ぼくらは少年海賊団 「今朝もやるんだな?」 と、にんじんがたずねる。 「やるさ!!」 と、ピ−マンが答える。 「いくぞ!!!」 と、ぼくは言う。 三人で空に向かって大きく息をすう。 そして、声をそろえて村につづく坂道をかけおりた。 「「「海賊がきたぞ−っ!!」」」 ぼくらが走った後から、バタンバタンとたくさんの家のドアが開いて ホウキやモップを持った大人たちがとび出してきた。 みんな、コワイカオで口々に言う。 「このホラ吹きボ−ズども!!」 「今日こそは、とっちめてやるぞ!!!」 「待て、このクソガキ−ッ!!!」 「うわぁ、きたきたきた!!」 後ろをふり返ったにんじんが、走るスピ−ドを早める。 「べ−だ、追いついてみろォ!!!」 ピ−マンは、オモチャの剣をふり回しながら舌をだす。 「わあああああああ!!!!」 ぼくは、ひたすら走りながらさけぶ。 毎朝こんなんだから、ぼくらはとっても足が早くなったんだ。 今ならきっと、キャプテンにだって負けないぞ。 走って、走って。 林まで逃げこんだら、もうだいじょうぶ。 「くそっ!!また逃げられた!!」 「アイツと同じで、逃げ足だけは早いな」 「まったく、人騒がせなガキどもだ!!!」 「ホラ吹き小僧が居なくなって、少しは静かになると思ったら 三人に増えちまったぜ」 よじ登った木の上から、こっそりのぞく。 よし、今日もぼくらは村のみんなにキャプテンを思い出させることに成功したぞ。 ゆうかんなる海の戦士、“われらが船長”キャプテン・ウソップを。 * * * キャプテンの後をついだぼくらが、ウソをつきながら村をかけおりた最初の日。 すぐに村の人たちはキャプテンが居なくなったのに気がついた。 戸だなも引き出しも、ぜんぶ空っぽのキャプテンの家を見て、みんなビックリしていた。 昨日の二度目のウソはキャプテンのお別れのあいさつだったんだなって みんなは思ったみたいだ。 悪い羊がいなくなったことも、カヤさんと良い羊のメリ−さんが村のみんなに伝えた。 羊は、元いた船に帰ることになったんだって。 これはウソじゃないけれど、その船が悪い海賊船だってことは村のみんなにはヒミツだ。 ぼくらも、ちゃんとキャプテンとの約束をまもった。 でも時々、キャプテンがどんなに立派だったか、すごく話したくなるんだ。 『毎日ウソばっかりついて、この子は。村中の笑いものだよ』 『クソガキども!! ホラ吹きボ−ズのマネなんかしてると、ロクな大人になれねぇぞ』 『や−い、ウソつき−!ホラ吹き−!!』 ちくしょう!なんにも知らないクセに!! 海賊王のロジャ−よりも、海軍のて−とくよりも ぼくらのキャプテンは、いだいな英雄なんだぞ!!! 言いたいけれど、ぼくはぐっとガマンする。 にんじんとピ−マンも、きっとおんなじだと思うんだ。 いつもは楽しいウソをついて でも、ついたウソは最後までつきとおす。 そうして、だれも知らないところで村を守って戦ったキャプテン。 守るっていうのは、だれも殺されないようにってだけじゃなくて みんなが楽しく笑える毎日も守るってことだ。 だからキャプテンは、スゴイウソつきなんだ。 キャプテンみたいな大人になろうなって、ぼくらはちかった。 ウソつきの酒場の主人に ウソつきの大工の棟梁に ウソつきの小説家に ぜったいなるんだって、キャプテンが船出した海にちかった。 だからお日さまがのぼるたび、新しくなる決心を ぼくらは力いっぱい叫ぶんだ。 母さんにしかられるとか 大人たちに追いかけられるとか ほかの子にバカにされるとか そんなことぐらいでくじけてたら、夢はホントにならない。 なりたい自分になんか、なれっこないって キャプテンがおしえてくれた。 だからぼくらは、じぶんの勇気をふりしぼる。 ぼくらはゆうかんなる旧ウソップ海賊団だ!!! キャプテンの長い鼻が、海の向こうに見えるまで。 ウソがホントになる日まで。 ぼくらの夢が、ホントになる日まで。 * * * キャプテンの家は、今はぼくらのヒミツ基地だ。 人が住まない家は、すぐダメになっちゃうらしいけど ピ−マンとぼくらで屋根の雨漏りや壊れた窓を直してるから いつ、キャプテンが帰ってきてもだいじょうぶだ。 