良さそうに眠っている人の姿って、眠気を誘うのかもしれない。
…それに。
タバコの匂いは嫌いじゃない。

そんなことを思いながら、目を閉じた。



   * * *



…ああ、空を飛んでいる。

まず、そう思った。
だって目の前一面、空色だったからさ。

これって夢?すげェイイ夢?

もう一度、目を閉じかけて甘いニオイに意識を覚醒させる。
シャンプ−とリンスと、お手入れ程度の化粧品の…
間違(まご)うことなき、女のコのニオイ。

…あれっ?あれれっ??

どっと押し寄せる記憶に、混乱する。
何処だよ、ココは?カタイし痛いし、ベッドじゃね−だろ?
何時の間に、俺……。

跳ね起きたとたん、空色とイイニオイの正体に気づいた。

テ−ブルを一面に覆う蒼い髪。
頬に影を落とすほど長い睫毛をピッタリと閉じて。
砂の国のプリンセス、今は“眠れるキッチンの美少女”。

…ビビちゃん?なんで−!?

つい、大声を出しちまいそうになって、慌てて口元を両手で押さえる。
…大丈夫、目を覚まさない。

ああ、そうだ。
晩メシの準備を始めるまでの空き時間に、仮眠を取っていたことを思い出した。
いつもは男部屋のソファ−で横になるんだが、
ウソっ鼻が“ナントカ星”とやらを作ってやがって、ゴソゴソとクソ五月蝿せ−んで
仕方なくキッチンのテ−ブルに突っ伏したんだった。

…で、何でビビちゃんが俺に添い寝してくれてるワケ?

ベタッと右の頬をテ−ブルにくっつけて、熟睡しているプリンセス。
超至近距離にある白い顔。
これこそ、まさに“据え膳”。

ホッペはふっくらして、桃みて−だし。
唇はつやつやして、サクランボみて−だし。
美味しそう…。

…いいかな?いいよな?

そ−っと そ−っと 顔を近づける。

唇が触れる1cm手前で、突然ビビちゃんが身じろいだ。


「ん…、サンジさ……」


 ドキッ


「な、なに?」

思わず、返事をしてしまう。

…が。


「…の女ったらし、軟派で軽薄、
 ぐるぐる眉毛のエロコック……(以下略)」

 むうううぅ〜〜。



…と、眉根に縦皺を刻んで唇もヘの字にひん曲げて。
ビビちゃぁあ〜〜ん。(滂沱〜)
君の中の俺って、そ−いうイメ−ジなワケ!?

イヤ、しょ−がねェけどさ…。

少し気温が下がっているのに気づいて、ジャケットを脱いで
キャミソ−ルの肩に着せ掛ける。

昨日も一昨日も、あんまり眠ってねェんだろ?
だから、もう少しおやすみ。

晩メシがチョットぐらい遅れたって、どってことねェし。
気にするなら、手伝ってもらうし。
…どうせ、そのつもりでキッチンに来たんでしょ?

とりあえず、今しばらくはプリンセスの安眠の邪魔が入らねェよう
見張りでもしてっかね?

足音を立てずにキッチンを出ようとすると、小さく呟く声がした。


「でも、………き」


…寝言か。
よく聞き取れなかったけど、ま、イイや。

安らかな寝顔を目の奥に刻み付けながら、出来るだけ静かにドアを閉めた。



階段に腰を下ろしてタバコに火を点ける。
中央甲板にはカルガモを枕に大の字になって寝こけるクソ剣士。
船首にはクソゴム船長。
てめェ等、あと一時間はそうしてろ。

最初の一服を吐き出していると、みかんの手入れでもしていたのか
後部甲板から降りてきたナミさんに声を掛けられた。


「サンジ君、熱でもあるの?カオ、赤いわよ」



                                   − 終 −


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5桁の大台を記念して、甘さの限界に挑戦してみました。
それでも、こんなモノで…。(汗)

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なお、フリ−期間は2003.9.2〜未定です。
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カウンタ−の区切りごとのDLFは、「短編」で「単独で読める内容」で「新作」を書くという
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ええ、普段は「長編」や「マニアックなシリ−ズもの」や「再録」ばかりですので…。(汗)
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2003.9.2 管理人・上緒 愛