今日もぼくらはヒミツ基地で、これから何をしようかヒミツかいぎをしてる。 半分なくなっちゃった林にはドングリをたくさんうめたけど、あと百コぐらいは うめようか? 村長さんのウラの畑に小鳥…じゃなくて、大怪鳥の巣ができたというウワサを たしかめに行こうか? なかなか相談がまとまらないでいると、コンコンとドアをノックする音。 ぼくらはカオを見合わせると、短剣を手にそっとドアに近づいた。 「……ウソつきは?」 用心ぶかくカベにかくれて、にんじんが合言葉を言った。 答えられなかったら、ぜったいにドアは開けてやらないぞ。 でも、ドアの外から、きれいな声が返ってくる。 「海賊のはじまり」 「よし!!」 ピ−マンがドアを開ける。 「こんにちわ。にんじん君、ピ−マン君、たまねぎ君」 「こんにちわ、カヤさん」 ぼくはカヤさんの持っていたバスケットを受け取った。 焼きたてのクッキ−のイイニオイがして、ぼくらはゴクッとツバをのみこむ。 カヤさんは、とっても元気になった。 時々、ぼくらのヒミツ基地にやってくる。 そういう時はバスケットの中に、おやつを入れてきてくれる。 今日はクッキ−と冷たいミルクだ。 カヤさんは、となり村に通ってお医者さんになる勉強をしてるけど おやしきのコックさんからお料理を習ったりもしてるんだって。 ぼくらがクッキ−を食べていると、カヤさんはまじめなカオで言った。 「あのね、今日はみんなにお話があるの」 「どうかしたの?カヤさん」 「もしかして、あのヘンなさいみんじゅつしがまた村に?」 「わああああ、たいへんだたいへんだたいへんだ!!!」 カヤさんのごえいをするのも、ぼくらの大事なにんむだ。 だって、あのヘンなさいみんじゅつしが村でゴハンを食べていたこともあったし キャプテンがいない今、ぼくらでカヤさんを守らなくちゃ。 ウソップ海賊団がかいさんして、キャプテンの命令は取り消されたかもしれないけど。 ぼくらは、じはつてきに命令をすいこ−してるんだ。 「ううん、そうじゃないの。私ね、少し遠くに行くことになったの。 お医者になる勉強をしに。 …だから、今日はお別れを言いに来たの」 「「「……え?」」」 ぼくらはクッキ−の食べカスがついた口を、あんぐりと開けた。 * * * カヤさんは明日、遠い島に行く。 となり村のお医者さんが、お医者になるための学校をすすめてくれたんだって。 『立派な医者になって、この村に帰って来るわ』 カヤさんは笑って言った。 だからぼくらも、笑って言った。 『そっか−、カヤさんがんばって!!』 『りっぱなお医者さんになってね!!』 『村のことは、ぼくらにまかせてください!!』 『ありがとう』 でも、カラスが鳴くころ家に帰るぼくらは、うつむいていた。 『カヤさんも、行っちゃうのか…。』 『キャプテンのことを知ってるのは、おれたちと良い羊だけになっちゃうんだな』 『5年か6年だって…。キャプテンが帰ってくるのと、どっちが早いかなぁ』 ぼくらはコッソリ服のソデで目をこすったり、鼻をすすったりした。 カヤさんといっしょにいる間は、ずっとガマンしてたから。 だって、ぼくらはウソつきの旧ウソップ海賊団だもの。 自分にウソをついたって、カヤさんを困らせたりしちゃいけないんだ。 * * * ぼくのへやのカベには、あの時の麦わらの兄ちゃんの手配書がはってある。 そのハジっこに写った小さな後姿に、ぼくは赤いクレヨンで○をした。 にんじんとピ−マンのへやにも、同じものがはってある。 カヤさんのへやのカベにもだ。 三千万ベリ−だったしょうきんが一おくベリ−になった時、緑のタワシ頭の兄ちゃんも 手配書になった。 『そのうち、キャプテンも手配書にのるかな?』 『どうかなぁ〜?キャプテンは、かくれるのと逃げるのがトクイだし』 『オレンジの髪のお姉さんの方が、先に手配書にのるんじゃないかなぁ?』 そんな風に言ってるけど、キャプテンの手配書が出たらスゴクうれしいと思うんだ。 ねぇ、キャプテン。 いつかは村に帰ってくるよね? キャプテン、この村大好きだし。 生まれた家も、お母さんのお墓だってあるし。 それに、カヤさんと約束したんでしょ? 『ウソップさんは、言ったの。 「今度この村に来る時はよ、ウソよりずっとウソみてェな冒険譚を 聞かせてやるよ!!」』 キャプテンはウソつきでホラ吹きだけど、約束は破らない男だもん。 ねぇ、キャプテン。 ぼくは小説家になったら、あの時のことを書こうと思うんだ。 約束のことなら、だいじょうぶ。 本の一番さいごには、ちゃんと書いておくから。 『この物語は“ふぃくしょん(ホラ話)”であり、ホントではありません』 明日はいつもより早くおきるし、もうねよう。 だって、ピ−マンが言ってたもんな。 『おれ、ひとつ考えたんだ!!』 * * * 「メリ−、屋敷のことはよろしくね」 潮風に淡い金の髪をなびかせながら、カヤは忠実な執事に言った。 屋敷が抱える何十人もの使用人の筆頭である男は、舵をとりながら大きく頷いた。 「お任せを。お嬢様こそ、お身体に気をつけて勉強にお励み下さい」 「ええ。早く一人前になれるように頑張るわ。 …それから。にんじん君とピ−マン君とたまねぎ君のことも、お願いね」 少女から大人への成長の途上にある彼女は、年下の少年達を気にかけている。 そのことを嬉しく思いながら、メリ−はにこやかに答えた。 「はい。あの元気で勇敢な少年達とウソップ君の話をするのは、お嬢様がご不在の間 私にとって大きな楽しみになるでしょう」 「ありがとう、メリ−。 私、必ずこの村に帰って来るわ」 両親と使用人に囲まれ、甘やかされて育った彼女が、遠い島の遠い町へ 見知らぬ人ばかりの中へ出て行こうとする。 不安が無いといえばウソになる。 けれどカヤは笑ってメリ−を振り返った。 送り出すメリ−もまた、何度も頷く。 二人が乗っているのは、屋敷が所有するヨットだ。 名前は“メリ−・ゴ−・ラウンド号” 麦わら達に譲り渡された“ゴ−イング・メリ−号”とは違い、長い航海をするための 船ではない。 島に沿ってぐるりと回り、反対側にある大きな港に行くために使っている。 そこからカヤは目的の島までの定期連絡船に乗って旅をすることになるのだ。 カヤは海岸を眺めながら、懐かしい故郷に別れを告げていた。 まだ朝も早く、人影は見えない。 水平線では、今日も朗らかに一日が始まろうとしている。 その時、林の中から甲高い声が聞こえた。 小鳥のさえずりにしては少々煩いその声は、何度も何度も繰り返した。 「「「海賊がきたぞ−ッ!!!」」」 “夢”と“願い”という名のウソを叫ぶ少年達に、メリ−は微笑んだ。 そして、船縁で涙ぐむ主人に声を掛ける。 「応えなければならない相手が増えましたね。 お嬢様、貴女は彼等の行為を重荷に思われますか?」 「……いいえ。励みにするわ!!」 カヤは海の香りのする空気を胸いっぱいに吸い込んだ。 * * * 「船の上まで、聞こえるかな?」 と、にんじんがたずねる。 「聞こえるように大声で言うんだ!! カヤさんへの“ハナノケ”だからなっ!!!」 と、ピ−マンが答える。 「ちがうよ!!カヤさんへの“ハナムケ”だからな!!!」 と、ぼくは言う。 三人で海に向かって大きく息をすう。 そして、声をそろえて力いっぱいさけんだ。 「「「海賊がきたぞ−っ!!」」」 ウソつきのやさしい女医さんになる人が、白い小さな船の上で大きく手を振った。 ぼくらが夢をちかった海から、きれいな声が返ってくる。 「海賊がきたぞ−っ!!!」 − 終 − ≪TextTop≫ ≪Top≫ *************************************** 旧ウソップ海賊団の三人が受け継いだ「海賊がきたぞ−っ!!」 ウソップを忘れたくない気持ちだけからなら、何年か後には自然消滅しそうです。 それもまた、成長に伴う過程だと思うのですが、ワンピの世界ならどうかな〜と 考えてみました。 夢も信念も、大きけりゃイイってものじゃない。 自分の意志を貫こうとする彼等は、小さくても勇敢な人生の戦士。 かつての部下もお嬢様も、みんな頑張っているぞ!! キャプテン・ウソップも頑張れ−!!!…というお話です。 昨年に引き続き、お誕生日ネタから外れてごめんなさい。(汗) |